新型コロナ治療薬年内承認申請・ワクチン年度内供給に向けた治験が順調に進捗  塩野義製薬手代木社長

 塩野義製薬の手代木功社長は1日、2021年度上期決算説明会で会見し、「新型コロナ治療薬の年内承認申請および、同ワクチンの本年度内供給に向けた臨床試験が、スケジュール通りに進捗している」ことを報告した。
 また、上期は、「2021年度よりクレストールのロイヤリティがゼロになった分をカバーし切れなかったものの、海外売上収益が好調、国内売上収益が堅調で、予想を上回る着地点(四半期利益が対前年同期比微増)となった」と評価した。
 新型コロナ経口治療薬「S-217622」は、国内P1試験により、良好な安全性、忍容性を確認。加えて、1日1回5日間の経口投与により、非臨床試験から予測されたウイルス減少効果に必要な目標血中濃度が確認された。同社では、これら結果を踏まえて、現在、年内承認申請に向けた約2100例を対象とした最終段階の試験(P2/3)を進めている。
 手代木氏は、「感染減少が著しい国内でこれだけの治験症例を集めるのは困難である」とした上で、「韓国、シンガポールの患者を組み入れた治験を11月10日からスタートさせる。追って、ベトナム、イギリスでも実施し、12月中くらいまでに1000例単位の症例数を集める」考えを明らかにした。
 シンガポールでの患者組み入れについては、「85%のワクチン接種率で感染拡大している。従って、感染が起こった時に経口剤がどのような有効性・安全性を示せるのか有用なデータが集められる」と解説した。
 また、「メルクのポリメラーゼ阻害薬モルヌピラビルが、約380例の症例で一定の結果を出している」実例を指摘し、「塩野義製薬は2100例の症例を目指しているが、まずは300数十例の結果を中間解析して年内承認申請する」スケジュールを強調した。
 「S-217622」のグローバルP3試験は、試験開始に向けてFDAおよびEMAと協議中。パートナリングについては、現在複数企業と交渉しており、「上市スピードおよびグローバルでの生産と供給でシナジー効果を発揮できる企業を優先する」
 一方、新型コロナ遺伝子組換えタンパクワクチン(S-268019)は、新製剤によるP1/2試験で全被験者60例のDay50の観察を完了。忍容性の確認とともに、安全性の大きな問題は見らていない。
 免疫原性は、回復期患者血清と同程度の中和抗体価の上昇が確認されている。これらの詳細結果は、12月4日に開催される2021年日本ワクチン学会で開示される。
  S-268019は、臨床的有効性の検証として、①プラセボ対照発症予防試験、②P2/3試験、③実薬対照中和抗体比較試験代替試験ーを実施する。
 ①は、真のエンドポイントである発症予防効果を評価指標にアジア中心に実施予定。②は、P1/2の結果を踏まえて、10月20日より国内P2/3試験を開始した。治験参加者の登録は順調に推移しており、11月上旬に登録完了する。同試験は、高齢者、ワクチン接種者、既感染者各々約100例を含む3000例以上を集積して安全性・免疫原性を評価するもの。

 登録開始4日目で2000例を超える治験者が参加しており、手代木氏は「これほどの早さで集められたは、塩野義のワクチンに対する期待の大きさを物語っている。責任の重さを感じた」と訴求する。
 ③は、ICMRAでの合意に基づいた中和抗体値を評価指標とした既承認ワクチンとの比較を行う。
 今後の検討課題としては、「日本人での安全性評価」と「100 DAYS MISSIONの実現」が挙げられる。前者では、市販後にアプリを用いた長期安全監視を実施し、追加接種時の安全性情報を評価する。さらに、日本人を対象とした探索的追加接種試験におけるmRNAワクチンとの安全性評価の比較も行う。後者では、新型コロナ対応を超えた様々なパンデミックへの対応を検討し、国としての組織的能力を整備する重要性を訴求する。
 手代木氏は、「厚労省、PMDAときちんとした話し合いをした上で、どのような申請パッケージを作っていくかを考えている。3月までにワクチンが上市できるデータを集めて行きたい」と訴えかけた。
 また、治療薬が開発される中での新型コロナワクチンの使い分けについても言及し、「様々な種類のワクチンが上市されれば選択肢が広がる。当社の遺伝子組換タンパクワクチンは、既に確立された技術で製造されるもので、有効性は一定以上、副反応は少ない可能性がある」と説明。
 その上で、「どうしても感染したくない人は有効性を重視したワクチン、年齢の低い人やリスクファクターの高い人は安全性を重視したワクチンを選択できる」と述べた。
 なお、塩野義製薬の2021年度上半期業績は、売上収益1451億円(対前年同期比2.3%減)、営業利益427億円(同26.8%減)、税引き前四半期利益508億円(同27.5%減)、四半期利益531億円(15%増)となった。
 下半期については、「当初予想の売上収益2900億円から確実に40億円上積みされる以外は、新型コロナワクチン、治療薬、それ以外のビジネスビジョンが動いて読み難い」と説明し、「確定できる時点で随時開示していく」方針を明らかにした。
      

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