新型コロナワクチンS-268019 追加接種P2/3試験でコミナティとの非劣性を検証 塩野義製薬

 塩野義製薬は4日、東京都内で組換えタンパク新型コロナワクチン「S-268019」のPhase2/3追加免疫比較試験(追加接種ワクチン)の中間報告に関する説明会を開催した。
 同試験中間報告の速報として、主要評価項目である「接種29日後の中和抗体価のGMT」および「抗体応答率」において、コミナティ(mRNAワクチン)に対する非劣性が検証され、特定全身/局所副反応の発現率も同等以下の好結果を得たと発表した。同比較試験は、昨年11月より東京品川病院で開始されたもの。
 現在、「S-268019」に関して6本の臨床試験を走らせているが、手代木功社長は、「今回の中間報告結果は非常に良い結果であった」と評価し、「追加免疫の効能・効果の先行取得も視野に入れて、今後の他の試験データ結果を踏まえながら当局と協議して行く」考えを示した。
 S-268019は、組み換えタンパク製造技術の「BEVS」を用いて、コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子情報をバキュロウイルスに組み換え、それを昆虫細胞に入れて大量培養し、精製した組換えスパイク(S)タンパクにアジュバントを添加して製剤化したもの。従来のインフルエンザワクチンなどもこの手法が用いられており、既に有効性・安全性のデータが蓄積されている。
 新型コロナワクチンの追加接種は、多くの人が初回接種時に副反応を経験している中で、初回接種後に時間の経過とともに発症および重症化予防効果が低下するため急がれることが課題となっている。
 こうした中、有効性と安全性のバランスのとれた「追加接種も可能な国産ワクチン」として、新たなワクチンの選択肢ができることで、3回目以降の追加接種率を高め、社会全体として感染拡大防止・重症化抑制に繋がるものと期待されている。
 現在、「S-268019」は、Phase 1/2試験(新製剤、2021年8月開始)、Phase 2/3試験(安全性・免疫原性評価、2021年10月開始)、Phase 3試験(プラセボ対照発症予防比較試験、ベトナム、2021年12月開始)など6本の臨床試験が実施されている。
 その一つが、Phase2/3追加免疫比較試験で、コミナティ筋注2回接種完了後6ヵ月以上経過した20歳以上の被験者(205人)を対象に、S-268019を追加接種した時の免疫原性のコミナティ筋注に対する非劣性を検証し、安全性を評価するものだ。無作為化、オブザーバーブラインド、実薬(コミナティ)対照で実施された。
 主要評価項目は、追加接種28日後のSARS-CoV-2中和抗体価幾何平均値(GMT)と、追加接種28日後のSARS-CoV-2中和抗体価の抗体応答率。
 投与量は、S-268019群:抗原10μgをアジュバントを含有する50% v/vの水中油滴型エマルジョンに溶解した溶液、コミナティ群:0.3mLのtozinameran(30μg、生理食塩水に溶解)。治験期間 2021年11月~2023年1月。
 試験結果では、コミナティ群(N=102)に対するS-268019群(N=103)の中和抗体価の幾何平均抗体価(GMT)比の95%信頼区間の下限値が0.67よりも大きい0.96を示した。
 一方、接種29日後のSARS-CoV-2中和抗体価の抗体応答率は、コミナティ投与群に対するS-268019群の中和抗体価の抗体応答率の差の95%信頼区間の下限値が-10%よりも大きい-5.8%を示した。
 中和抗体価のGMTおよび抗体応答率の両方で非劣性が示され、コミナティに対してS-268019の免疫原性の非劣性が検証され、中間報告において、主要評価項目を達成した。
 フローサイトメトリーによる多重染色解析 (ICS-FCM)では、Th1反応が促進され、Th2反応をドミナントに促進することはなかった。また、S-268019は、オミクロン株を含む各種SARS-CoV-2変異株に対してコミナティと同等の中和抗体価を示した。
 安全性では、両群で重篤な副反応、死亡、特に注目すべき副反応は見られなかった。最も頻繁に見られた副反応は、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、注射部位の痛みであった。
 両群でほとんどの特定全身/局所副反応はGrade 1あるいはGrade 2であり、Grade 3の特定全身/局所副反応はS-268019群で1例、コミナティ群で4例見られた。
 コミナティ群と比較して、S-268019は、特定全身副反応(発熱、悪心/嘔吐、下痢、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛、悪寒)、および局所副反応(疼痛、紅斑/発赤、硬結、腫張)の発現率が同等以下であった。
 S-268019群とコミナティ群の特定全身/局所副反応の発現率の概要は、次の通り(いずれもS-268019群、コミナティ群の順で記載)。

【特定全身副反応】
◆発熱:40例(38.8%)、61例(59.2%)◆悪心/嘔吐:5例(4.9%)、5例(4.9%)◆下痢:4例(3.9%)、6例(5.8%)◆頭痛:26例(25.2%)、43例(41.7%)◆倦怠感:45例(43.7%) 55例(53.4%)◆筋肉痛:42例(40.8%)、 49例(47.6%)◆関節痛:8例(7.8%)、12例(11.7%)◆悪寒:4例(3.9%)、7例(6.8%)

【特定局所副反応】
◆疼痛:68例(66.0%)、75例(72.8%)◆紅斑/発赤:7例(6.8%)、9例(8.7%)◆硬結:0例(0.0%)、0例(0.0%)◆腫脹:1例(1.0%)、1例(1.0%)

 説明会では、東京品川病院副院長兼治験開発・研究センター長の新海正晴氏がPhase2/3追加免疫比較試験の中間報告結果について、「組換えタンパクワクチンは、mRNAワクチンと比べて、思っていたよりも効果があると感じた」と印象を述べた。副反応については、「接種して48時間以内に特定全身副反応が起こっているので、そこをしっかり対応すればよい」と訴求した。
 また、新型コロナワクチンの選択性にも言及し、「mRNAワクチンや組換えタンパクワクチンなど色々な仕組みのワクチンの出現により、副反応が少なくて効果があり重症化を抑制できる組み合わせ、タイミングが増えれば、実臨床医としては助かる」との見解を示した。
 手代木社長は、「非常に良い結果が出て嬉しく思う」と感想を述べ、「昨年11月にこの臨床試験が開始され、新海先生は、論文投稿後に、本日、このデータを発表された」と報告。その上で、「わが国の臨床論文も、このスピード、このクオリティで発信されることが続いてほしい」と今後の日本の臨床研究に期待を寄せた。
 手代木氏は、S-268019の製造ラインについても、「1番目のラインはきちんと稼働しており、論理的に春には6000万本製造できる。2番目のラインは、建設は終了している。現在、IQやPQ等を行っており、年末にかけてのフル稼働を予定している」と紹介。
 さらに、「2ラインで論理的には1億2000万本製造できるが、少なくとも6000万本/年くらいまでの製造は可能である。現在、5月からの商用生産に向けてデータを積み上げている」と訴求した。

タイトルとURLをコピーしました