さらなる有効性・安全性データ収集によりゾコーバ育薬に尽力 塩野義製薬手代木会長兼社長CEO

手代木氏

 塩野義製薬の手代木功会長兼社長CEOは24日、東京都内で開かれた「COVID-19説明会」で会見し、22日に緊急承認された新型コロナ経口治療薬ゾコーバについて、「ゴールではなく、単にスタートラインに立ったところである」と強調。その上で、「これから真摯に有効性・安全性のデータを収集してゾコーバを育薬していきたい」と抱負を述べた。
 また、ゾコーバがオミクロン株の5症状を24時間短縮する意義を指摘する声に対しても、「今ある3つの新型コロナ経口治療薬の中でウイルス減少効果は負けていない。ウイルス減少は、治療薬として非常に重要なポイントになる」と断言し、「ウイルス減少効果と臨床症状改善の関連データを積み上げていく」考えを強調した。
 新型コロナ感染症の症状改善効果検証については、パキロビッドもデルタ株の下で実施した海外P3試験で失敗している。手代木氏は、「デルタ株もオミクロン株も臨床症状の改善を示す臨床試験には大変苦労している」と明言する。
 その理由は、「1918年のスペイン風邪以来100年の歴史を持つインフルエンザは指標となる7症状が限定されている。だが、3年足らずの新型コロナでは、薬効評価にどの症状を指標にすれば良いかの設定が難しい」からだ。
 こうした中、オミクロン株に関しては、塩野義製薬が世界で初めて症状改善データを明示した。手代木氏は、「これらのウイルス減少効果と臨床症状改善に関するデータによって、韓国、中国、米国においても十分に皆さんのお役に立てると考えている」と自負する。
 また、オミクロン株では、「脱毛」、「精神神経症状」、「記憶障害」、「抑うつ」、「集中力低下」、「倦怠感」、「関節痛」など多彩な後遺症が報告されている。
 上原健城医薬開発本部長は、「コロナウイルスがなかなか体内から排除できずに後遺症が発症している場合は、ゾコーバが治療選択肢の一つになる可能性がある」と述べ、「ゾコーバのウイルス減少効果と後遺症軽減に関する臨床試験を実施すべく、海外の様々な研究機関と協議している」ことを明かした。
 塩野義製薬では、ゾコーバの2023年度売上高として1100億円見込んでいるが、「韓国・中国でスピード審査されれば、その分増収になる可能性がある」と示唆する手代木氏。
 ゾコーバの供給体制にも言及し、「国内は2022年度末までに350万人弱、来年度は1000万人分供給できる。海外では、中国の工場は年末までにフル稼働が可能で、米国の生産拠点も来年早々稼働できる」と述べた。
 ゾコーバの開発状況では、Global P3 SCORPIO-HR試験や、Global P3 STRIVE試験(入院患者対象試験)、Global P 3発症予防試験や、国内で小児を対象とした小児対象試験(P3)が実施されている。
 SCORPIO-HR試験は、アジア圏の治験を元に米国政府100%の資金補助を受けて様々な国々での臨床的有効性を検証するものである。
 上原氏は、「各国でのゾコーバへの期待は大きい。日本でいち早く市販して活用できる環境を整えるとともに、世界各国でもたくさん使って頂けるようにデータ収集に努めている」と力説した。
 国内における市販後安全監視では、①添付文書・医薬品リスク管理計画・同意説明文書等による情報提供、②自発報告、文献・学会情報収集、③登録された全処方患者の副作用の有無をタイムリーに収集・評価・報告する市販直後調査(供給開始より6ヵ月間)、④安全性・有効性情報を迅速に収集・評価する一般使用成績調査 (3000例)ーの4項目が実施される。
 医薬品リスク管理計画では、「中等度以上の肝機能障害患者での安全性確認」、「国際共同第2/3相試験(T1221試験)の第3相パートでの有効性確認」、「一般使用性成績調査3000例」、「妊娠している女性(可能性も含む)、又は妊娠する可能性のある女性への投与に関するお願いの作成と提供」ーなどが示されている。
 100万人分の国の買取下における供給体制においては、施設・処方情報登録確認後、安全性情報の入手のためMRが速やかに対象施設へコンタクトし、ゾコーバの使用実態を迅速に把握。徹底した安全性情報の確認を行い、収集した情報を速やかに公表する。
 岩﨑利信氏ヘルスケア事業管掌兼医薬事業本部長は、「緊急承認の流通なので、今まで以上にMRや様々な媒体を通じて安全監視を徹底していく」考えを強調した。手代木氏は、今回のゾコーバの開発経緯を振り返り、「シーズの同定を皮切りに1年4カ月で緊急承認に辿りついた。従来ならP2段階の途中くらいの時期に当たる。このタイムラインで開発できる経験を他の品目にも活かしていきたい」と明言した。
 一方、塩野義製薬では、同日、開発中の新型コロナワクチン「S-268019」について、国内製薬企業として初の製造販売承認申請を行った。手代木社長は、日本がワクチン開発に出遅れた要因として、①非常事態を想定した平時からの備えの違い、②有事を想定した制度や仕組みの有無、③審査担当官および企業が負う大きなリスク、④ワクチン接種に対する国民への啓発不足(リスクベネフィットの議論)ーを列挙。
 審査担当官の大きなリスクについて、「日本では、審査官個人が訴訟のリスクを負っている。米国では、FDAに対する訴訟はあるが、審査官個人に対する訴訟はない」と指摘し、「日本における審査官個人の訴訟リスクは、なんとか改善して頂きたいと思う」と語った。
 

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