産業保健活動の悩み1位は「マンネリ化」 ドクタートラストがアンケート結果

知りたいタイミングでの情報提供がマンネリ化打破のポイントに

 国内最大級の産業医紹介サービスを実施するドクタートラストは、企業の産業保健活動について実施したアンケート調査結果を公表した。
 調査結果では、昨今のオンライン対応による産業保健活動になり「コミュニケーションが難しい」、「従業員の業況が把握できない」など以前とは性質の異なる課題が浮上してきた。その一方で、「マンネリ化」、「温度差」といった従前同様の課題を抱えている事業場も少なくなかった。
 同アンケートは、2022年11月22日~2023年1月28日までの期間、ドクタートラストメールマガジンのアンケートフォームURLを用いて実施され、全国の産業保健活動を担う衛生管理者や人事総務部門者186人が回答した。調査結果の概要及び詳細、各課題を解決するための保健師アドバイスは次の通り。

【調査結果の概要】
・ 衛生委員会の開催にあたっては、およそ半数が何らかのかたちでオンラインを活用している

・ 衛生委員会の毎月実施における大きな課題は「テーマや内容のマンネリ化」

・ 委員間での、または社内での産業保健活動への温度差や、産業医の出席の少なさへの課題感も少なくない

【アンケート結果】

① 衛生委員会の開催状況~半数の企業は何らかの形でオンラインを活用~
図1

 最初の設問では「衛生委員会の開催状況」を尋ねた。
 衛生委員会とは、労働安全衛生法に定められている制度で、従業員数50名以上の事業場では毎月の開催が義務づけられている(業種などによっては「安全衛生委員会」)。
 労働者の健康障害の防止や健康の保持増進に関する取り組みなどの重要事項について、労使一体となって調査審議を行う場であり、産業保健活動の軸といっても過言ではない。

 「衛生委員会の開催状況」について、全体の4割強にあたる81社では現在、対面で開催を行っていることがわかった。一方、対面とオンラインシステムを併用している事業場が67社、完全にオンラインで行っている事業場が23社であり、全体のおよそ半数は、なんらかの形でオンラインシステムを活用している。

② 現在の衛生委員会で課題に感じていること~マンネリ化、温度差~
図2


 2つ目の設問では、現在の衛生委員会で課題に感じていることを尋ねた。

 衛生委員会は月に1度の開催が義務付けられているため、94社と半数以上の企業が「議題のマンネリ化」を感じているようだ。
 また、衛生委員会のなかに、熱心な委員と消極的な委員がいるなどメンバー間の温度差を感じている企業も少なくない。

 「会議内でのコミュニケーション」は、オンラインシステムで開催する企業ならではの課題といえる。また、10の企業が「産業医の出席が少ない、できていない」を課題として挙げている。

その他の回答内容(一部抜粋)
・ 発言者が限定的になっている

・ 産業医からの説明だけにとどまり、社内の検討事項などが議論されていない

③ 産業保健活動全般で感じていること~なかには前向きな声も~

 最後の設問は自由記述とし、回答者の皆さんが産業保健活動全般感じていることを書いて貰った。
 その結果、活動のマンネリ化や、関与する人のなかで温度差が見られるといった点が多く挙げられた。
 その一方で、衛生委員会をうまく利用したいといった前向きな声も聞かれた。

回答内容(一部抜粋)

<衛生委員会、産業保健活動の盛り上がりに関して>

・ ネタが尽きてきている

・ 発言者が決まっている

・ テレワーク勤務の社員が多く、職場環境に関する改善点などの意見が出にくくなっている

・ 議題がない

・ 衛生管理者で用意した資料と産業医の意見だけになってしまう

・ 質疑応答が少なく、発言者が限られる

・ 職場環境が比較的恵まれているため、物理的な安全衛生面の課題が少なく、委員会がマンネリ化しやすい

・ 議題があいまいになってきている。意見交換会になっている

・ 衛生管理者以外の委員からの意見出しや提案がほぼない。委員会内でも常に受け身であるため議題が膨らまない

<社内への意識浸透>

・ 健康意識の低い人に対してリテラシーの向上にどう取り組むのがいいのか悩ましい

・ 社員によって温度差があるので、一律の浸透が難しい

・ 委員会以外の社員へのアピールが難しい

・ 委員および社員が衛生に対して関心が薄い

・ 管理職と経営層の意識改革が必要であると感じている

・ 各種ハラスメントに関する認識が社員各人低い

・ 委員以外の職員に産業保健活動へ参加してもらうためのナッジなどを知りたい

・ 社員への周知徹底が難しい

・ 真剣に取り組む上層部が少ない

・ 危険に面することが少ないためか、活発な意見交換が行われているとは言えない

<情報の課題>

・ 自社のやり方はわかるが現在のやり方が最善策なのかわからないので他社のやり方を研究し改善していきたい

・ 事業所単位で実施しているが、本社部門から種々情報などサポートがあるとありがたいと思っている

・ 他社がどのような委員会運営をしているのか知りたい

【保健師に聞く、「産業保健活動のアドバイス」】

清氏

清あいり氏(ドクタートラスト 保健師)
マンネリ化を打破するには、「話題性」と「年間イベント」が効果的

 産業保健活動や衛生委員会のマンネリ化で悩んでいる企業は186社中94社と少なくない。原因は、以下が挙げられる。

・ 年間行事があまり変わらないため、新たに話し合うテーマがない

・ 社内で話し合いが必要な事象が発生していない など

 まず、社内での健康課題があれば、それを衛生委員会メンバーへわかりやすく伝え、共通の問題意識を持ってもらうことが重要だ。それができてこそ、解決策を話し合う次のステップに進める。
 さらに、人の関心を引く秘訣は、「知りたいタイミングでの情報提供」である。「ニュースで取り上げられていた」「季節にかかわるテーマ」など、旬のタイミングを逃さず扱っていきたい。
 ほかには、厚生労働省ウェブサイトにある年間行事予定のページも活用できる。

厚生労働省「令和5年度(2023年度) 年間行事予定(週間・月間)」

 このページによれば、5月31日~6月6日の「禁煙週間」や10月1日~10月7日が「全国労働衛生週間」が開催されるとわかる。イベントに合わせてのテーマ設定もおすすめだ。
 また、社内で話し合いが必要な事象が発生していないのであれば、次のような取り組みで、委員が発言しやすい雰囲気を作る、進行役が発言を促す声掛けをするなども工夫できるポイントだ。

・ ヒヤリハット事例について話し合う

・ 全員で職場巡視を実施し気づいた点を挙げる

・ 衛生委員会で取り扱いたいテーマについて委員会メンバーにアンケートを実施する 

 ドクタートラストでは、ウェブサイト「衛生委員会ハンドブック」を運営し、議題としてそのまま使えるPDF資料を無料で提供している。毎月さまざまな内容を扱っているので、多忙で衛生委員会の資料作成に時間を割くことができない、新たな知識を学ぶ機会が少ない人は、自社のテーマに合うものをぜひ活用して頂きたい。また、無料メールマガジンに登録すれば最新のテーマ資料が手元に届く。

社内の健康課題を自分事として委員に受け止めてもらう

 衛生委員会メンバーのなかで温度差がある場合は、社内にどんな健康課題があるのか、このまま放置しておくと会社全体にどのような影響を与えるのか、具体的に示していく必要がある。会社の問題を自分の問題としてとらえられない限り、なかなか興味や関心を持たないものだ。委員が社内の健康課題を自分事として問題意識を持ってもらえるようにわかりやすく説明し、一緒に解決策を模索していこうと伝えてみてはどうか?
 たとえば、事前に議題を周知し考えてもらう、委員会で1人1回は発言してもらうようにするなどができる。

イベント後には、アンケート実施で社員の声を聴く

 衛生委員会メンバーの課題と同様、社内全体への意識浸透のうえでも、会社の問題を自分事と考えられなければ変わらない。人の意識を変えるのは簡単にできるものではなく、徐々に浸透していくものである。焦らず着実に進めていく必要がある。
 社内の健康イベントなどを実施した際は、衛生委員メンバー以外の声を聞く良い機会なので、アンケートを実施するなどをして、意識改革や周知活動にはどんな課題があるのかを分析してみよう。

企業から産業医への積極的な働きかけ、情報提供で「一緒に取り組む」姿勢

 産業医の参加意欲などに課題感を抱いている場合は、まず企業側から「先生にこんなことを期待している」、「うちの会社はこんなことに力を入れている」と考えを共有しつつ、どのように関わってほしいのかを伝えてみよう。企業と産業医が「一緒に模索していく」という姿勢での取り組みが重要である。
 具体的な方法としては、産業医と相談しながら年間の衛生管理計画を立案し、衛生委員会の中で産業医の講話を依頼する月、産業医が所感を述べる月(健診結果に関することなど)を事前に決めておくなどができる。企業が産業保健活動を積極的に取り組みたいと考えているのに非協力的な産業医はいないはずだ。
 産業医へ直接思いを伝えるのが難しい場合には、産業医紹介業者や保健師などの医療職の協力を得て確認してみる、また思いを伝えたうえでも改善が難しい場合には、産業医と企業との相性もあるので、契約更新時に新たな産業医の選任を検討するのも一つの方法である。
 ドクタートラストでは、産業医の紹介業務を行っているので相談可能だ。ドクタートラストでは、これまでの経験を活かし、企業向けの健康教育セミナーや、情報発信を積極的に行っている。

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