水内良早稲田大学理工学術院専任講師と市橋伯一東京大学大学院総合文化研究科教授らの研究グループは、自己複製、すなわち自分のコピーの合成を触媒する最小のRNAを発見した。
同研究成果は、原始地球にも存在しえた短いランダム配列のRNA集団から自発的に出現したRNA配列・構造を詳しく調べることで取得したもの。英国の王立化学会(Royal Society of Chemistry)が発行する学術雑誌『Chemical Science』に、Accepted Manuscriptとして6月20日にオンライン版で公開された。発表のポイントは、次の通り。
◆RNAが最初の生命システムであるという仮説において、単純で短いRNAから生命の大きな特徴でもある自己複製ができるRNAがどのように生まれたかは謎とされてきた。
◆同研究では、わずか20塩基の短いランダム配列のRNA集団から特定のRNA配列と構造が自発的に出現し、またそれらのRNAを基に、特定の20塩基のRNAが自己複製することを世界で初めて実証した。
◆自己複製という生命に普遍的な現象が、原始の地球に供給された単純な生体分子でも容易に起きた可能性を示しており、生命の起源の解明につながることが期待される。
同研究では、原始の地球にも存在しえた短いRNAが自己複製できることを初めて実証された。この発見は機能をもたない原初のRNA集団と自己複製体の出現の間のミッシングリンクを埋める鍵となり、生命の起源過程の理解を推し進めると考えられる。
今後、同研究で発見した自己複製RNAを基に持続的な複製や進化を実現できれば、単純な分子の複製体がいかにして情報や機能を拡張していくかを検証できる。そのため同研究は、生命の起源過程を紐解いていくための足がかりになると考えられる。
同研究では、原始地球にも存在しえた自己複製RNAを発見したが、持続的な複製や進化はまだ見られていない。今後は、様々な環境条件の調査や分子進化工学の知見を取り入れて、これを実証していく。 また、自己複製RNAはランダムなRNA集団に濃縮したRNA配列 (図1) に基づいているが、そのRNAが最初にどのような機構で生じたかは明らかではない。例えば、様々なRNAが複雑に相互作用して生じた可能性が考えられるため、この点についても調査を進めていく。