薬局のあり方が変わろうとしている。医薬品・医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保に関する法律(薬機法)改正が、大きな影響力を及ぼしていることは間違いない。中でも「薬局のあり方見直し」の4項目、すなわち「(1)服用期間を通じた継続的な薬学的管理と患者支援、(2)医師等への服薬状況等に関する情報の提供、(3)地域連携薬局及び専門医療機関連携薬局の導入(2021年8月施行予定)、(4)遠隔(オンライン)服薬指導」が、薬局および薬剤師業務の改革を求めているものと思われる。また、薬生総発0402第1号「調剤業務のあり方について」や新型コロナ特例措置に関する事務連絡(薬生総発0410)による調剤業務への影響も見逃せない。法改正等による「改革」や「変化」の要求は政経を司る常道と言えるが、制度ビジネスにとって業態・業務のあり方を決定的に変化させる。加えて今、COVID-19パンデミックが、社会環境を大きく変化させつつある。とりわけ医療提供施設への負荷が大きいのは当然としても、感染者や重症者の対応等で旧態依然とした医療体制の問題点が露見するなど、改善の必要性が指摘されている。コロナ後の社会再構築に向けて、医療制度も改革の好機と捉えられる。薬局は、機能分化と共に薬剤師業務のモノからヒトへの構造転換がテーマとなり、時代の要求に即した形態・機能・業務への改善が求められている。ただし、薬局の調剤は、すべてヒトを対象とするサービス業務であることは敢えて申し上げたい。薬局の機能改善は、経営資源投入増に繋がることは必至で、此の先大きな伸びが期待できない保険調剤報酬の下では、薬局改革に要する経費負担に耐えられない法人等の出現が容易に想像できる。今まで以上にMergers and Acquisitions (M&A)や統廃合が起る可能性を否定できないどころか、すでにその兆候が見え始めている。薬局の存続をかけた一つのサバイバル競争に突入していると思われる。本稿では、薬局・薬剤師業務改善に関して3つのキーワードから見てみたい。
1)服用期間を通じた継続的な薬学的管理と患者支援
理念先行で実務ひな形が無く、薬剤師がどのような実績を示していくのか関心の高いところである。ヒトへのかかわり強化を求められている薬剤師としては、この機に患者や医療機関・医師とのコミュニケーション向上を図り、医薬分業のメリットの一つとして定着させて行くことが望まれよう。日本薬剤師会が「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」(第1.1 版:2020年9月)を発表している。基本的な考え方として「患者フォローアップをどのようなケースで行うのか、またどのように行うのか」について、薬剤師の専門性に基づき、① 個々の患者の特性、② 罹患している疾病の特性、③ 当該使用薬剤の特性に合わせて、適切に患者フォローアップを行うべきことが示されている。法的義務となった調剤後フォローアップが、薬局・薬剤師の運用方法によっては患者に不快な思いを与えてしまいクレーム事象になることも危惧される。それ故に現場では、少なからず運用の難しさや戸惑いもあろう。調剤後フォローアップ業務に関して、患者の療養環境や薬局運営にも配慮すべきで、例えば次のような事項を考慮することが望ましいのではないか。(1)調剤後フォローがアップ必要な患者について、薬剤師の専門性に基づき医療者として判断することは当然だが、①薬剤管理指導等の調剤報酬(かかりつけ薬剤師登録患者、調剤後薬剤管理指導・特定薬剤管理指導・吸入指導加算)算定患者の対応、②処方元医療機関との連携(医師からのフォローアップ依頼、オンライン診療等)、③処方解析の評価(ハイリスク薬や要管理医薬品の服用、長期投薬・変則的薬剤服用等)、④薬歴の評価(複数医療機関受診、服薬ノンコンプライアンス、アレルギー・副作用歴、臨床検査値の変動等)、加えて、⑤患者からフォローアップを依頼された場合、などの対応が望まれる。 (2)患者への最適な連絡方法の選択について、現状ではテレフォンフォローアップが主となっているが、勤務形態や生活様式の多様化に加えてCOVID-19パンデミック状況下での適切な連絡対応が望まれる。(3)患者に即した指導・記録について、調剤録の整備が求められるが、厚労省・薬生総発0831第6号により、薬剤服用歴に必要事項が記載されていれば当該規定を満たすこととなった。患者対応と記録は、Problem-Oriented System(POS)-Subjective data/Objective data/Assessment/Plan(SOAP)やProblem-Oriented Medical Record(POMR)等の概念に基づいて行われているのが一般的であろう。その中にIERすなわちIntervention(実施・介入した具体的内容)、Evaluation(Interventionの結果・評価)、Revision(EvaluationからPlanやInterventionの修正)の要素が含まれていると判り易い。また、PlanにはEducational Plan(患者への教育的指導計画)、Care Plan(疑義紹介や処方介入、個別調剤計画)、Observational Plan(今後の見守りや薬学的知見の継続的指導)が考慮されていることが望ましいのではないか。 (4)調剤の安全確保のための各種手順書について、法的要件と薬剤師業務の変化に即して指針・手順書の整備・改訂が望まれる。自らの薬局の特徴・機能を考慮して業務手順書を整備し、併せて職員研修が必須である。こうした対応は、薬局・薬剤師にとって実務上の大きな負担であることは否めないが、薬剤師の技能を活かした患者個別調剤と投薬後の患者フォローアップを丁寧に行い、患者の薬物療法に貢献することが、医薬分業のメリットとしての理解を得る機会になるのではないか。
2)オンライン服薬指導
オンライン診療は1997年12月の厚労省通知により始まり、「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムにより行う行為」と定義されている。2020年の改正薬機法により、処方箋薬剤交付時の対面服薬指導の例外としてオンラインによる服薬指導が認められた。また、新型コロナ特例措置に関する事務連絡(0410通知)によりオンライン診療及び服薬指導の運用幅が拡大した。こうした環境変化に対応して、オンライン診療を届け出る医療機関は増加傾向を示している。診療側の不安要因として、実診療との差異、患者側の通信環境と通信機器の利用能力(literacy)の差異、プライバシーの確保とセキュリティ対策、診療報酬などがあげられている。薬局にとってもオンライン服薬指導は一つのチャンスであり、患者の移動や待ち時間などの負担軽減、訪問薬剤師などの負担軽減、慢性疾患等の治療中断抑制効果や重症化防止、などの患者メリットを生かす努力が望まれる。また、電話や通信機器による診療を受けていない患者でも、医師に電話等(映像が必須でない)による服薬指導を希望すればオンライン服薬指導を受けることが可能で、受診した医療機関から患者が希望する薬局へ処方箋のFAX送信ができる。さらに、オンライン服薬指導の要件である「服薬指導計画」の作成が、コロナ特例では必要ないことなどは、薬局のメリットといえる。しかし、目下のところオンライン服薬指導の届出薬局は比較的少ない。この原因は何処にあるのだろうか。法的要件の遵守に加えインフラ整備経費、薬剤搬送問題(特に費用負担)、調剤報酬などがあげられよう。また、来るべき処方箋電子化(医療機関連携含む)への対応なども含めて費用対効果の面からも検討事項が多いとされる。特に、処方箋電子化は、システム構築や運用方法によって処方箋の流れや調剤手順が大きく変わる可能性があり、薬局にとって大きな不安材料であろう。一方、コロナ収束後の社会変化やICT活用に相応して、薬局のあり方もダイナミックに変化することが容易に想像できる。例えば、処方箋電子化(リフィル処方箋を含めて)を受けてインターネットでの処方箋受付(インターネット薬局やメールオーダ薬局の可能性)、疑義照会プロトコルシステムの運用、パッケージ医薬品(少量個包装医薬品あるいはリパッケージ医薬品)の調製・投与、効率的な患者への薬剤搬送システムの運用、オンライン服薬指導(調剤後フォローアップ含む)へと発展する可能性が考えられる。結果として、薬剤投与にかかる所要時間短縮化など患者負担の減少や医薬品のトレーサビリティ向上による安全管理も高まるものと思われる。加えて調剤後の患者フォローアップの最適な実践が、患者の薬剤適正使用や有害事象等の早期発見につながるであろう。また、薬局によっては、より効率的な医薬品管理が可能となるSupply Processing Distribution(SPD)導入も視野に入るのではないか。現状からすれば諸々の問題点が指摘されるが、新しい薬局のあり方として想定し得るところもあるのではないか。
3)地域連携薬局
改正薬機法により、2021年8月以降には「地域連携薬局」並びに「専門医療機関連携薬局」が登場する。専門医療機関連携薬局は「がん治療にかかる専門的な調剤や薬学管理の実施」という果たすべき機能が明確だが、地域連携薬局の目的は、薬局の基本的機能から地域特性に相応した機能まで幅広く求められており、運用は案外難しいかも知れない。地域医療連携とは、地域の医療機関が自らの施設の実情や地域の医療状況に応じて、医療機能の分担と専門化を進め、医療機関同士が相互に円滑な連携を図り、それぞれが有する機能の有効活用により、患者さんが地域で継続性のある適切な医療を受けられるようにするきめ細かな医療提供システムとされる。施策が推進されて約15年を経ており、大学病院主導連携、病院主導連携、診療所連携などのほかネットワークサービスも稼働している。また、平成29年4月に施行された地域医療連携推進法人制度(一般社団法人を都道府県知事が認定)は、現在20法人(令和2年10月現在)が認定されている。大阪府では2法人(北河内メディカルネットワーク、弘道会ヘルスネットワーク)が稼働しているが、東京都、愛知県、福岡県などの大都市に同法人はない。地域医療連携への取り組みは、都道府県・地域で差異が大きく一概に比較できないが、患者さんは専門医療機関紹介・診療予約等の種々のメリットを享受していることも事実である。
さて、地域連携薬局は、薬局が他の医療提供施設と連携し、地域における薬剤及び医薬品の適正な使用の推進及び効率的な提供のために、必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の実践が基本的機能であろう。薬局が個別の医療提供施設と連携するにあたり、適正な医薬分業の精神が要求されることは当然だが、患者も医療提供施設も薬局も連携メリット無くして継続は難しい。特に大病院や地域医療連携推進法人の地域医療連携ネットワークへのオンライン連携は、多職種連携が必須で適切なソリューションが運営・維持に不可欠である。薬局が、医療連携上で価値あるデータベースを提供できるかが重要な要素となる。薬剤師には倫理高揚はもちろんのこと、どういった思考・行動が高い成果につながるかの行動特性(competency)が望まれるし、相応の研修も求められるのではないか。
COVID-19収束後の社会再構築が話題になっている。マイナンバーカードと医療保険の連携や処方箋電子化など、医療分野のICT活用が格段に進む状況になってきた。国民医療費の財政難からすれば、医療制度の根幹から再構築されるかも知れない。社会再構築が患者の受療行動や処方箋動向に大きな影響を与え、薬局の処方箋受付や調剤及び情報の取扱いが大きく変わる可能性がある。また、保険調剤とは別に、薬局としてできる地域住民への新たなサービスを展開していく必要もあろう。薬局の立地等を活かして機能や特徴をどう掲げるかが、今後の運営と発展に大きく影響するであろうし、一つのパラダイム・チェンジ(paradigm change)が期待される。とはいってもこの先、薬局として十分な基本的要件を満たし、間違いのない丁寧な調剤で患者さんに支持される薬局が、経営に行き詰まることが無いものと思いたい。