信頼関係の強い組織ほど健康リスク・高ストレス者率は低傾向に ドクタートラスト

 ドクタートラストのストレスチェック研究所が実施したストレスチェックサービスを利用した累計受検者122万人超のデータ分析により、信頼関係の強い組織ほど健康リスク・ストレス者率は低い傾向にあることが判明した。
 2021年度にストレスチェックサービスを利用した組織の結果を分析し、「健康リスク」や「高ストレス者」と職場の雰囲気が安全・安心・ポジティブであるかを数値化したドクタートラストの独自指標「TRUSTY SCORE(職場環境指標)」の関係性を調査したもの。
 その結果、「信頼関係の強い組織のほうが、健康リスクは低い傾向にある」、「信頼関係の強い組織のほうが、高ストレス者率は低い傾向にある」、「信頼関係を高めるために、日々の業務に取り入れられる工夫が必要」などの事柄が明らかになった。
 ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促し、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定され、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。
 ドクタートラストのストレスチェック集団分析では、高ストレス者率や健康リスクなどのほかに、職場環境指標「TRUSTY SCORE」を算出している。「TRUSTY SCORE」とは、組織の信頼関係に着目した職場環境の指標で、①尊重・尊敬、②話しやすさ・自然体、③問題解決・挽回、④助け合い・挑戦の4領域で構成されている。職場環境の良し悪しを数値化し、その原因や特徴を分析できるため、多くの企業がストレスチェックの際に経営指標として取り入れている。
 各領域は、ストレスチェック設問のうち、次の項目から導出される。

<①尊重・尊敬>

・ 私は上司からふさわしい評価を受けている

・  一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ

・ 職場では、(正規、非正規、アルバイトなど)色々な立場の人が職場の一員として尊重されている

・ 職場で自分がいじめにあっている (セクハラ、パワハラを含む)

・ 私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている

<②話しやすさ・自然体>

・ 活気がわいてくる

・ 元気がいっぱいだ

・ 生き生きする

・ どのくらい気軽に話ができますか?(上司、職場の同僚)

<③問題解決・挽回>

・ 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる

・ あなたの個人的な問題を相談したら、どのくらいきいてくれますか?(上司、職場の同僚)

・ 失敗しても挽回するチャンスがある職場だ

・ 職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている

<④助け合い・挑戦>

・ 私の職場の雰囲気は友好的である

・ あなたが困った時、どのくらい頼りになりますか?(上司、職場の同僚)

・ 仕事で自分の長所をのばす機会がある

・ 努力して仕事をすれば、ほめてもらえる

 また、各領域はドクタートラストが算出した全国データをもとにした偏差値、および「A、B、C+、C、C-、D、E」の7段階で総合評価しており、Aに近いほど、信頼関係が強い組織といえる。

調査の概要と結果は次の通り。

【調査概要】
◆調査期間:2021年4月1日~2022年3月31日
◆調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2021年度契約企業・団体の一部
◆企業・団体数:940
◆有効受検者数:32万4642人

【調査結果】
 ドクタートラストの独自指標「TRUSTY SCORE」について、①総合健康リスク、②高ストレス者率との関係をそれぞれ調査した。

1、 「TRUSTY SCORE」が高いほど、総合健康リスクは低い

 健康リスクとは組織の中で疾病休業が発生するリスクを示す指標である。基準値を「100」として、数値が高いほど高リスクと判断するものだ。たとえば健康リスクが「110」の場合、その組織で疾病休業が発生するリスクが、平均より「10%高い」ことを示している。

 健康リスクを「TRUSTY SCORE」の総合評価別に算出したものが表1「TRUSTY SCOREと総合健康リスク」である。

表1

 表1のとおり、「TRUSTY SCORE」の総合評価A群における総合健康リスクの平均値は70であり、疾病休業が発生するリスクは、平均より30%低いことを示している。これに対して総合評価E群では、総合健康リスクの平均値は120であり、疾病休業が発生するリスクは、平均より20%高いことを示している。

 このことから、「TRUSTY SCORE」の総合評価が高いほど、総合健康リスクは低く、「TRUSTY SCORE」の総合評価が低いほど、総合健康リスクは高くなることが判明した。信頼関係が強い組織ほど、疾病休業等の健康問題が発生するリスクが下がるといえるだろう。

2、 「TRUSTY SCORE」が高いほど、高ストレス者率は低い

 高ストレス者率とは、実際に受検をした人の中で、高ストレスと判定された人がどれくらいいるかを示した割合である。2021年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した組織の高ストレス者率の平均は15.0%であった。

<高ストレスと判定される基準>

・ ストレスの自覚症状が高い人

・ ストレスの自覚症状が一定程度あり、かつ仕事の負担と周囲のサポート状況が著しく悪いと判定された人

 表2は、高ストレス者率を「TRUSTY SCORE」の総合評価別に算出したものだ。

表2

 「TRUSTY SCORE」の総合評価A群の平均高ストレス者率は7.3%、総合評価E群の平均高ストレス者率は25.3%であった。「TRUSTY SCORE」の総合評価が低くなるにしたがって高ストレス者率が高まっていくことがわかる。「TRUSTY SCORE」の総合評価が高いほど、すなわち信頼関係が強い組織ほど、高ストレス者率は低い傾向にある。

3、考察
 「TRUSTY SCORE」と総合健康リスクや高ストレス者率の関係を調査した結果、組織の信頼関係が強い組織のほうが、「総合健康リスク」「高ストレス者率」が低い傾向にあると判明した。組織としての健康リスクを下げたい、高ストレス者を減らしたいと考える場合、「TRUSTY SCORE」を高める施策は有用と考えられる。
 ドクタートラストが「TRUSTY SCORE」が良好な組織にヒアリング調査を実施したところ、「職場環境改善の取り組みを単発なものとして捉えず、日々の業務に取り入れる視点」が共通項として浮かび上がってきた。
 また、具体的な施策内容は組織ごとの状況によって異なるものの、コミュニケーションが取りやすく、社員自身が発信できるようなしくみや制度を導入するのはもちろん、それらが気軽に利用できるような工夫がなされていた。
 こられらの調査結果が、多くの企業で活用され、よりよい組織風土醸成に役立てられることが期待される。

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