歯工連携で口の中の傷を治す新しい生体材料開発 新潟大学・早稲田大学・多木化学

 潟大学大学院医歯学総合研究科生体組織再生工学分野の泉健次教授らの研究グループは18日、早稲田大学ナノライフ創新研究機構の水野潤研究院教授、および多木化学株式会社(兵庫県加古川市)との歯工連携により、口の中の傷をより良く治す可能性がある新しい生体材料を開発したと発表した。魚コラーゲン製の移植材料に、ヒトの口腔粘膜特有の波状の構造を付与する技術を確立した。同成果は、17日に国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載された 。

図1 ヒト口腔粘膜の構造(左:模式図、右:顕微鏡組織像)


 ヒトの口の粘膜(歯肉)や皮膚は、上皮(シーツ)と結合組織(マットレス)の2層でできていて、その境界面を形成する結合組織(マットレス)の表面は、ちょうど台所用スポンジのような波状構造(マイクロパターン)をしている(図1)。
 この構造は剥がれやすい上皮と結合組織が接する面積を大きくして、はがれにくくする効果があります。生体模倣という観点からこの波状のマイクロパターン構造は、傷を治す上で重要な構造であることは明らかだ。
 現在、手術後にできた口の中の傷に対し、コラーゲン製人工皮膚(真皮欠損用グラフトを移植して、傷を治す治療が一般的に行われている。現在市販されている材料は、ウシやブタから抽出したコラーゲンが用いられ、材料の内部は多孔質と呼ばれる孔の開いたすかすかな構造で、傷を治す細胞が材料内に侵入しやすくなっている。だが、材質が脆いため、術野の狭い複雑な形態の口の中では縫いにくく、動物由来のコラーゲンのためにやや高価で、未知の病原体による伝染性感染症リスクがゼロではない。
 そこで同研究グループは、生体模倣を実装し、CO2排出の面から地球環境にも優しい、安心、安全、安価な膜状のコラーゲン製人工歯肉の開発を推進してきた。波状構造をもった結合組織(マットレス)の作成法を開発し、再現に成功している。
 今回の研究成果は、歯工連携という異分野連携を図ることで、コラーゲン製人工歯肉の開発に向けて一歩前進した。すなわち、安全性と安価を担保するために、未知の感染症リスクがなく、廃棄される材料である魚(イズミダイ)うろこコラーゲンを利用した。魚のコラーゲンは、ドラッグストアで手に入る“コラーゲンドリンク”の主な原材料でもあるので、患者にとって安心感がある。

(図2) 魚うろこコラーゲン製材に付与されたマイクロパターン


 このコラーゲンを膜状にして縫合しやすい形状とし、半導体の基板を作るのに活躍する微小電気機械システム(MEMS/NEMS)というマイクロ/ナノテクノロジーを駆使することで、ヒトの歯肉に存在する波状の形態(マイクロパターン)をコラーゲン膜の表面に加工・付与することに成功した。(図2)
 このマイクロパターンを付与したコラーゲン膜の面にヒトの歯肉の細胞を播いて培養したところ、ヒトの歯肉に非常に似た組織を再現することができた(図3)。

(図3)ヒト培養口腔粘膜の顕微鏡組織像図1の上皮脚に相当する細胞層が形成されている


 今後、ブタの口の中に作った傷に今回開発したコラーゲン製人工歯肉を移植して、傷の治りを検証する実験を予定している。同時に、ナノテクノロジーをさらに発展させて、ヒトの様々な組織固有のマイクロパターンの形態とサイズを最適化し、口の中の傷にとどまらず、皮膚などの口の外の傷にも応用できるコラーゲン製材の開発につながることが期待される。
 加えて、現在動物実験が禁止されている化粧品の安全性試験では、人工のヒト細胞がモデル化されて用いられるが、そうした製品への応用も期待されるで、今後一層の歯工連携を深めていく。

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