オムロン ヘルスケアは15日、40代~70代の高血圧患者の男女1080人を対象とした血圧管理に関する意識調査結果を発表した。6月18日~22日の期間、全国エリアを対象にインターネット調査を行ったもの。主な調査結果として、「マスク着用による熱中症や脱水症」や「塩分摂取の調整」が不安事項として浮き彫りになり、塩分調整指標「ナトカリ比」の認知度は7%であった。
また、高血圧対策として普段取り組んでいる事項では「医師の指示通り服薬する」が最も多く、「禁煙や喫煙を控える」「水分を多くとる」が続いて多かった。
季節による血圧管理の意識変化についての質問では、意識に変化が無い人が最も多い一方で、「意識に変化がある」と答えた人は「冬」に最も血圧を意識することが判った。
さらに、今年の夏、高血圧対策を行ううえで不安なことや悩んでいることを質問したところ「マスク着用で、例年以上に熱中症や脱水症がこわい」が40%となり、継続するマスク生活による夏の高血圧対策への不安が浮き彫りになった。
高血圧の薬には利尿作用がある場合が多く、夏は特に、発汗等により水分不足になりやすいと言われている。また、高血圧患者は塩分摂取量を調整しているケースが多いため、発汗による塩分の体外排出により体内のミネラルバランスが崩れ、熱中症に至ることも多いと言われている。
高血圧の主な要因のひとつとして、塩分の過剰摂取が挙げられる。日本高血圧学会やWHOでは、1日の塩分摂取量(5.0~6.0g未満/日)を推奨している。
塩分摂取量を調整する方法として、「ナトカリ比」という考え方がある。「ナトカリ比」とは、ナトリウム(塩分)の摂取量を減らしながら、塩分の排出を促すカリウムの摂取量を増やすことで塩分摂取量を調整するというもの。
だが、今回の調査では、「ナトカリ比」を知っていると答えた人はわずか7%に過ぎなかった。
オムロン ヘルスケアは、ナトカリ比を計測する機器「オムロン ナトカリ計(研究用機器)HEU-001F Na+K+scan」を学術研究用に発売しており、日本高血圧学会が実施する臨床研究にも採用されている。
同社では、こうした新たな機器やサービスの開発に加え、減塩レシピのホームページでの紹介などの啓蒙活動推進によって高血圧患者の血圧値適正コントロールを支援し、同社が循環器疾患事業ビジョンとして掲げる「脳・心血管疾患の発症ゼロ(ゼロイベント)」の実現に取り組んでいる。
調査結果のまとめは、次の通り。
- 高血圧対策として普段取り組んでいる事柄は「医師の指示通り服薬する」が最も多く、禁煙や水分を多くとる人が6割以上。適度な運動やカリウムの摂取量を意識している人は半数以下に。
- 血圧管理の意識は冬に最も高まるが、夏と冬での対策に変化がない人が84%。
- 今年の夏に高血圧対策を行ううえで不安なことや悩んでいることは「マスク着用で、例年以上に熱中症や脱水症がこわい」
- 夏の塩分管理は「適量に調整している」人が37%。「気にしているが調整できていない」が約3割。
- 「ナトカリ比」を知っている人はわずか7%。73%が「ナトカリ比」を聞いたことがない。
【調査結果の詳細】
1.高血圧対策として取り組んでいることは「医師の指示通り服薬する」が最も多く、禁煙や水分を多くとる人が6割以上。適度な運動やカリウムの摂取量を意識している人は半数以下に。
高血圧対策として知っている事および実践の有無について質問したところ、「医師の指示通り服薬する」をと回答した人が96.9%と、最も多い結果となった。
次に、「禁煙するもしくは喫煙を控える」と答えた人は77%、続いて「水分を多くとる」が68.7%となった。
一方で、「適度な運動を取り入れる」人は46.2%となり、対策として知っているが実施できていない人が約半数に上った。さらに、体内の塩分排出を促すカリウム摂取に関しては「カリウムの摂取量を意識した食事を摂る」と回答した人はわずか25%に留まった。
2.血圧管理の意識が最も高まる季節は「冬」。
季節によって血圧管理に対する意識が変化するか質問したところ、「変化はない」と回答した人が57.3%、次いで40.1%が「冬に最も意識する」と回答した。
さらに、夏と冬で高血圧対策の内容を変えているかの質問では、84%の人が「変えていない」と回答した。
3.今年の夏、高血圧対策を行ううえで不安なことや悩んでいるのは「マスク着用で、例年以上に熱中症や脱水症がこわい」
今年の夏に高血圧対策を行う上での不安や悩みの質問では、「特に悩みや不安はない」が43.5%となったが、一方で「マスク着用で、例年以上に熱中症や脱水症がこわい」が40%に上り、継続するマスク生活による夏の健康管理への不安が浮き彫りになった。
また、夏は、熱中症対策などで塩分摂取の機会が増えるため、全体の15.7%の人が「どの程度塩分を摂取していいのかがわからない」と回答。夏の塩分摂取に対する悩みも判明した。
4.夏の塩分管理は、およそ3人に1人が「気にしているが調整できていない」と回答。
夏の塩分管理について調査したところ、36.9%が「塩分摂取は適量に調整している」と回答した。29.3%は「塩分摂取量を気にしているが、調整できていない」と回答した。
5.「ナトカリ比」を知っている人は、わずか7%に留まる。
摂取した塩分(ナトリウム)とカリウムの比率を示す「ナトカリ比」について質問したところ、聞いたことがない人が73.3%、聞いたことがあるが内容を理解していない人が19.5%に上り、聞いたことがあり理解している人はわずか7.1%に留まった。高血圧対策の一つとして重要なカリウム摂取に関する認知が十分とは言えない実態が判明した。
三浦克之滋賀医科大学NCD疫学研究センターセンター長・教授のコメント
血圧変動は外気温による影響が大きく、冬場は多くの人の意識が高まるが、そもそも血圧管理の目的は脳卒中や心臓病などの発症予防のためであり、夏にこれらの疾患の発症率が低くなるわけではない。夏だからと言って、気を緩めていいとは言えない。
夏は、気温と湿度が高くなるため、高血圧対策とともに熱中症対策が大切である。特に昨今のコロナ禍でのマスク生活の場合、これまで以上の対策が必要だ。
熱中症対策として塩分摂取の必要性が巷では叫ばれているが、我々日本人の食生活では一般的な生活をしている人(屋外での激しい運動や重労働をして大量の汗をかく人を除く)が塩分不足になることはほとんどない。
調査結果を見ると熱中症対策を意識しすぎて、塩分摂取を増やすという人がいるようだが、本当に必要なのは適切な水分補給である。
また、夏は血圧がやや下がるが、自己判断で降圧剤を減らしたりせず、必ず主治医に相談して頂きたい。
私が代表を務める厚生労働省の研究班では、コロナ禍での自粛生活により、自宅で調理する人の割合が男女ともに増加し、また、野菜を摂る機会が増えていた。
野菜や果物には、カリウムが豊富に含まれている。カリウムには、体内の塩分の尿への排出を促す作用があるため、血圧をコントロールするうえでは非常に重要な存在である。
塩分(ナトリウム)の摂取を減らし、カリウムの摂取を増やして、その比である「ナトカリ比」を減らすことが血圧低下のために重要である。
日本の高血圧患者のなかで、血圧を適切にコントロールできていない人は全体の約半数いると言われている。長引く自粛生活で変化する生活様式に戸惑うことも多い一方で、普段の食生活に、高血圧対策として「ナトカリ比」の考えを取り入れる機会とするのも良いだろう。