スギ花粉症舌下免疫療法の効果予測遺伝子や検査方法を発見 福井大学

より良い医療提供とスギ花粉症舌下免疫療法のさらなる普及に期待

左から藤枝氏、木戸口氏

 福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の藤枝重治教授と木戸口正典特命助教は5日、同大学文京キャンパスで会見し、スギ花粉症の治療法「舌下免疫療法」の効果を予測する遺伝子多型とその検査方法を発見したと発表した。
 同研究によりスギ花粉症においてHLA-DPB105:01遺伝子型を保有する患者は治療効果の低い人が多いことを明らかにされた。藤枝氏らは、今後、特異的な遺伝子多型を用いたHLA遺伝子型の検査方法の臨床検査としての実用化を目指す。
 スギ花粉症舌下免疫療法治療開始前のHLA遺伝子型検査により「効果予測」が可能となることで、患者にとってより良い医療の提供と同療法のさらなる普及が期待される。研究結果は、2022年2月12日、欧州アレルギー学会誌のアレルギーにオンライン掲載された。2020年10月16日には、「舌下免疫療法の治療効果を予測するためのデータの取得方法、およびその利用」の発明名称で特許出願している。
 花粉症(アレルギー性鼻炎)は、「鼻汁」、「鼻閉」、「くしゃみ」を3主徴とする鼻粘膜のⅠ型アレルギー性疾患で、花粉やダニ抗原を原因としており、近年増加傾向にあり2人に1人が罹患している。
 一方、舌下免疫療法は、アレルゲン(スギ、ダニ)を含む錠剤を舌下に毎日投与するもの。制御性T細胞など免疫を抑制する細胞が増えアレルゲンに対するアレルギー反応を抑制する。治療3~4ヶ月で効果が出はじめ、定着するには3年の継続を要する(5年を推奨)。
 花粉症の根治治療として簡便で副反応が少ない舌下免疫療法は、2014年より保険適用されている。2年以上の治療で7割以上が有効であるが、治療患者の2~3割は治療効果が低い。これまで、治療後の効果と関連するバイオマーカーとして、血清IgE・IgG4・IL-10・TAFIなどが報告されているが、治療効果を事前に予測する方法は存在しなかった。
 そこで、藤枝氏らの研究グループは「HLA遺伝子とアレルギーのしくみ」に着目。ゆたクリニックで2014年~2017年に治療を開始したスギ花粉舌下免疫療法を2年以上行った患者203人を対象に、スギ花粉舌下免疫療法の治療効果を検証。その結果、HLA-DPB105:01遺伝子型を保有する患者に治療効果が低い人が多いことが判明した。
 HLA遺伝子は、白血球における血液型と言われ、体が自己と非自己を判断するMHC分子を構成する。また、アレルギー性鼻炎の大規模なゲノム解析でHLA領域の遺伝子が強く関連を示し、非常に多様な遺伝子多型の存在がアレルギー反応の個人差に繋がっていることも判明している。
 加えて、スギ花粉症患者では健常者と比較してHLA-DPB105:01 遺伝子型の割合が高い。スギ花粉抗原ペプチドとの結合ポケットであるMHC分子(HLA-DPβ1)の立体構造が関連している。  HLA-DPB1遺伝子の遺伝子多型には、02:01、04:01、04:02、05:01、09:01などがあり、スギ花粉舌下免疫療法の治療効果は、05:01 に効果の低い人が多かった(図1)。

図1

 なお、05:01は、スギ花粉によるIL-10産生が低く、遺伝子多型の結果が、細胞レベルでも確認されている。

               図2


 藤枝氏らは、特異的な遺伝子多型による遺伝子型の検査方法も確立した。白血病などの検査に用いられているHLA遺伝子型決定法は、数万円/検体を要するが、藤枝氏らのtag SNP遺伝子型決定法は数千円/検体と安価で済むという。
 HLA遺伝子薬理遺伝学的検査による舌下免疫療法の治療効果予測は、HLA-DPB1*05:01保有者ではその約73%で効果が高く、約27%は効果が低い。一方、非保有者は、約89%で効果が高く、約11%は効果が低い(図2)。
 これらの研究成果の活用方法について藤枝氏は、「舌下免疫療法は2年間実施して効くか効かないかの判断をしていたが、薬理遺伝学的検査で遺伝子多型を調べれば治療当初から患者に『あなたは良く効きますよ』と説明できるようになる。」と強調する。
 さらに、「スギ花粉症は遺伝する。父母への舌下免疫療法が効けばその子供も効く可能性が高い。こうした知見を啓発することで、舌下療法のさらなる拡大に繋がることを期待している」と訴えかけた。
 なお、藤枝氏らのグループは、現在、ダニに対するアレルギー性鼻炎についても、「舌下療法がどのような遺伝子多型に効果があるのか同定している」

タイトルとURLをコピーしました