パブロフ条件反射の正体発見により記憶の仕組み解明に期待  人情報通信研究機構

 人情報通信研究機構の吉原基二郎上席研究員と櫻井晃主任研究員らのグループは、未来ICT研究所神戸フロンティア研究センターにおいて、パブロフの条件反射の脳内での仕組みを明らかにした。
 以前同グループによって発見されたショウジョウバエ脳内の摂食行動を引き起こす司令ニューロン(Nature, 2013)が、元々はつながっていなかった刺激に操られるようになって、条件反射が起こることを証明したもの。
 さらに、確立した条件反射の実験系により、細胞同士が記憶のためにつながる過程のリアルタイム観察を初めて可能にした。つながり形成の仕組みを脳の記憶の基礎過程として知ることにより、脳の記憶の仕組みをまねた新しい知的情報処理のデザイン取得、ひいては記憶の仕組みの解明に繋がるものと期待される。これらの研究成果は、5日、米国科学雑誌「Current Biology」に掲載された。
 未解明な脳内の記憶の仕組みが明らかになれば、これまでよりも脳の機能に近い知的情報処理をデザインできる。そこで、NICT未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センターでは、脳内情報通信のキーである記憶の基本原理を追求し、それを情報通信に応用する研究に取り組んでいる。
 今回、同グループは、記憶の代表例であるパブロフ条件反射の脳内での仕組みを解明した。音とエサの二つの情報を連合するパブロフ条件反射は、一般によく知られているが、その脳内の仕組みは不明のままであった。
 吉原氏らは、遺伝子操作によって特定の細胞で活動をモニターしたり特定の細胞の活動を操作したりできるショウジョウバエを使用し、同グループで開発した脳内を観察しながら同時に行動観察する実験方法を用いて、条件反射の脳内変化を追跡する実験を試みた。

図1 条件反射の仕組み
司令ニューロンが操られて行動が引き起こされる。


 その結果、ショウジョウバエの摂食行動を司令するコマンド(司令)ニューロン、 ” フィーディング・ニューロン “による情報処理が変化することが、パブロフ条件反射の脳内での正体であることを明らかにした。
 フィーディング・ニューロンは、本来エサの刺激で活動する。ところが、イヌへの音刺激の代わりの‟ハエがつかんでいた棒を離す”激とエサの刺激を同時にハエに与えることを繰り返すと、‟棒を離す”刺激がフィーディング・ニューロンの活動を操るように変化した。
 イヌの場合も同様に、摂食司令ニューロンに新しいつながりができて音の刺激で操られるようになることが条件反射の正体だと予想さる(図 1 参照)。
 さらに、この条件反射の実験系開発によって、 記憶を担う細胞のつながりをリアルタイムで観察することが可能になった。
 同グループは、現在、記憶を担う細胞のつながり(世界で初めて目撃されるエングラム=記憶の脳内実体)をリアルタイムで観察している。また、この実験システムを使って、同グループから提唱された記憶の一般仮説、“ローカルフィードバック仮説(Science, 2005)”を検証することで、記憶の仕組みの解明が期待される。

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