大学相撲選手でも体重に相応する骨塩量や骨密度の保持は至難 早稲田大学等の研究グループがデータ提示

運動や栄養に対する身体の適応可能性を探求

 緑川泰史桜美林大学健康福祉学群准教授(早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員)らの研究グループは、国際的にも限られている「相撲選手」の骨塩量・骨密度データを提示した。
 これまで国際的にもデータが限られていた相撲選手の骨塩量と骨密度を提示した研究では、大学相撲選手の重量級グループ(115kg以上)は、中量級グループ(85kg以上115kg未満)よりも全身および腕部・脚部の骨塩量は高かった。
 一方、体重あたりのそれぞれの骨塩量は、重量級グループで低値となった。重量級グループの全身と脚部の骨密度は高かったものの、腕部では中量級グループと差はみられなかった。先行研究の平均体重65.6kgの20代日本人男性と比較して、同研究の大学相撲選手の平均体重は中量級グループで約50%、重量級グループで約100%重いものの、全身の平均骨密度は両グループともに15%前後高い値となった。
 これらの研究結果から、日々鍛錬し大きな体格を有する大学相撲選手でさえも、体重に相応する骨塩量や骨密度を有することは簡単ではないことが明らかになった。
 なお、同研究成果は、国際学術雑誌『Scientific Reports』に本年7月12日に掲載された。
 相撲は、重い体重が勝敗の全てを決定するわけではないが、身体が大きいことが勝ち星をあげる一つの要因にはなってる。そのため、相撲には体重を増すこと、つまり、身体を構成する器官・組織の増量が必要になる。
 緑川氏のこれまでの研究によると、大学相撲選手(平均体重109.1kg)は運動トレーニングの習慣がない男子大学生(平均体重62.0kg)と比較して、脂肪組織25.7kg、骨格筋量12.4kgの他、スポーツ科学領域ではあまり着目されてこなかった肝臓1.00kgや腎臓0.16kgも重いことが判明している。
 だが、身体を構成する要素で比較的大きな割合を占める骨(本研究では骨塩量や骨密度を測定)に関する相撲選手の報告は限られている。
 そこで、二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry:DXA)法を用いて、大学相撲選手の骨の特徴を探ったところ、重量級グループ(115kg以上)は中量級グループ(85kg以上115kg未満)と比較して、全身および腕部・脚部の骨塩量が高いことがわかった(表1参照)。一方、体重あたりのそれぞれの骨塩量は、重量級グループで低値となりました(表1参照)。
 重量級グループの全身と脚部の骨密度は高かったものの、腕部では中量級グループと差がみられませんでした(表1参照)。また、両グループを合わせて解析を行ったところ、体重と全身・脚部の骨密度の間に弱いですが有意な正の相関関係が認められた。
 先行研究の平均体重65.6kgの20代日本人男性と比較して、本研究の大学相撲選手の平均体重は中量級グループで約50%、重量級グループで約100%重いものの、全身の平均骨密度は両グループともに15%前後高い値にとどまった。
 日々鍛錬している相撲選手のような大型スポーツ選手でさえも体重に相応する骨密度を有することは簡単ではないことが推測される。また、腕部よりも荷重負荷が掛かりやすい脚部の骨密度が高まりやすいことが考えられる。


 同研究は、一般人と大きく体格が異なる相撲選手の荷重部位と非荷重部位を含めた骨塩量と骨密度について、50名を超える対象者で示した資料的価値が高い報告である。同研究結果から、体重が増えて体格が大きくなっても、骨は比例して多くなるわけではないことがわかる。柔道選手を対象とした鳥居氏らの先行研究でも、体重が100kgを超えると全身骨塩量の増加が鈍る結果が得られている。
 同研究結果と合わせて考察すると、ヒトという動物の骨塩量や骨密度の上限値を探る基礎データになる可能性がある。
 アメリカンフットボール選手を対象とした比較的最近の研究では、同研究の重量級相撲選手と体重がほぼ同様の130kg台にもかかわらず、全身の平均骨密度が1.50g/cm2を超えることが報告されている。測定するDXA機器の種類によって値に差が生じる場合もあるが、その他どのような要因がデータに影響しているのか検討が必要だ。

DXA法による全身スキャン画像

◆研究者のコメント
 骨は荷重負荷や筋活動を伴う運動刺激によって強くなることが知られている。これらの負荷や刺激を日々の生活や稽古で受ける相撲選手の骨密度はどこまで高くなるのか興味を持ったことが本研究の出発点である。
 DXAやMRIといった機器を使用した測定のために5年前に取得した診療放射線技師資格も生かしながら、運動や栄養に対する身体の適応可能性の一端を今後も探れればと思う。

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