年齢や性別を問わず多くの人が悩まされている便秘。令和元年の国民生活基礎調査によれば、便秘に悩む人は60代前半までは圧倒的に女性が多いが、それ以降は男性も増え、70代後半では男性の方が多くなっている。高齢者にとっては、男女共通の悩みである便秘。他のさまざまな疾患にも大きく関わってくるため早期に改善することが重要である。そこで、ビオフェルミン製薬のニュースレターに掲載されている便秘の注意点や対策を紹介したい。
【高齢者で便秘が増える原因とは?】
便秘を疑ってみる基準は『3 日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感や膨満感がある状態』とされている(日本内科学会の定義)。高齢者に便秘が増える主な原因としては次の要因が考えられる。
① 食事量(食物繊維摂取量)の減少
年齢を重ねるとともに食事量が減って、便のかさが減り排出しにくくなる。また、食事量が少なくなることで食物繊維の摂取量も減少する。食物繊維は、腸内環境を整える善玉菌のエサになる働きや、便のかさとなり腸内をお掃除する働きもあるので、摂取量が減ると便秘につながる。
② 水分摂取量の減少
高齢になるにつれて、のどの渇きを感じる機能が低下したり、トイレが近くなるのを気にして水分摂取を控えたりと、水分不足になりやすい傾向にある。すると便に含まれる水分量も減少して便が硬くなり、排便がしづらくなる。
③ 筋力や腸の働きの低下
加齢や運動不足に伴う筋肉量の低下で、便を出す力も弱まる。また、腸の働きが鈍くなると便が腸内にとどまる時間も長くなり、便から必要以上に水分が減ってしまうため、便が硬くなってしまい出にくくなる。
④ 便意を感じにくくなる
高齢になれば直腸の知覚が低下してしまい、便が肛門近くに到達していても便意を感じず、排便の機会を逃してしまうという現象が起こる。
⑤ 病気や薬剤の影響
罹患している疾患や飲んでいる薬が原因で便秘になるケースがある。
⑥ 姿勢の悪化
姿勢の悪化で骨盤の位置が変化したり、腰痛になったりすることで、思うように腹圧をかけられなくなり、便秘になる場合がある。
【まずは便秘を正しく知る! ~便秘は回数だけじゃない!~】
週1回の排便でも不快感なく生活している人もいれば、毎日排便があっても残便感に悩まされている人もいる。そこで、重要になるのは自分が便秘かどうかを正しく認識することである。便秘と言えば、「便が出にくい」「トイレに行く回数が少ない」などのイメージをもたれがちですが、実は「便は毎日出るけど量が少ない」「排便後スッキリ感がない」といったことも便秘症状の一つである。便秘を正しく理解して、症状改善を心掛けよう!
次に挙げる事柄は、便秘診断の目安になっている。便秘で受診する際には、回数以外の悩みも医師に伝えるようにしよう。
便秘の目安
・ 排便の回数
・ 排便困難:便を出すのに苦痛を伴う
・ 残便感
・ 腹痛
・ 排便に要する時間
・ 排便しようとしても出なかった回数/24 時間
・ 排便の補助(下剤や浣腸)の有無
・ 便秘の病悩期間(年)
Agachan F,et al:Dis Colon Rectum 39:681-685,1996 より作成
【高齢者にとって便秘は危険なサイン!?】
<脳卒中、心筋梗塞にも影響>
便秘は脳卒中、心筋梗塞など血管が詰まったりする病気を増やすことが分かってきた。2016年に日本で行われた研究では、「排便が4日に1回以下の人は、1日1回以上排便する人と比べて心血管リスクが約1.4 倍にもあがるという結果が示さした。
トイレでいきむと血圧が上がることも要因の1つである。
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<腸と腎の関係も近年明らかに>
腸と腎も互いに影響しあっていることが明らかになってきた。慢性腎臓病の進行が腸内環境の悪化を招き、それによって尿毒素が蓄積され、慢性腎臓病がさらに進行するといった悪循環が起こるといわれている。慢性腎臓病(CKD)患者のうち特に透析が必要な人の便秘の有病率が非常に高いことも報告されており、排便管理の重要性が指摘されている。
<フレイル・サルコペニアの患者は便秘の重症度が高い>
高齢者の健康で近年クローズアップされているのが、加齢により身体が衰
えたり認知機能が低下するフレイルと、筋肉量の減少により身体機能が損なわれるサルコペニアである。
65歳以上の外来患者を対象に、フレイルと腹部症状の関係を調べた調査では、フレイルの方はフレイルではない患者よりも便秘の重症度が高いという報告がある。
同様に、サルコペニアと便秘の関連性についての調査でも、サルコペニアの患者は便秘の重症度が高い結果となり、便秘と相関関係にあることが分かっている。
<気をつけたい関連疾患> 便秘になれば、硬い便を出そうといきむため痔になりやすくなる。また、大腸ポリープや大腸がんが原因で便秘になっているケースもあるので、長く続く場合は早めに受診しよう。
【自分に合った生活習慣で“排便ルーティン”を作ろう】
水分不足や腸の動きの低下に加えて、腸内環境の悪化も便秘の原因になるため、便秘対策として腸内環境を整えることも重要である。腸内環境を整える生活習慣を身につけ、自分なりの排便ルーティンを確立しよう。
<主な便秘対策>
① 毎日朝食を食べ、繊維質が多い食事を意識する
朝起きて水を飲む、朝食を食べるなど腸に刺激を与えることで便意を促すきっかけになる。朝、家を出る前にトイレに行く時間を設けると排便習慣も身につけられる。
また、水溶性食物繊維は便をやわらかくしたり、有害物質を吸着する働きがあるため、意識して食べるのがおすすめだ。
◆水溶性食物繊維を多く含む代表的な食品: ニンニク、らっきょう、ごぼう、山芋、オクラ、芽キャベツ、アボカド、インゲン豆・大豆などの豆類、きのこ類、さつまいも、大根など
② 水分をしっかり摂る
水分不足になると腸の内容物が腸内を通過しづらくなったり便が硬くなる。便の約8 割は水分でできているため、こまめに水分を摂ることで便の状態を整えよう。
③ 乳酸菌などのプロバイオティクスを摂取する
プロバイオティクスとは、体によい影響を及ぼす微生物や、それらを含む
食品のこと。プロバイオティクスを摂取すると腸内環境がよくなり、排便回数
が増加するなど便秘の改善につながる。
◆プロバイオティクスの代表的な食品:ヨーグルト、発酵食品(味噌、漬物、納豆など)
④ おなかまわりのお悩み解決トレーニング(NEW) 腸を動かすためにおなかの筋肉はとても大切だ。おなか周りには、横隔膜・腹横筋・腹斜筋・腹直筋があり、これらを動かすことで腸のぜん動運動は促される。2つのエクササイズー「寝ておこなうドローイン&ヒップリフト」「座っておこなうドローイン」ーで腸の機能をサポートする大切な筋肉を鍛えて腸の動きを活発にしよう。これらの筋肉は体幹の一部でもあるため姿勢改善にもおすすめだ。
⑤ 排便を促す腸の5点押し、のの字マッサージ
腹筋を鍛えたり、おなかをマッサージすることにより、腸に刺激が与えられて排便が促される。屋外に出づらいときは、屋内で腸を意識したトレーニングやマッサージを行えば、腸周りの筋肉を鍛え、腸を刺激するとともに、便を押し出す力を鍛えることができる。
⑥ コミュニケーションと孤食に配慮
高齢者の便秘解消にはご本人に加え、家族など周囲の人の毎日の気配りも大切である。高齢者が訴える体の不調には精神的な要因がかかわっている場合も多いので、コミュニケーションをよくとり不安を取り除いてあげよう。
また、孤食は食欲低下の原因にもなるので、できるだけ誰かと食事をすることも重要だ。
⑦「排便日誌」をつけ、自分なりの排便ルーティンを確立する
「時間がない」「便意がない」などの理由で、朝トイレに行かない人も少なくないのではないか?便意がなくても、決まった時間に行くことが大切。毎朝のトイレが日課になるように習慣づけよう。
また、排便状態を把握するのにお薦めなのが排便日誌。回数や時間、便の硬さ、また食事や水分量、服薬状況などの記入により、身体の変化にいち早く気づくことができる。
※ビオフェルミン製薬では排便日誌として「腸から健康日誌」を制作。全国の病院を通じて無料配布している。
<便秘対策におすすめの成分:乳酸菌・マグネシウム>
名前はよく聞くものの意外とどのような成分なのか知られていない「乳酸菌」や「マグネシウム」は、ともに便秘におすすめの成分で、毎日の食事に摂り入れることも可能である。
△乳酸菌とは
炭水化物などの糖を消費して乳酸をつくる細菌の総称です。腸内にすむ細菌のバランスを整えることにより、健康に役立っている。乳酸菌の種類は多種多様で、腸内を酸性側に傾け腸内の腐敗を抑えたり、腸のぜん動運動を助けて便秘を改善する効果がある。
発酵食品などにも含まれており、エサになる水溶性食物繊維やオリゴ糖を含む食品(バナナや玉ねぎなど)と一緒に摂るのがおすすめだ。腸内環境は多種多様な菌が共存することが理想的なので、様々な種類の食品を摂るとともに自分に合った乳酸菌を探してみよう。
△マグネシウムとは
マグネシウムは海水などに多く含まれるミネラルの一種であり、骨や歯の形成に必要な栄養素である。
体内で吸収されにくく、腸内に水分を集めて便を軟らかくするため、便秘改善にも効果的と言える。
穀類や豆類、海藻類、魚介類、果物などに多く含まれ、毎日の食事でバランスよく摂ることがお薦めだ。
【便通改善効果がある整腸薬と便秘薬、その違いは「効き方」】
便秘対策の基本は水分摂取・腸内環境を整える・生活習慣の改善であるが、頑固な便秘への対策には、薬の服用も選択の1つである。ここでは便通改善効果があり、意外とその違いが知られていない「整腸薬」「便秘薬」について解説する。薬のタイプを知った上で、自分に合った薬を選ぶことが重要である。
△整腸薬
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を主成分とするものが多い、比較的効き目が穏やかな薬である。整腸薬に含まれた菌によって作り出された乳酸や酢酸などが、悪玉菌の増殖を抑制したり乱れた腸内環境を正常に近い状態へ整えて、軟便や便秘などを改善する。
△便秘薬
[刺激性成分配合のもの] 腸に直接作用し、ぜん動運動を助ける便秘薬です。腸を動かすことにより排便を促すため、腹痛を伴う場合がある。刺激性の便秘薬には浣腸などが含まれ、便秘改善に対する効果は大きく、即効性もあるが、服用を続けると耐性ができるケースもあるため、レスキュー薬的に使うのが望ましい。
[非刺激性成分配合のもの]
腸ではなく便に作用するため、お腹が痛くなりにくく、クセになりにくいのが特徴である。非刺激性成分として代表的な“酸化マグネシウム”は、便に水分を集め、水の力で硬い便を適度にやわらかくすることにより、お通じをスムーズにする。
酸化マグネシウムは、子どもや妊婦にも処方される場合がある刺激の少ない便秘薬だ。(※医師の治療を受けている人、妊婦または妊娠していると思われる人、腎機能が低下している方等は医師、薬剤師又は登録販売者に相談する)
【ビオフェルミン製薬は、プロバイオティクスによる便秘改善メカニズムを発表】
ビオフェルミン製薬の巻崎寛研究員らは、プロバイオティクスにより腸内菌叢の乱れが改善されることで、腸内の酪酸が増加し、血中のセロトニンおよびアセチルコリンなどの神経伝達物質の分泌が改善した結果、腸のぜん動運動が促進されることで便秘が改善される可能性を見出した。
同研究成果は、『PLOS ONE』(2021 年 3 月 22 日オンライン)に掲載された(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0248584)。
便秘対策には、意識的な水分補給や運動などに加えて、腸内環境を整える生活習慣が重要である。それでも便秘に悩むときは自分に合った薬を選び、用法・用量に従って適切に服用しよう。たかが便秘、されど便秘。特に高齢者は注意が必要である。放置しないようにしよう。