疾患原因RNAの近縁種と類似二次構造を標的とした薬剤開発に期待
早稲田大学大学院先進理工学研究科博士課程3年の大野悠氏、同大理工学術院の浜田道昭教授らの研究グループは、生物情報科学の手法を用いて、機能を有する未知のノンコーディングRNAを探し出す方法を開発し、分裂酵母細胞内に存在するノンコーディングRNAの中から、性分化を阻止する働きを持つ長鎖のノンコーディングRNAを発見した。
RNA研究において、二次構造に着目することの有効性を示し、細胞の分化・運命決定をおこなう因子としてノンコーディングRNAが多く関わっている可能性を示した。
ヒトの疾患の原因となるRNAについて、同研究で開発した手法で近縁種と類似している二次構造を探し出せれば、その二次構造を標的とした薬剤の開発につながるものと期待される。
これらの研究成果は、Oxford University Press発行の『Nucleic Acids Research』(論文名:Structure-based screening for functional non-coding RNAs in fission yeast identifies a factor repressing untimely initiation of sexual differentiation)に、10月19日に掲載された。
一般的に、細胞の活動に欠かせない実行部隊である酵素などはタンパク質からできているが、タンパク質はもともとDNAの塩基配列がRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、その後RNAからタンパク質に翻訳されてできたものだが、RNAの中にはタンパク質に翻訳されないものがある。これらは、ノンコーディングRNAと呼ばれている。
中でも、比較的長い塩基配列からなる長鎖ノンコーディングRNAは、機能を持たない、つまり「ジャンク」なものだと長い間考えられてきた。
だが、近年、一部の長鎖ノンコーディングRNAが細胞の中で重要な働きを担い、また、がんなどの疾患に関わることが明らかになってきた。従って、従来のようにタンパク質の機能を調べるのみではなく、長鎖ノンコーディングRNAの機能を明らかにしていくことが重要だ。
ノンコーディングRNAは酵母細胞内に約1800種類、ヒト細胞では数万種類存在するが、その中で、具体的な機能が明らかにされたものはわずか1%程度にとどまっている。
そこで、莫大な種類のノンコーディングRNAの中から、細胞内で機能を有する未知のノンコーディングRNAを効率よく探し出し、その機能を解明することが求められている。
これまでに、機能を持つ長鎖ノンコーディングRNAのスクリーニングは数多く行われているが、二次構造に着目したスクリーニングはほとんど例がない。
こうした中、大野氏らは、実際に二次構造に着目したスクリーニングを行い、nc1669の重要な機能を発見した。RNA研究において二次構造に着目することの有効性がより明確になったといえる。
ヒトの疾患の原因となるRNAについて、同研究で開発した手法で近縁種と類似している二次構造を探し出せれば、その二次構造を標的とした薬剤の開発につながることが期待される。
また、分裂酵母の性分化を制御する長鎖ノンコーディングRNAを発見した成果から、細胞の分化・運命決定をおこなう因子が必ずしも従来のタンパク質だけとは限らず、ノンコーディングRNAが多く関わっていることが徐々に明らかになると考えられる。運命決定の考え方は、従来とは大きく変わるだろうと捉えている。
◆研究者のコメント
分裂酵母における二次構造に着目したRNAのスクリーニングは世界初の試みであったが、nc1669の重要な機能を発見することができ非常に意義深い研究であると考えている。
ヒトではノンコーディングRNAが疾患と関連する報告例が相次いでおり、今後、本手法を応用したヒトのノンコーディングRNA検索を実施したい。