日本原産フキノトウからがんの増殖・転移を強く抑制するペタシンを発見  岐阜大学

乳がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん等幅広いがん種の抗がん・転移阻害薬として有望

平島氏
赤尾氏

 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の平島一輝創薬専攻特任助教、赤尾幸博特任教授らの研究グループは2日、シーシーアイなどとの共同研究で、天ぷらなどの和食に使われる日本原産植物フキノトウに多く含まれるペタシンが、がんの増殖と転移を強く抑制することを発見したと発表した。
 ペタシンは、従来型の阻害剤(メトホルミンやフェンホルミン)とは全く異なる化学構造を持ち、1700倍以上高いETCC1阻害活性と3800倍以上高い抗がん活性を有する。その一方で、顕著な抗がん効果にもかかわらず、ペタシンは明らかな副作用を示さなかった
 また、ペタシンは、がん細胞の特異的なエネルギー代謝を阻害することで、正常組織への副作用を抑えつつ効果的に抗がん効果を発揮することも明らかになった。
 これらの研究成果は、同化合物を起点として一群の副作用の低い革新的な抗がん・転移阻害薬の開発が期待される。同研究成果は、2日、The Journal of Clinical Investigation誌のオンライン版で発表された。


 がん細胞は正常細胞と比べて活発にグルコースやグルタミンなどの栄養素を取り込み、がんの増殖や転移に必要な核酸とタンパク、エネルギーを効率的に合成することが知られている(図1A)。
 がん細胞では、正常細胞と比べて、解糖系から分岐するペントースリン酸回路(PPP)・ヘキソサミン経路(HBP)によるグルコース代謝や、TCA回路を用いたグルタミン代謝が特に亢進している。
 これらの代謝を効率的に進めるためには、ミトコンドリアの電子伝達系とその最初の反応をつかさどる呼吸鎖複合体I(ETCC1)から供給されるATPと補酵素NADが必要だ。
 そこで、ETCC1の阻害によってがんの増殖と転移を効果的に抑制できると考えられているが、これまでに報告されている化合物のほとんどは活性が弱いか毒性が強く、がん治療への応用はできなかった。こうした理由から高い効果と安全性を兼ね備えた新しいETCC1阻害剤の開発に大きな関心が寄せられている。
 平島一輝特任助教、赤尾幸博 特任教授らは独自の植物抽出物ライブラリーを作成し調査した結果、日本原産植物のフキノトウに多く含まれるペタシンが、がん細胞の増殖と転移を極めて強く抑制することを発見した。
 ペタシンは、従来型の阻害剤(メトホルミンやフェンホルミン)とは全く異なる化学構造を持ち、1700倍以上高いETCC1阻害活性と3800倍以上高い抗がん活性を持つことを明らかにした(図1)。


 また、ペタシンは乳がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、膀胱がん、前立腺がん、悪性黒色腫、肉腫、白血病など幅広い種類のがん細胞に対して非常に強い増殖抑制効果を示すことがわかった(図2)。加えて、ペタシンで処理されたがん細胞は増殖のみならず、浸潤・転移活性が大幅に低下することも突き止めた。
 エネルギー代謝への影響については、ペタシンはETCC1を阻害してがん細胞のATP・NAD合成のバランスを崩し、がん細胞が依存するPPPやHBP、TCA回路を重度に阻害して非常に強い抗がん効果を示していることが判った。
 さらに、がんの増殖と転移を促進するRAS、 Akt、ERK、EGFR、ABL、c-Myc、STAT3、NRP1、ITGA5といった数多くのがん遺伝子群の発現が、ペタシン処理によって著しく低下することも判明した。
 こうしたがんの増殖・転移抑制効果は複数のマウスモデルを使用した動物実験でも明らかであった(図3、4)。このような顕著な抗がん効果にもかかわらず、ペタシンは明らかな副作用を示さなかった。


 これらの研究結果から、ペタシンは安全かつ高活性な新しいタイプの抗がん・転移阻害薬として有望であると考えられる。同研究で同定したペタシンは強い抗がん効果と安全性を兼ね備えたユニークな化合物であり、これまでに知られている阻害剤とも全く異なる化学構造を有している。
 ペタシンは人工的に大量合成できるため、ペタシンを基礎とした新しい抗がん・転移阻害薬の開発が期待される。また、安全性が比較的高いことから、ペタシンおよびペタシンを含む植物抽出物はがん予防への応用も考えられる。

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