塩野義製薬の手代木功社長は11日、2022年3月期決算説明会で会見し、本年2月25日に厚労省に承認申請した経口新型コロナ治療薬について、「今国会で審議されている‟緊急承認制度”法案成立による適応の可能性も含めて、一日も早く患者さんにお届けしたい」と訴求した。
開発中の新型コロナ遺伝子組換えタンパクワクチン(S-268019)は、6~7月に承認申請を予定している。2022年度の新型コロナ関連製品の業績予想は、上期450億円、通期1100億円を見込んでいる。
また、2022年3月期決算については、「新型コロナ関連プロジェクトを中心とする過去最高の研究開発費730億円を計上しながらも、業績予想を達成できた」と評価した。その上で、「2022年度以降は、使った研究開発費を成長に転換できるタイミングと考えている」との見解を示した。
塩野義製薬の経口新型コロナ治療薬「S-217662」は、本年2月25日、厚労省にP2bPartの評価項目の解析結果をもとに条件付き早期承認申請された。
現在、P3Part(軽症/中等症)およびP2b/3Part(無症状/軽度症状)を実施中で、ベトナム、韓国を含め症例登録は順調に進捗している。グローバルP3試験もFDAと最終のプロトコール合意段階にある。
S-217662の供給では、100万人の生産を完了し、4月以降、自社で年間1000万人分以上の供給を目指して生産拡大している。グローバル供給体制構築に向けての準備を開始しており、米国、インドでの生産も検討している。
こうした中、今国会で緊急時に医薬品の迅速な実用化を目的とした「緊急承認制度」を盛り込んだ関連法案が審議されている。
手代木氏は、「今回の新型コロナパンデミックでは、ワクチン、治療薬、診断薬を含めて、緊急使用許可は他国との差が大きい部分であった」と指摘。
さらに、「わが国でも緊急制度を使える可能性が出てきたのは非常に大きな前進で、心から歓迎したい」と述べ、「治験データも揃っており本来は条件付き早期承認をお願いしたいところではあるが、結論すれば緊急承認制度適応の可能性も含めて、一日も早く良い形で患者さんに治療薬を届けたい」と力説した。
手代木氏は、「S-217662」の特徴を踏まえた上での国民生活に与えるメリットにも言及した。
米国FDAによる緊急使用許可(EUA)は、重症化予防、入院・死亡の抑制が大きなテーマとなっている。従って、パキロビッド(ファイザー)もラゲブリオ(メルク)も、治験では新型コロナワクチン未接種で重症化率の高い人の死亡抑制効果が検討された。
一方、「S-217662」は、2類枠の中で濃厚接触者が多くて保健所業務が逼迫し、80%以上が2回ワクチンを接種しているかなり一般的な診療状況に近い中で治験が行われ、ウイルス減少効果や症状改善が検証されている。
手代木氏は、「現在、日常診療にかなり近い形でS-217662が使用できるように臨床試験を積み上げている。従って、患者さんに有用で、ドクターや保健所の人々の業務軽減も期待できる薬剤になると考えている」と説明した。
新型コロナ遺伝子組換えタンパクワクチン(S-268019)は、最終段階の5つの臨床試験が実施されている。その中で、中和抗体比較試験は、5月中に結果速報を入手し、論文公開を予定している。
コミナティ筋注(ファイザー)2回接種後の追加免疫による同剤との非劣勢検証試験(追加免疫比較試験)は、主要項目を達成した。2021年12月よりベトナムで先行開始した「プラセボ対照発症予防比較試験」の症例登録も順調に進捗している。
初回免疫および追加免疫の両適応取得に向けて各試験を実施中で、6~7月に国内承認申請を予定している。