オーストリア政府・技術研究所との連携で天然ガスフリー蒸気発生技術を医薬品産業初の産業応用 武田薬品

 武田薬品は26日、オーストリア政府および同国の技術研究所との連携による、医薬品産業初の天然ガスフリー蒸気発生技術の産業応用を実施すると発表した。
 同技術の産業応用は、オーストリア連邦気候保護・環境・エネルギー・モビリティ・イノベーション・テクノロジー省(BMK)、気候エネルギー基金およびオーストリア技術研究所(AIT)との連携によるプロジェクトAHEAD(Advanced Heat Pump Demonstrator)として展開されるもの。
 AHEADは、オーストリアの科学技術革新(FTI)イニシアティブ「エネルギーフラグシップ地域(Flagship region Energy)」の一環としての産業用新エネルギー(NEFI)プロジェクトだ。
 AHEAD研究プロジェクトでは、天然ガスを使用しない蒸気発生ヒートポンプを初めて生産工程に導入し、ウィーンにある武田薬品の主要製造拠点において、自然冷媒のみを使用した最大90%の二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指している。
 同プロジェクトは、高温ヒートポンプ研究において主導的な役割を果たすオーストリアによって支えられており、医薬品産業全体ならびにCO2排出量の削減を目指す他産業の企業およびセクターへの実例となることを目標としている。
 同プロジェクトでイノベーションをもたらしたのは、蒸気発生ヒートポンプだ。これは100%自然冷媒のみで動作し、蒸気圧縮機と併用することでこれまでで最高の熱回収温度を達成する。
 AHEADシステムにより、同社の製造に必要な蒸気供給の温度である184℃を超える200℃~260℃の温度に到達できる。
 医薬品製造には、冷却、化学的・生物学的プロセス開始、また熱と蒸気を使った無菌製造環境を確保するために、大量のエネルギーを消費する。
 これまで、医薬品製造プロセスにおける熱需要の大部分が、主に天然ガスによって作り出されてきた。
 AHEADプロジェクトでは、天然ガスがSustainable Process Heat社の革新的な蒸気発生ヒートポンプシステムに置き換わり、蒸気圧縮機と併用することで11 bar(a)/184℃の蒸気を発生させる。
 ウィーンにある同社の主要製造拠点では最大90%のCO2排出量削減と1年あたり7ヵ月間のCO2排出量完全ゼロを達成する。これは1年あたり1900トンのCO2に相当し、2035年までに同社事業における温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するという目標達成に寄与する。
 研究プロジェクトの一環として、オーストリアおよび世界にある他のタケダ拠点にもAHEADシステムを導入するためのコンセプトを策定する。さらに、製紙産業、化学産業および食品産業などのエネルギー消費量が高い他の重要な産業分野についても、AHEADシステムを用いた脱炭素の可能性を模索中である。
 AITエネルギーセンターは、包括的システムモデルに基づき、AHEADシステムおよび熱源(冷熱供給からの余熱)の最適な運用戦略を開発する。また、CO2排出量削減の可能性を探る新規アプローチを策定中だ。
 これらの実現のために、プロセス要件および予想されるプロセス変更、プロジェクトの経験に基づく高温ヒートポンプの学習曲線ならびに統計データを組み合わせて、総合的な視点で検討を進めていく。
 AHEADプロジェクトの技術的基盤は、ウィーンにある当社の製造拠点で既に稼働中の、100%自然冷媒を使用したCO2ニュートラルエネルギーセンターにある。これらの冷媒は高効率で、CO2を排出しない。
 また、敷地内の冷熱の集中管理により、熱回収も同時に行える。冷却システムの余熱を再利用し、ヒートポンプを用いて65℃~70℃に加熱している。このシステムは現在、敷地内の水の加熱に使用されている。
 運用開始後、AHEADは特殊なヒートポンプにより水加熱システムから熱を回収し、その熱で蒸気を発生させる予定である。AHEADは2024年末に運用を開始する見込みで、AITによる研究目的での同プロジェクトの最終評価は2025年末に計画されている。なお、同プロジェクトは、気候エネルギー基金から資金提供を受けている。

◆グンター・バウムガルトナー武田薬品グローバルエンジニアリングヘッドのコメント
 当社では、環境負荷低減への取り組みを効果的に促進するためには、連携が欠かせないと考えている。連携により、当社は現在利用可能な最高の技術を活用できるようになる。あらためて、我々の環境への姿勢を体現するこの先駆的なプロジェクトを支援できることを大変光栄に思う。

◆マイケル・フィッシャー武田薬品グローバルエンバイロメント&サステナビリティのヘッドのコメント
 2035年までにグローバル事業における温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するためには、大胆な行動と、可能性の限界を超えることが必要である。AHEADのような革新的なプロジェクトは、我々のネットゼロへ向けた取り組みに欠かせない要素である。

◆Volker Schafflerオーストリア連邦気候保護・環境・エネルギー・モビリティ・イノベーション・テクノロジー省(BMK)エネルギー・環境テクノロジー責任者のコメント
 オーストリアは2040年までに気候変動に左右されない気候中立国になること を目指して取り組みを進めている。この重要なマイルストーンを達成するには、協力して取り組む必要があり、オーストリアの産業界の役割が肝要である。武田薬品との連携は、我々がどのようにして革新的なコンセプトを実現できるかを示す好例である。
 産業、研究および行政が共にソリューションを生み出し、気候およびエネルギー目標の達成に必要な環境が揃った時、オーストリア国民を含めあらゆる人が恩恵を受けることができる。我々の提案は共通の気候目標を達成する主要な手段であると考えている。

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