抗体併用療法「エバシェルド」 新型コロナの発症抑制・治療で特例承認取得 アストラゼネカ

 アストラゼネカは30日、長時間作用型抗体併用療法「エバシェルド」について、新型コロナ感染症の発症抑制および治療の両方を適応として、厚生労働省より特例承認を取得したと発表した。
 エバシェルドは、SARS-CoV-2に感染し回復した患者により提供されたB細胞に由来する2種類の長時間作用型抗体であるチキサゲビマブ(AZD8895)とシルガビマブ(AZD1061)の併用療法である。米ヴァンダービルト大学メディカルセンターにより発見され、2020年6月にアストラゼネカにライセンス供与された。
 この2つのヒトモノクローナル抗体は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の異なる部位に同時に結合する。アストラゼネカは、この2つの抗体を半減期が延長するように、かつFc受容体および補体C1qとの結合が減弱するように最適化した。
 この半減期の延長により、同剤の作用の持続性が従来型の抗体に比べ3倍以上になるとされ、P3相試験のデータでは、6カ月間の効果持続が示された。
 なお、今回の承認は、エバシェルドに対する新型コロナ治療薬としての世界初の製造販売承認取得となる。アストラゼネカは、エバシェルドの日本市場への供給契約を政府と締結しており、30万箱を供給する予定だ。今回の承認を受け、日本政府や関係各所と連携しながら速やかに供給を開始する。なお、1箱は、チキサゲビマブとシルガビマブ2つのモノクローナル抗体をそれぞれ150mgずつ、計300mgを含有する。
 エバシェルドの新型コロナ発症抑制では、成人および12歳以上かつ40kg以上の小児で、新型コロナワクチン接種が推奨されない人、または免疫機能の低下等により新型コロナワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある人が対象者となる。また、新型コロナ感染症患者との濃厚接触者でない人のみ投与が受けられる。
 治療薬としてのエバシェルドの投与対象となるのは、成人および12歳以上かつ40kg以上の小児で、新型コロナ感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者である。
 今回の承認は、症候性COVID-19の曝露前予防(SARS-CoV-2に感染しておらず、かつ感染者との濃厚接触のない集団)の有効性を評価したP3相PROVENT予防試験、外来患者を対象としたP3相TACKLE治療試験、および日本で実施されたP1相臨床試験を含む、エバシェルドの臨床開発プログラムから得られた有効性と安全性のデータに基づくもの。
 PROVENT試験では、エバシェルド300mg単回筋肉内投与により、主要解析において、プラセボと比較して症候性COVID-19の発症リスクを77%減少した(95% 信頼区間 [CI]: 46, 90; p<0.001)。
 また、中央値約6カ月の追跡期間での追加解析では、エバシェルドはプラセボと比較して発症リスクを83%減少させ(95% CI: 66, 91)、1回の投与後6カ月間はウイルスからの保護が持続することが示された。
 TACKLE試験では、病状発現から7日以内のCOVID-19外来患者において、エバシェルドの600mg単回筋肉内投与により、同試験の主要評価項目である29日目までの新型コロナ感染症の重症化または全死亡(原因を問わない)の相対リスクが、プラセボと比較して50%有意に低減した(95%信頼区間[CI]15, 71; p=0.010)。
 事前に規定された症状発現から3日以内にエバシェルドによる治療を受けた被験者の分析では、プラセボと比較して新型コロナ感染症の重症化または全死亡(原因を問わない)のリスクが88%低減した(95% CI 9, 98)。症状発現から5日以内にエバシェルドの投与を受けた被験者では、重症化または全死亡(原因を問わない)のリスクが67%低減した(95% CI 31, 84)。
 エバシェルドは、これらの臨床試験において良好な忍容性が確認され。
 発症抑制を適応としたエバシェルドの用法及び用量は、通常、成人および12歳以上かつ40kg以上の小児を対象として、チキサゲビマブ150mgとシルガビマブ150mgの計300mgを筋肉内注射する。なお、新型コロナ感染症ウイルス変異株の流行状況等に応じて、チキサゲビマブ300mgとシルガビマブ300mgの計600mgを筋肉内注射することもできる。
 治療を適応としたエバシェルドの用法及び用量は、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児を対象として、チキサゲビマブ300mgとシルガビマブ300mgの計600mgを筋肉内注射する。
 エバシェルドは、新型コロナ感染症の曝露前予防を適応として、米国(緊急使用許可)、欧州連合(European Union:EU)、および多くの国々で使用が許可されており、世界各国で予防と治療の両面での承認申請が進められている。

◆舘田一博東邦大学医学部 微生物・感染症学講座教授のコメント
 新型コロナ感染症は、我々の日常生活に重大な影響を与え続けていえう。高齢者や併存疾患を有する患者さん、免疫不全の患者さんなど、多くの人々が依然として重症新型コロナ感染症の転帰が不良となるリスクにさらされている。
 エバシェルドは、日本において、ワクチン接種後に十分な免疫反応が得られない方々に対する長期的な保護を提供すると同時に、感染した方々の重症化や死亡を防ぐのに役立つ新たな選択肢となるだろう。

◆松村到近畿大学医学部医学研究科 血液・膠原病内科主任教授のコメント
 日本では、予防接種の推進や徹底した対策にもかかわらず、毎日非常に多くの新規感染者が報告されている。エバシェルドの承認は、血液悪性腫瘍患者のように、新型コロナワクチン接種による免疫応答を十分に期待できない患者さんに対して、ワクチン以外の予防措置の選択肢を提供することが期待される。

◆堀井貴史アストラゼネカ(日本法人)代表取締役社長のコメント
 日本でエバシェルドが新型コロナ感染症の発症抑制と治療のために承認されたことを大変嬉しく思う。エバシェルドは、現時点では、感染リスクにさらされる前に投与を受けることができる発症抑制の適応を有する唯一の薬剤として、ワクチンを接種しても十分に免疫応答が得られない方々が日常生活を取り戻すための一助となることが期待される。
 また、治療の面では、新型コロナ感染症を取り巻く環境が日々変化する中において、新たな選択肢となることを願っている。

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