アストラゼネカは27日、「オンライン・メディアセミナー」を開催し、開発中の新型コロナワクチン(AZD1222)や長時間作用型抗体(AZD7442、LAAB:Long-Acting AntiBody)の進捗状況や、2020年の開発パイプラインとR&D戦略を説明した。
パンデミックワクチンプロジェクト日本リードの田中倫夫研究開発本部サイエンス&データアナリティクス統括部長は、「今、ワクチンの2回接種での臨床試験を続けており、コロナウイルスに対する抗体価の上昇が確認されている」と強調。その上で、「さらなるワクチン開発への加速」を訴えかけた。
AZD1222は、コロナウイルスのある一部(SARS CoV-2スパイク蛋白質の遺伝物質)をアデノウイルスベクターを使ってヒトの体内に届けて、抗原を作成するというもの。AZD1222のアデノウイルスベクターは、チンパンジー由来の「ChAdOx1」を基盤とする。
その理由を田中氏は、「ヒトに感染するアデノウイルスを用いれば既存の免疫を持っている可能性がある」と指摘し、「通常、ヒトでは感染したことのないチンパンジーに特異的なアデノウイルスを使用している」と説明した。
ChAdOx1は、無毒化で複製されないチンパンジー由来のアデノウイルスで、発熱などが起こらないようにウイルスの遺伝子改変を行っている。
AZD1222の臨床試験は、本年4月から開始されたが、SARSやMERSの流行時に既にオックスフォード大学がこのアデノウイルスベクターを用いたワクチンの臨床試験を実施しおり、その時の300数十症例の安全性評価やその他のデータが活用されている。
田中氏は、「アストラゼネカでは、パンデミック時には利益を得ない形で迅速にワクチンを供給するため、30億回程度の生産能力を有している」と断言。さらに、「日本では、国内生産による1.2億回分の生産準備を進めている」と強調した。
また、AZD1222は、「温度状況が2~8度の冷蔵庫レベルで配送できる」ことも併せて報告した。
一方、長時間作用型抗体(AZD7442)は、SARS-CoV2スパイクタンパクを標的とした2種類の抗体を組み合わせたもので、Zostらによる前臨床データが本年Natureに掲載された。
現在、P3試験を米国、英国などで進行中で、英国政府と100万回分の供給、米国政府と10万回分の供給について合意している。
一方、アストラゼネカの開発パイプラインは、オンコロジー領域、循環器・腎・代謝領域、呼吸器・免疫領域の3つを重点領域としている。2020年11月26日現在、循環器・腎・代謝領域の「ロケルマ」とオンコロジー領域の「イミフィンジ」が日本で承認(適応拡大含む)され、2つの革新的医薬品の提供を実現した。
ロケルマは、本年3月、高カリウム血症治療薬として国内製造販売承認を取得し、5月に発売を開始した。イミフィンジは、本年8月、進展型小細胞肺癌を適応症に承認を取得している。
日本で申請中(9月30日現在)の製品には、新薬の抗がん剤「アカラブルチニブ」と、適応症拡大の「リムパー」、「フォシーガ」、「ブリリンタ」がある。
オンコロジー領域では、アカラブルチニブは「再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」の製造販売承認申請を、リムパーザは「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌における維持療法」、「HRR遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺癌(2次治療)」の適応拡大を申請している。
循環器・腎・代謝領域では、SGLT2阻害薬の2型糖尿病治療薬「フォシーガ」は、慢性心不全で、抗血小板剤治療薬「ブリリンタ」は、2型糖尿病患者における心血管系イベントの発生抑制で効能追加を申請している。
大津智子研究開発本部長は、日本の患者のアンメットニーズに応えたパイプラインの取り組みとして、日本やアジアに多い胆道がん、肝臓がん治療薬の「イミフィンジ」について言及。イミフィジンは、「完全切除を行ったII~III 期NSCLC患者を対象としたP3試験(MERMAID-1試験)を国内で実施している」と報告した。
さらに、小児開発として、逆流性食道炎維持療法等「ネキシウム」、RSV感染による下気道疾患の発症抑制「nirsevimab」、神経線維腫症I型「セルメチニブ」、喘息「ファセンラ」を紹介。新しい疾患へのチャレンジとして、膵がん「リムパーザ」、難治性リンパ性白血病「アカラブルチニブ」などを挙げ、「アストラゼネカは、優れたサイエンスに支えられた刺激的でバランスの取れたパイプラインを有している」と強調した。