武田薬品は12日、第39 回J.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンスで、継続的な事業変革の進捗および成長についての最新情報を発表し、「2019年度から50%成長して2030年度までに売上収益5兆円」の目標や、「ベスト・イン・クラス/ファースト・イン・クラスの有望な治療薬として2024年度までの承認取得を目指す」ことを明らかにした。
同カンファレンスでは、クリストフ・ウェバー代表取締役社長 CEOより、今後10年の同社売上収益成長に大きく貢献すると見込まれる主要なパイプラインを含む、同社のポートフォリオ、パイプライン戦略、および業績見通しについて詳細が発表された。
ウェバー氏は、「2020 年、当社は、安定的なビジネスモデルとポートフォリオの厚さ、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行による困難を乗り越え、従業 員が世界中の患者さんや地域社会への貢献に継続的に取り組んできたことを示した」と指摘。
その上で、「常に患者を中心に考えるというバリュー(価値観)に基づく研究開発型のバイオ医薬品企業として、創業240 年を迎える2021年も、サイエンスの革新性を追求し、すべての患者、ともに働く仲間、いのちを育む地球のために、という約束を胸に、革新的な医薬品の創出に引き続き注力していく」と強調している。
持続的成長を支える革新性の高いパイプライン
武田薬品は、世界レベルで最先端かつパートナーシップからなる研究開発体制を構築し、臨床開発の段階にある多様でダイナミックな約40の新規候補物質を創出している。同社のパイプラインのポートフォリオは、売上収益の成長に大きく貢献する可能性を有しており、2019年度から50%成長することで2030年までに 5 兆円(470 億米ドル)の売上収益達成を目指している。
売上収益成長の大部分は、ベスト・イン・クラス/ファースト・イン・クラスの治療薬となり得る独自の12の新規候補物質を含むウェーブ1 パイプライン、および現有の14のグローバルブランドによってもたらされるものである。
ウェーブ1パイプラインでは、FDAより5件がブレークスルーセラピー指定を、3件がファストトラック指定を受けている。さらに、1 件は厚生労働省の先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、他の1件は、中国国家食品薬品監督管理局より初めての多国籍バイオ医薬品企業に対するブレークスルー指定を受けている。
ウェーブ1のすべてのパイプラインで見込まれるさらなる短期的な開発マイルストンに加え、5件の重要なデータ読み出しを含む 12の重要なマイルストンが、2022年度を通じて達成される見込みである。
ウェーブ1パイプラインのほか、社内の研究能力と現在進行中の200以上の外部とのパートナーシップからなる当社の研究体制を通じ、武田薬品は、2025年度以降の持続的成長につながるウェーブ2パイプラインにおいて次世代治療薬の創出を着実に進めている。
早期臨床および前臨床段階にあるウェーブ 2パイプラインは、同社の重点疾患領域全体にわたるアンメットニーズの高い患者に対する劇的な改善や治癒の可能性のある治療薬で構成されている。
これらの新規候補物質は、ヒトでの有効性が明確に確認された多様なモダリティ(創薬手法)ならびに細胞治療や遺伝子治療、データサイエンスにおける新規基盤技術を駆使して開発している。
有望な主要ウェーブ1パイプライン
ウェーブ1パイプラインの4価デング熱ワクチン(TAK-003)は、血清反応陰性者(デングウイルス感染歴がない方々)の保護や入院の回避など、デング熱をコントロールするうえで主要な優先課題はもとより、グローバルで大規模な脅威への対処に寄与する可能性がある。TAK-003は、4 種のワクチンウイルス型すべての遺伝子型の“バックボーン”として弱毒化された生の2型デングウイルスをベースに構築されている。TAK-003開発プログラムはP3相試験であるTIDES試験(Tetravalent Immunization against Dengue Efficacy Study) を含む。二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験であるTIDES 試験は、小児・若年被験者を対象とし、4種すべての血清型によって引き起こされるウイルス検査レベルで感染が確認されたあらゆる重症度の症候性デング熱の予防において、TAK-003を2回接種した際の安全性および有効性を評価している。TIDES試験は、継続進行中で、引き続き合計 4.5 年間にわたり安全性および有効性を検討する。
デング熱は、最も急速に感染が拡大している蚊媒介感染症で、世界保健機関(WHO)は、2019年のグローバルヘルスに対する 10の脅威の1つにデング熱を挙げている。世界人口の約半分がデング熱の脅威に晒されており、毎年3億9000万人がデング熱に感染していると推測される。
次に、TAK-755は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に対する革新的な治療薬である。TTPは、正常な血液凝固の調節に不可欠な酵素である循環 ADAMTS13 の低活性あるいは活性欠如により引き起こされる命を脅かす血液凝固障害だ。先天性 TTP および免疫性TTPに対する新たな治療薬には高いアンメットニーズが存在し、TAK-755は、両タイプのTTPの治療薬として現在開発中の初めてかつ唯一のADAMTS13 酵素補充療法である。
承認された場合、TAK-755は ADAMTS13レベルを迅速かつ完全に補正し、罹患率と死亡率に好影響を与える唯一の酵素補充療法となる可能性がある。TAK-755 は、先天性TTPの予防におけるファースト・イン・クラスの治療選択肢として、また、免疫性 TTP に対するベスト・イン・クラスの治療薬となる可能性がある。
さらに、TAK-755 は、治療を簡素化し、血漿分画製剤および血漿交換の有害事象の回避、さらに在宅での治療実現が期待されている。現在、免疫性 TTP を対象としたP2相試験のデータの読み出しが2021年に、先天性 TTPを対象としたP3相試験のデータ読み出しが2022年に予定されている。
また、テキサス大学の MD Anderson Cancer Center との共同で開発している TAK-007は、IL-5で“武装”し、CD19陽性B細胞性悪性腫瘍を標的としたキメラ抗原受容体(CAR)ナチュラルキラー(NK)細胞療法である。
このプロファイルは、TAK-007 が同種異系の治療法であり、患者自身ではなく他人の健常ドナーからNK細胞採取を意味している。そのため、TAK-007 は既製の細胞療法製品として製造されストックされることを企図している。
MD AndersonのCAR NK CD19は、再発・難治性の非ホジキンリンパ腫(NHL)および慢性リンパ性白血病(CLL)患者を対象としたP 1/2相試験が実施されている。現在進行中のP1/2相試験において、CAR NK療法は、既存のCAR-T細胞療法で見られる重篤なサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性とは関係しておらず、また、外来で投与できる可能性がある。
再発・難治性 B 細胞性悪性腫瘍患者を対象としたTAK-007の臨床試験は、2021年に患者登録を開始する予定だ。現在、がんの治療法として承認されている CAR NK 療法や同種異系細胞療法はない。
TAK-994 および TAK-925
TAK-994 は、ナルコレプシータイプ 1(NT1)の治療薬として臨床開発段階入りした初の経口選択的オレキシン 2 受容体作動薬である。NT1は、希少な神経疾患であり、日中の過度な眠気、情動脱力発作(カタプレキシー:本疾患の兆候および症状)が特徴で、オレキシン産生ニューロンが消失する。TAK-994は、現在ナルコレプシーを対象としたP2相試験(SPARKLE-1501 試験)が進行中だ。承認された場合、TAK-994は疾患の病態生理に対処する初めての治療薬となる可能性がある。
TAK-925(静注製剤)ではNT1、ナルコレプシータイプ 2(NT2)、交代勤務睡眠障害において POC データを公表している。特発性過眠症と閉塞性睡眠時無呼吸のデータは今後公表予定である
財務面の強化
武田薬品は、投資適格格付の維持に取り組んでおり、力強いキャッシュ・フローとノン・コア資産売却から得られる資金による迅速なレバレッジ低下により、2021年度から2023年度に純有利子負債/調整後 EBITDA 倍率を 2 倍にする中期目標に向け、順調に推移している。
2020年度上期には、ノン・コア事業等の売却目標額 100 億米ドルを超過し、2019年1月以降に公表した11案件で最大116億ドルのノン・コア資産の売却額となっている。また、2020 年度上期のさらなるレバレッジ低下により、同期末時点で3.7 倍の純有利子負債/調整後EBITDA倍率となった。
武田薬品は、堅実な成長を維持しており、中期的にも実質的な成長を加速させる見込みである。同社はまた、2021年度末までに年間23億米ドルのコストシナジーの達成に向けても順調に進捗しており、利益率の改善を下支えし、中期の目標である30%台半ばの実質的なCore営業利益率を達成する見込みだ。同社は、確立された配当方針に基づき1 株当たり年間 180 円の配当を維持し、引き続き株主還元に努めていく。
なお、J.Pモルガン・ヘルスケア・カンファレンスに関する武田薬品のプレゼンテーションの模様は、
同社ウェブサイト(https://www.takeda.com/jp/investors/ir-events/)で閲覧できる。