大阪府薬剤師会(会長:乾英夫氏)は17日、薬局会員を対象に慢性的に不足している医療用医薬品の実態を明らかにするために実施した「医薬品の流通状況アンケート」調査結果を公表した。
同調査は、2020年12月の小林化工の抗真菌薬への異成分混入事故に端を発した後発品を中心とする医薬品不足に伴い、昨年11月18日~30日までの間実施されたもの。
大阪府下3534薬局のうち47.7%に当たる1686薬局が回答した同アンケート調査では、「希望通り医薬品が供給されている」と答えたのは0.12%、わずか2薬局に過ぎなかった。昨年との比較では、「改善された」11.8%、「変わらない」44%、「悪くなった」44%と、全体的には悪化していることが判明した。
同アンケート調査担当役員の羽尻昌功常務理事は、一昨年のアンケート調査と比較して、「今回は、先発品も含めた医療用医薬品が不足している」と指摘し、「新型コロナ第8波やインフルエンザが流行する中で、解熱剤、咳止め薬、袪痰薬などが不足している」現況を強調。
その上で、「地域薬局では、医療用医薬品の全体的な不足への対応に苦慮している。この現状は、薬剤師本来の仕事ができないことに繋がり、国民の不利益になっている」と訴えかけた。
2020年の小林加工の不祥事以降、各後発医薬品メーカーにおいてGMP遵守違反が相次ぎ、販売停止・回収等が頻繁に行われた。この影響を受けて、2022年12月22日現在、2058品目にも及ぶ後発医薬品が限定出荷(日本ジェネリック製薬協会調査)されており、医療用医薬品需要供給体制の非常事態が続いている。その一方で、厚労省は後発医薬品促進の新たな目標として、「2023年度末までに後発医薬品の数量シェアを、全都道府県で80%以上」を掲げている。
発注しても納品が滞り、引いては患者から不信感・不安感を訴えられるケースもある現況において、同アンケート調査は、医療用医薬品の供給に奔走し、国の施策である後発医薬品使用促進に奮励する保険薬局の実情を明らかにし、今後の対応策に活用することを目的に実施された。
今回のアンケート結果結果においても、本来服薬治療のための医薬品を安定的に提供すべき薬局において、患者に安全・安心な医薬品供給に支障ある状況が明示された。
具体的には、希望する後発医薬品が発注数通り納品されている薬局は1686件中わずか2件で、90%以上の薬局が供給不安定で調剤業務に支障がある事態が明らかになった。
また、自由回答欄には、①国の進めてきた「2023 年度末までに後発医薬品の数量シェアを、全都道府県で80%以上」の施策に対しての歪を感じる、②国・都道府県による医薬品製造販売業・製造業許可の適否、③各後発医薬品メーカーの法令遵守、製造能力、備蓄能力等について一層の国の精査が必要、④薬価(中間)年改定への問題、⑤後発医薬品だけでなくすべての医療用医薬品供給の状況の国民への周知、⑥現状の医薬品供給の状況を1点でも解消すべく、地域連携を活用し薬局間で分譲し医薬品供給を何とか果たしているーなど様々な意見が寄せられた。大阪府薬では、こうしたアンケート調査結果をもとに、次の考察を発表している。
【今回のアンケート調査結果の考察と要望】
患者にとって「普段飲み慣れた薬が服用できない、使用できない」事態は薬物治療の崩壊、まさしく「医療災害」であるといっても過言ではない。
一方、大多数の薬剤師は後発医薬品だけでなく、すべての医療用医薬品の供給不足の調整に多くの時間を費やし努めているにもかかわらず、当然のことながら患者にとっては、不満足な結果、納得いかない結果に至るケースも多くある。
後発医薬品に対して品質や安全性に不安・不満を持ち、先発医薬品の供給不足も加わり、服用中止、中断せざるを得ないケースもさることながら、そこから派生し、医薬品供給の責任者である薬局・薬剤師への不信感までにつながるケースも見られる。
このような本来の業務以外の対応に疲弊し、患者に対して満足な仕事ができないと困惑する薬剤師が多数存在することは、結局は国民の不利益につながるといった負の循環に陥っているようにも感じる。
一刻も早く、薬剤師から安全・安心に医薬品を供給できる状態に戻り、国民の健康な生活を確保できるように関係各位に迅速な対応をお願いしたい。
なお、大阪府薬では、「医薬品の流通状況アンケート」調査結果を、厚生労働省医政局長、同省医薬・生活衛生局長、大阪府知事、日本薬剤師会会長、日本ジェネリック製薬協会会長、日本製薬団体連合会会長、日本医薬品卸売業連合会会長などに送付している。
入手が困難な医薬品(後発・先発)上位30品目を含めたアンケート結果の詳細は、次の通り。
設問 12.患者側からみた不利益となった事例についての自由記載(抜粋)(自由記載 32 件)
不安感・不信感の増大 13 件
・懇切丁寧に説明したが、薬剤の見た目が変わったので根本的な不安感が残り、服用を勝手に中止していた
・毎回入荷するジェネリックメーカーが変更になった薬があり、混乱と不信を招いた服用不可・中止 7 件
・変更後,体調変化を不安に思い服用をやめた
・メーカー変更に伴い名称や外観が変わったため飲み間違いが生じた
・後発先発も含めて入手できず、処方医に問い合わせ削除となり、患者さんは薬を服用できなくなった。
迷惑をかけた 10 件
・入荷次第のお渡しとなり、患者は二度手間となった
・院外処方希望だったが院内処方に変更となった
・薬の見た目で自己管理していた高齢者の管理が困難となった
設問 13.現状の医薬品の流通及び医薬品に係わるご意見をお聞かせください(抜粋)
「メーカーに対して」(自由記載 1092 件)
安定供給に関する意見 694 件
現状に対して患者、処方医、国民、薬局等に対しての説明不足に対する意見 164 件
新規発注、納入歴(実績)に対する意見 113 件
GMPの遵守に対する意見 92 件
生産効率の上昇、製造ラインの確保等に対する意見 61 件
出荷調整による入荷不可、調剤に支障、説明が無い等に対する意見 45 件
製造中止による供給中止に関する意見等 45 件
その他
・薬価改正の考え方の見直しを国に対して必要ではないか。類似意見 6 件
・薬価の安い薬ほど欠品している。類似意見 5 件
・他人事の様にとらえないで欲しい
・努力しているのは伝わるが、国民・患者への説明・謝罪は足りていないと思う
・一番不安に思い、困っているのは医療の中心にいる患者である事を認識してほしい
・売りたい商品ばかり製造せず。医療機関が必要とする製品に注力して欲しい
・様々な患者対応への時間、経費責任とって欲しい
・外国に原末依存することへの見直し
「薬局・薬剤師・患者に対して」(自由記載 594 件)
患者様にご迷惑を(変更・供給不可・不足・ご心配等)かけた 177 件
薬局、薬剤師、患者において相互に現状の理解が必要との意見 150 件
医薬品の買占めに対する意見 51 件
地域又は薬剤師会を通じて協力した(したい) 18 件
その他
・いつも飲んでる薬は同じものでお渡しつづけたい。それが安心安全に繋がるから
・治療薬が途切れないように必死で卸会社へ頼んでいる
・薬局同士の連携で在庫を切らさなく対応したい、患者様にも負担をかけているが事情を話せば分かっていただけている。助け合いに感謝している
・一部の大手の薬局による買い占めは謹んでほしい。大量に在庫している店も多いと聞く
・流通不足に対する苦労ではなく、薬剤師本来の患者対応に努力したい
・薬局を廃業したい。在庫を気にしながらの仕事に疲れた
「国に対して」(自由記載 1026 件)
製造業者に対しての要望等を求める意見 398 件
後発医薬品の薬価等対する意見 255 件
医療費抑制、施策等に対する意見 215 件
薬局の現状の理解・周知等を求める意見 169 件
状況下においての調剤報酬等に対する意見 100 件
安定供給できない薬剤の薬価収載削除等を要望する意見 17 件
その他
・薬の変更などに関して薬剤師の裁量を大きくして代替ルールを簡素化して欲しい
・供給不足の現状に応じて患者のために代わりのお薬を提案している努力も伝えて欲しい
・医薬品不足は国民の健康と生命に関わります。行政が介入して国主導で解決するべき
・先進国において,このような事態が起こるのありえない。医療崩壊としか言えない
・国民は後発品の信頼が全くなくなった。後発品への理解を国が国民へ求めるべき
・意見言っても無駄でしょう。財務省は少し黙っててもらえますか
設問 13「その他のご意見」
・現状は災害・医療崩壊です。薬物療法の継続が難しくなっている
・高薬価の薬を大幅に下げ、使用頻度の高い重要な薬は薬価を上げて国内生産体制を構築して安定供給
・「ジェネリック」に対する不信感は「薬局」に対する不信感と考える患者が少ないとは言えない状況にある。国や薬剤師会が推奨してきたジェネリック促進施策が無駄にならないようにしなければ
・マスメディア等の発信が少ない、過剰に報道されるのは困るが、国民は医薬品の流通に滞りがあることを知らない
・医師は医薬品流通の深刻な現状認識して状態を鑑みた上で処方してほしい
・円安による原料高騰など国の根本から変えないといけないと考える
・卸の対応に不満、新規の患者もいる、購入実績を優先しているが、初めて処方箋を受け付けた時ほど大切であり、納品がないと困る
・卸はどうしようもない状況の中で、努力してくれているので、待つしかないと思っている
・日本薬剤師会に対しても国と同様に思う、解決策を考えて欲しい。こういう時にこそ頼りにしているのに期待外れ、会員である意味があるのか
・薬価改定により財源を搾り取るには限界ではないか