コロナ禍が大学生のメンタルヘルスに与えた影響を実証 岐阜大学新入生のデータを3年間比較検討

 昨今のオミクロン株の爆発的な感染拡大など、新型コロナウイルス感染症は未だ終息に至らず、大学生のメンタルヘルスへの影響も大きな社会問題となっている。こうした中、岐阜大学保健管理センターの堀田亮助教は、岐阜大学の新入生を対象にアンケート調査を実施し、コロナ禍における大学生のメンタルヘルスの実態を明らかにした。
 同研究は、感染拡大前(2019年)、感染拡大直後(2020年)、感染拡大1年後(2021年)の3年間の結果を比較検討したもので、コロナ禍の長期的影響を実証しており、当該分野に新たな視点と多大なインパクトを与えることが期待される。
 これまでの先行研究では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大後(2020年以降)に学生のメンタルヘルスを調査したものが多い。対して、同研究は、感染拡大前(2019年)、拡大直後(2020年)、拡大1年後(2021年)の3年間の結果を比較することで、より長期的な影響について検討したのが特徴だ。
 加えて、入学期(4−5月)の新入生に焦点を当て調査を実施しており、感染拡大直後の新入生の抑うつ、不安症状は、拡大前より低い結果となった。拡大1年後の新入生の抑うつ、不安症状は、拡大直後より高くなったが、拡大前の水準に戻った。
 とはいえ、死にたい気持ち(希死念慮)を強く抱える学生の割合は年々増加傾向にあることが明らかになりました。学業に関するストレスは、感染拡大直後の新入生が最も高く、拡大1年後は拡大前の水準に戻った。
 これらの研究成果と意義は高く評価され、13日(日本時間)にPublic Library of Science社発行のPLOSONE誌のオンライン版で発表された。
 コロナ禍が大学生のメンタルヘルスに与えた影響に関しては、これまで国内外で多くの研究結果が公表されてきた。だが、それらは感染拡大後に一時点だけ調査を行った研究が多く、コロナ禍の影響が反映されているのか、もしくはコロナ禍に関わらず元来の大学生の精神的健康度が反映されたに過ぎないのか、判別のつかない研究も散見されている。
 そこで、堀田氏らは、感染拡大前(2019年)と感染拡大直後(2020年)のデータを比較することにより、コロナ禍の影響の実証を試みた。加えて、感染拡大1年後(2021年)のデータとの比較により、感染拡大の長期的影響の検討も実施した。
 同研究では、2019年4−5月、2020年4−5月、2021年4−5月の期間に、各年度の岐阜大学の新入生を対象にアンケート調査を実施した。調査にはCounseling Center Assessment of Psychological Symptoms(CCAPS:大学生のための心理・精神症状評価尺度)という国際標準の指標の日本語版を用いた。
 なお、CCAPSの日本語翻訳作業も堀田助教が手掛け、別の研究成果として発表している。(Ryo Horita,Aki Kawamoto,Akihiro Nishio,Tadahiro Sado,Ben Locke,Mayumi Yamamoto. Clinical Psychology & Psychotherapy 2020)

得点が高いほど、ストレスが大きいことを示す


 調査の結果、感染拡大直後(2020年)は他の年度と比べて、むしろ抑うつや不安をあまり感じていないことが明らかになった(図1)。感染拡大直後の学生はこうした精神症状よりも、現実感のなさを他の年度よりも強く感じていたことが示されており、急激な環境の変化によって「何が起きたかわからない」まま時間が過ぎ去っていると感じていたのかもしれない。
 感染拡大1年後(2021年)は、感染拡大直後に比べて高い抑うつや不安を感じていることが示されたが、平均値上では感染拡大前(2019年)の水準に戻ったという結果が得られた。
 だが、死にたい気持ち(希死念慮)を強く抱える学生の割合は、年々増加傾向にあり、こうした学生を早期に発見し、支援する体制の拡充が求められる結果も得られた。


 一方で、希死念慮を全く感じない学生の割合も増加しており、コロナ禍によって適応を回復した(コロナ禍に適応した)学生が一定数いることも窺われた(表1)。 こうした結果は、コロナ禍によるメンタルヘルスの二極化の漸進を示唆している。
 学業に関するストレスは感染拡大直後が最も高く、これはオンライン授業への適応の難しさを示していると考えられる(図2)。とはいえ、感染拡大1年後は感染拡大前と同じ水準に戻ったという結果が得られた。

得点が高いほど、ストレスが大きいことを示す


 2021年度の新入生は、高校時(2020年度)にオンライン授業を経験している学生も多く、2020年度の新入生に比べれば、大学に入ってからもそれほど抵抗なく、準備、適応できていると思われる。
 新入生のストレス状況は、2021年になり新型コロナウイルス感染症の感染拡大前(2019年)の水準に平均値上では戻った状況が示された。だが、重篤な精神的不調が示唆される学生の数は増加しており、こうした学生を早期に発見し、支援できる体制を整備することは高等教育機関の喫緊の課題と考えられる。
 今後は、調査時期や対象学年を広げながら、継続的に調査を実施していくことで、いつ、誰に、どのような支援が必要となるかが、より明確になることが期待される。

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