免疫低下シーズンの“感染症・脱水症”混同に注意!その見分け方と対策を啓発  教えて!『かくれ脱水』委員会

谷口氏

 「なんだか熱っぽい」、「なんとなく倦怠感」、「理由がわからず頭痛がする」、「身体が痛い」など、新型コロナ感染が疑われる愁訴の原因が、“単純に脱水を起こしているだけ”、というケースがまま見られる。
 風邪や新型コロナ、インフルエンザなども気になるこの季節に、脱水症なのか、感染症などの疾患なのか、どのように判別すれば良いのか。そこで、「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長の谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長医師)が、これらの愁訴の見分け方やその対策について解説した。

脱水症では頭痛や発熱などがあっても、咽頭痛やせき・たんは出ない

 気温も下がり、体調の維持により一層努めなくてはならない秋冬。しかし急な気候や気温の変化に、“なんとなく具合の悪い”というコンディションに陥ってしまう人も少なくない。風邪でも新型コロナでも脱水症でも起こりうる混同しやすい症状には、頭が痛い・重い、食欲不振、下痢、嘔吐、吐き気、筋肉の違和感、関節痛、筋肉痛、発熱などがある。
 これに対して、脱水症では、咽頭痛やせき、たんは出ない。これらの上気道症状が出た場合はウイルス感染を疑ったほうがいいかもしれない。
 ウイルス感染のときも、体内に入り込んだウイルスや細菌の増殖を抑えるための身体の防御反応で発熱する。ウイルスに対抗するために体温を高めているという側面もある。
 だが、体温が上がりすぎてしまうと体温を下げるために汗をかき、脱水してしまう。実際に感染症にかかったときも、速やかで効果的な水、塩分の補給が非常に重要となる。
 まずは、発熱による発汗を伴う脱水症の改善を試みた上で、次に解熱剤の使用を検討すると良いだろう。では、脱水すると、なぜウイルス感染に似た症状が出るのか?
 人の身体では、各器官が正常に動くための酸素や栄養素を届ける役割、また、身体を温めたり、逆に暑い時は体温を下げるための汗を作るといった重要な役割を血液が担っている。
 血液の約55%は水分でできているが(約45%は血球等)、水分量が足りないと血流も減ってしまい、器官が酸素不足を起こして痛みが出たり、汗が出にくくなるために高体温になったりといったウイルス感染時に出るのと似た症状が出現する。
 今年は、多くの人が新型コロナワクチンを接種し、副反応による発熱や頭痛に悩まされたという人もいたが、その時に経口補水液を接種すれば副反応の症状が小康する場合もあると話題になった。
 実はこれも、脱水症が緩和されたことによって症状が和らいだというケースがあるのではないかと推定される。
 「体温が何度以上だとウイルス感染」などの明確な体温の目安はない。新型コロナ感染の拡大防止のために、建物や店舗、イベントなどへの入場規制は、体温37度を基準に判断している場合が多いが、ウイルス感染なのか脱水なのか、はたまた異なる病気なのかを明確に区別できる体温の目安というものはない。
 平熱は、個人差があるので、「何度以上で症状が出る」とは言いにくいためだ。平熱より体温が上昇すると、「熱っぽい」という自覚が出てくる。平熱が36度前後の人が多いので、一般的には37度を超えると若干熱っぽく感じる人が多いので、高熱が出てしまっている人を見分ける意味での目安としては適しているといえる。

ウイルス感染症か、脱水症か? 診断的治療には経口補水液を推奨

 脱水症なのか、ウイルス感染などで体調が悪いのかが不明なときは、試しに経口補水液を飲んでみることを推奨したい。経口補水液は小腸からもっとも水分が吸収されやすい割合で水・塩分・糖分が配合されている飲料なので、摂った水・塩分が素早く身体に吸収され、脱水症を改善する。
 経口補水液を試してみてほどなくして症状が改善したら、脱水症による体調不良であった可能性が非常に高いといえる。このように、「病気の診断の検討を行い、それに対する治療をしながら経過を観察し、その治療で効果がみられたら、その診断が適切であったとする診断・治療の方法」の診断的治療と言う。
 一方、経口補水液を飲んでも咽頭痛や発熱が残るときは、新型コロナや風邪などの感染症にかかっている可能性がある。その場合は病院に行くようにしよう。発熱でも脱水症を起こす場合はあるので、とりあえず初期症状を緩和させる意味でも経口補水液を飲むことはお薦めである。
 気温が下がり免疫が低下しがちな秋冬はいざというときのために自宅に経口補水液を備えておこう。

もしも脱水症になってしまったら?

 感染症などの症状が全くないのに体温が上昇してきたら、脱水症の可能性がある。安静にして、経口補水液を飲むのが良いと思われる。体を動かすと、そこでさらに熱が高くなるリスクもあるので、まずは安静にしよう。
 また、脱水症により汗がかきにくくなることで体温が上昇する場合もある。経口補水液を飲んで汗がかければ、薬に頼ることなく体温が下がるケースもある。
 食事をきちんと摂っている場合はお水だけでも良いが、食欲がなくきちんと食事を摂れていないときは水と一緒に塩分も補給できる経口補水液を飲もう。適量の塩分を摂らずに水だけを補給しても、かくれ脱水を解消することができない。脱水状態は、水だけが不足しているのではなく、塩分も同時に失われた状態である。脱水時に水だけを飲むと一時的に血液が薄まる。体は水と塩分のバランスを調整しようとして水分の排泄が進み、かえって脱水状態を進行させることにもなりかねない。「脱水症」は、水+塩分も不足しているリスクがあることを意識しよう。

脱水症が免疫低下を招くおそれも

 かくれ脱水状態を放置してしまうと、免疫力が低下して、風邪や新型コロナに感染しやすくなるというリスクも上昇させてしまう恐れがある。脱水しているために、唾液が少なくなり、鼻や喉などの粘膜か乾いてしまうことで粘膜に付着したウイルスを外へとかきだす粘膜表面の線毛がうまく機能しなくなってしまうからだ。
 もちろん、体内で免疫細胞や血液を産生する骨髄へ流れる血流も減るので免疫細胞が十分に機能しなくなるのも間接的に原因となり得る。

こんな人は特に『かくれ脱水』に注意

 大人なら食事を3食摂り、食事に含まれる水分以外で1日に1リットル以上の水分摂取をしていれば秋冬に極端な脱水症を起こすケースは稀だが、大量に汗をかいた運動後や、食事量が少なく、筋肉の少ない高齢者、アルコールの分解のために水分を要する二日酔時などは、通常摂取している水分量では足りない可能性もあるので経口補水液を摂取するように心がけよう。
 大量の汗をかかない人でも、人間は不感蒸泄といって生きているだけで水を体外に蒸発させているし、こたつや暖房など、体温を上げ、乾燥させてしまう環境もある。
 特に、この2年間は、自粛生活で運動量が減っているために、水分を多く貯蔵できる臓器である筋肉が少なくなっている人も多いと思われるので、例年にも増して、冬のかくれ脱水は要注意である。常にかくれ脱水のリスクを意識し、免疫力を下げずに秋冬を乗り切ろう。

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