ドクタートラストのストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者103万人超のデータを活用し、さまざまな分析を行っている。
今回は2020年度にストレスチェックの実施を受託した685の企業・団体における集団分析データをもとに、[健康リスク]業種別ランキングを算出した。その結果、総合的に最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」と「医療、福祉」となった。
「仕事の負担」で最も健康リスクが高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」、以下「教育、学習支援業」「医療、福祉」となった。
「仕事のコントロール」で最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」、次いで「医療、福祉」、「上司とのコミュニケーション」で最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」、以下「医療、福祉」、「製造業」であった。
「同僚とのコミュニケーション」で最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」で、以下「学術研究、専門・技術サービス業」、「製造業」と続く。
ストレスチェック制度は、2015年12月に従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促し、また、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的に制定された。以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。
今回の調査は、2020年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した人のうち、24万0275人の最新結果を分析した。分析結果の詳細は、次の通り。
【健康リスクランキング】
1. 最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」「医療、福祉」
ストレスチェックの結果を部署や、事業場ごとに分析した集団分析では、集団の「健康リスク」が示される。健康リスクとは、仕事のストレス要因から起こり得る疾病休業などの健康問題のリスクを、標準集団の平均を「100」として表示するもの。たとえば、健康リスクが「120」の集団は、その集団で健康問題が起きる可能性が、平均より「20%多い」ことを示す。
健康リスクを業種別に算出、リスクの大きいものから順に並べたものが「表1 業種別・健康リスク総合ランキング」である。
このように、健康リスクが最も不良となった業種は「運輸業、郵便業」と「医療、福祉」で、以下「製造業」、「卸売業、小売業」が続く。
「運輸業、郵便業」と「医療、福祉」の総合健康リスクでは同ポイントであるが、「運輸業、郵便業」はコミュニケーション面でのストレスが、「医療、福祉」では仕事量、裁量面でのストレスが大きく出ている。
2. 「仕事の負担」で健康リスクが高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」、以下「教育、学習支援業」「医療・福祉」
前記「健康リスク総合ランキング」は、「仕事の負担・コントロール」リスク、および「上司・同僚とのコミュニケーション」リスクという 2つの指標をかけ合わせた数値である。
従って、2つの指標の意味と現状を知ることが、健康リスクを理解するためには必要である。
「仕事の負担・コントロール」リスクとは、個人ごとの仕事の負担と、それをいかにコントロールできているか、そのバランスがストレスに及ぼす影響を示している。
例えば、仕事の量が多かったり困難な業務内容であったりしても、それを自分なりのやり方やペース配分で行うことができればストレスは高くならない。
その場合、リスク値は低く出る。ところが、仕事の負担はそれほどではなくても、順番ややり方が固定され、自らの裁量が生かせない状況では、ストレスは高まり、リスク値は高く出る。
「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事の負担」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表2 業種別・仕事の負担ランキング」である。
表2は、数値が大きいほど「仕事の負担が多い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
- 非常にたくさんの仕事をしなければならない
- 時間内に仕事が処理しきれない
- 一生懸命働かなければならない 仕事の量やスピード、熱意といった、個人が感じる仕事のトータルな負担感を尋ねた設問であり、その値の大きい業種から並んでいる。「宿泊業、飲食サービス業」は店舗で働かれているような人が多いことが予想され、体をよく使う仕事のためトップにあがっていると考えられる。
3. 「仕事のコントロール」で最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」、次いで「医療、福祉」
次に「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事のコントロール」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表3 業種別・仕事のコントロールランキング」である。
表3は、数値が小さいほど「仕事のコントロールがしづらい」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
- 自分のペースで仕事ができる
- 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
- 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
仕事をする際に個人がどれくらい仕事をコントロールできるか、または、自分で決めた順序や方法でしてよいか、その自由度が問われており、コントロールが困難な業種ほど上位にランキングされている。
1位は「運輸業,郵便業」となっている。仕事の負担のランキングでは他業種とくらべ最も良好な結果であったが、仕事のコントロールでは1位となった。
物を指定の場所に、決められた時間に届けるといった業務内容は、仕事の自由度とは離れていることからこの順位になったと想定できる。
4. 「上司とのコミュニケーション」で最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」、以下「医療、福祉」、「製造業」
もう一方のリスクである「上司・同僚とのコミュニケーション」リスクは、職場の上司や同僚とのコミュニケーションがストレスに及ぼす影響を示している。一般に仕事自体はきつくとも、コミュニケーションが豊富な職場はストレスがたまりづらい傾向があり、逆に仕事の負担が少なくても、一人ひとりが孤立しがちでコミュニケーションが乏しい職場はストレスが高くなる傾向がある。このリスク値は、コミュニケーションが豊富ならば低く、不足していれば高く出る。
「上司・同僚とのコミュニケーション」のうち、「上司とのコミュニケーション」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表4 業種別・上司とのコミュニケーションランキング」である。
表4は、数値が小さいほど「上司とのコミュニケーションの質が低い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
- 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/上司
- あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/上司
- あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/上司 上司とのコミュニケーションがとりづらい、信頼関係が築けていない業種ほど上位にランキングされているといえ、トップは「運輸業、郵便業」であった。「運輸業、郵便業」は、トラックやオートバイ等のドライバーを職業とされている人が多く含まれており、オフィスで働いているような業種にくらべて、コミュニケーションが少ないことが考えられる。業務上コミュニケーションをとることが少ないと、業務内容や評価といった部分で部下と上司間ですれ違いが起こり不信感につながっていく可能性がある。
5. 「同僚とのコミュニケーション」で最も健康リスクが高い業種は「運輸業、郵便業」、以下「学術研究、専門・技術サービス業」、「製造業」
次に「上司・同僚とのコミュニケーション」のうち、「同僚とのコミュニケーション」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表5 業種別・同僚とのコミュニケーションランキング」である。
表5は、数値が小さいほど「同僚とのコミュニケーションの質が低い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
- 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?/同僚
- あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?/同僚
- あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?/同僚
同僚とのコミュニケーションがとりづらい、信頼関係が築けていない業種ほど上位にランキングされているといえ、「上司とのコミュニケーション」と同様、「運輸業、郵便業」がリスク1位であった。
【まとめ】
以上の考察をもとにして、「健康リスク総合ランキング」を改めて解説する。 1位「運輸業、郵便業」は、他業種よりも「仕事のコントロール」「上司・同僚とのコミュニケーション」リスクが一段と大きく、それが健康リスクを高める要因となっているようだ。 同じく1位の「医療、福祉」は、「仕事のコントロール」リスク、「上司とのコミュニケーション」リスクが大きかったことで順位を押し上げた。
3位「製造業」は、「仕事のコントロール」リスクは平均レベルだが、「上司・同僚とのコミュニケーション」リスクが高く、この点で健康リスクが高いようだ。