手術後の浸潤性の高いがんを検出し再発予防する高分子ナノソーム創出  ナノ医療イノベーションセンター

がんの転移・再発の予防に期待

 川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM、センター長:片岡一則氏)は8日、中国科学院中国科学技術大学(USTC)との共同研究により、がん細胞が正常組織に浸潤する際に必要な酵素 MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)を検知し、抗がん剤を送達する高分子ナノソームを創出したと発表した。
 同研究成果は、浸潤性の高いがん細胞を狙い撃ちできるため、がんの転移・再発抑制に繋がるものと期待されており、学術誌 Advanced Materials (IF = 30.849)に掲載されている。
 がんは、転移・再発、そして浸潤といった特徴を有するがゆえに悪性腫瘍と呼ばれ、これらの阻止は、がん治療にとって有効な手段のひとつとなる。
 がん細胞が転移する際には、正常組織の中を通り抜ける(浸潤する)必要があり、その際にMMPと呼ばれる細胞外プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を用いて、細胞と細胞、あるいは組織と組織を結合させる線維組織(マトリックス)を破壊しながら移動していく。
 同研究では、MMP を過剰産生している組織・細胞に着目し、MMPの特異的切断部位となるアミノ酸配列を組み込み、切断後に PEG の離脱とグアニジン残基が露出するよう設計した高分子ナノソーム(ETP: Enzymatically Transformable Polymersome)に細胞分裂阻害剤コルヒチンとMMP阻害剤マリマスタットを搭載した(ETP ナノソーム)。
 MMP を過剰産生するヒト線維肉腫由来HT1080細胞を用いた薬剤の取り込み実験では、 蛍光標識した ETP (Cy5-ETP)が、同じく蛍光標識した非設計ナノソーム(Cy5-NTP: MMP の存在下でもグアニジン残基を露出しないナノマシン)に比べて10倍HT1080細胞への取り込み量が多いことが分かった。
 また、細胞毒性の評価においては、コルヒチンを搭載した ETP(Col@ETP)で IC50 = 0.015μM、同じくコルヒチンを搭載した非設計ナノソーム (Col@NTP)で IC50 = 0.402μM と MMP との反応部位を持つ薬剤の方が高い活性を示した。
 共焦点レーザースキャン生体顕微鏡を用いた ETP ナノソーム投与マウスの観察では、耳介および正常肝臓での血管外へ漏出はみられないが、MMP を発現している乳がんにおいては、ETP ナノソームのみがんへの浸潤が確認される。
 薬理実験に関しては、MDA-MB-231/LM2および4T1トリプルネガティブ乳がん細胞(ヒト、およびマウスがん)移植マウスモデルを用いて、ETPナノソームのがんの抗腫瘍効果および、肺転移抑制効果を評価した。
 その結果、両トリプルネガティブ乳がんモデルにおいて ETP ナノソーム (コルヒチン/マリマスタット同時封入)において高い抗腫瘍効果および、生存の延長効果が確認されている。
 また、このモデルは同所移植後、肺転移しやすいモデルであり、ETP ナノソームは、乳がんの肺転移も抑制することを確認した。
 同結果は、MMP が高発現しているがんのみならず、そのたの MMP が高発現している疾患に対しても応用可能な技術となる。

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