データでみる医療・医薬の世界 八野芳已(元兵庫医療大学薬学部教授 前市立堺病院[現堺市立総合医療センター]薬剤・技術局長) 第14回

(Hachino Yoshimi、Ph.D. 元兵庫医療大学薬学部教授)

第1節:食生活と栄養

(1)食生活の変遷(in19.5.28/Tue.寄稿済)

(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7.3/Wed.寄稿済)

(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省] (in19.8.25:Sun.寄稿済)

(4)食生活に重要な栄養素 ―種類とそのはたらき―  (in19.9.26:Thu.寄稿済)

(5)栄養素の消化・吸収・代謝 (in19.10.7:Mon. 寄稿済)

(6)エネルギーの摂取と消費 (in19.11.1:Fri.投稿済)

第2節:医療と食事

  • 医療機関における食事・栄養 (in19.12.5:Thu.投稿済)
  • 疾患領域別栄養食事療法&薬物療法

 I.循環器疾患 (in20.1.6:Mon.投稿済)

II.消化器疾患

①胃・十二指腸潰瘍(in20.3.26:Thu.投稿済)、②炎症性腸疾患(in20.5.4:Mon.投稿済)、③肝臓病(in20.6.21:Sun.投稿済)、④胆石症・胆嚢炎(in20.8.3:Mon.投稿済)、⑤膵臓病(in20.9.4:Fri.投稿済)の5つの疾患を取り上げ、その病態と栄養療法および薬物療法についてまとめた。

III.腎臓疾患

この項目では、①慢性腎臓病(chronic kidney disease,CKD)、②透析(dialysis)の2つの疾患を取り上げ、その病態と栄養療法および薬物療法についてまとめる。

  • 慢性腎臓病(chronic kidney disease,CKD)(1,2,3、4)

慢性腎臓病の病態、栄養療法について(1、2、3):表1】

表1(1)

疾患 病態 栄養療法の原則 栄養療法の実際
慢性腎臓病 (chronic kidney disease, CKD 慢性腎臓病は、増加する末期腎不全の予備軍として慢性腎疾患が多数存在し、かつ心血管疾患(cardiovascular disease,CVD)の危険因子であることを背景にアメリカで提唱された概念である。  CKDの定義は、以下の①・②のいずれか片方、または、両方が3か月以上持続した場合とされている。 ①尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか(とくにタンパク尿の存在が重要)②糸球体濾過量(GFR)が60mL/分/1.73m2未満  (推定GFR(eGFR)は、[eGFR(mL/分/1.73m2=0.741×175×年齢ー0.203×Cr-1.154(女性は×0.742)]の推定式で算出される。また、ノモグラムや早見表が利用されている。)  発症の危険因子としては、高血圧症、糖尿病、タンパク尿、脂質異常症、肥満、喫煙、加齢、腎臓病の家族歴があげられる。  世界的に末期腎不全による透析患者が増加し問題となっているが、わが国も同様にCKDからの透析導入患者が増加して医療経済上の大きな問題となっているほか、CVDや入院および死亡率の危険性が高く、国民の健康をおびやかす状態となっている。 CKDの治療の目的は、腎機能を保護して末期腎不全への進行悪化を予防することである。従来は、ネフローゼ症候群、慢性腎不全など疾患別に分類されていたが、原疾患を問わず慢性に経過する腎臓病を包括してCKDという概念が腎臓病診療に導入されてきた。CKDの重症度は、GFRと尿アルブミン/尿クレアチニン比(ACR)で分類され(慢性腎臓病(CKD)の重症度分類(表3):日本腎臓病学会編、CKD診療ガイドライン2012、p.3、東京医学社、2012)、糖尿病G2A3、慢性腎炎G3bA1などのように表記される。 CKDステージによる食事療法基準*(表2:日本腎臓学会:慢性腎臓病に対する食事療法基準、2014年版)に準じて、次の7つの点を考慮して行う。 エネルギーの摂取タンパク質の制限脂質食塩の制限カリウム水分カルシウム

CKDステージによる食事療法基準:表2

慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)(4)は慢性に経過するすべての腎臓病を指している。CKDの原因にはさまざまなものがあるが、生活習慣病(糖尿病、高血圧など)や慢性腎炎が代表的でメタボリックシンドロームとの関連も深く、誰もがかかる可能性のある病気である。日本ではCKDの患者が約1,330万人(20歳以上の成人の8人に1人)いると考えられ、新たな国民病ともいわれている。

症状:CKDの初期は自覚症状がない。病気が進行すると、夜間尿、貧血、倦怠感、むくみ(浮腫)、息切れなどの症状が現れてくる。これらの症状が自覚されるときには、すでにCKDがかなり進行している場合が多いといわれている。体調の変化に気をつけているだけでは、早期発見は難しいのがこの病気の特徴である。早期発見のためには、定期的な検査が有効で、腎臓の働き(腎機能)の指標はGFR(糸球体濾過量)で表される。
定義:下記の①、②のいずれか、または両方が3か月以上持続した状態のことをいう。

  尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかで、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)がある。
  GFR(eGFR)が60(ml/分/1.73m2)未満に低下していること ※GFR:糸球体濾過量といい、腎機能を表す指標です。

適切な対応で進行を予防しよう!

CKDはその原因や進行度(ステージ)に応じて治療目標を定め、管理していくことが可能である。
自覚症状がなくても自己判断はせず、まずはご自分のステージを把握してみよう。食事療法や血圧管理、薬物療法などで腎機能の悪化を予防し、腎不全に進行することを予防できる。腎機能の悪化を防ぐには、治療を継続することが重要で、かかりつけ医に専門の医療機関の受診を勧められたら、指示に従って必ず受診しよう。

小冊子「CKDになっちゃった どうする?こうする!」

全腎協では、一般社団法人日本宝くじ協会の助成によりCKD重症化予防のための小冊子を作成しており、はじめてCKDを学ぶ方にむけて、食事や運動、日常生活のポイントがまとめられている。(4)

診断基準について:一般的には、慢性腎臓病(CKD)は①尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかであり、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)がある、もしくは、②糸球体濾過量(GFR)<60ml/分/1.73m2の①、②のいずれか、または両方が3か月以上持続することで診断する。血清クレアチニン値、年齢、性別からおおよその糸球体濾過量(GFR)として、18歳以上であれは推算糸球体濾過量(eGFR)を計算でき、その値からも診断することができる。

注意
推算糸球体濾過量(eGFR)は、どれくらい腎臓に老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示しており、この値が低いほど腎臓の機能が悪いということになる。
eGFRは健康診断で測定するケースもあるので、健診結果を確認してみよう。
計算式
eGFR(ml/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287  (女性は×0.739)

慢性腎臓病(CKD)重症度は、原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)、タンパク尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類で評価する。下記の分類表は日本腎臓学会が2012年に発表した「CKD診療ガイド2012」に基づいている。これ以前は、慢性腎臓病の病期(ステージ)はGFRで区分される腎機能のみを示したが、下表のように腎臓の働きの程度と、糖尿病や高血圧など腎臓病の原因となっている病気や尿タンパクの状態と合わせて評価することで一層の正確性や診断の妥当性が増す。

[慢性腎臓病(CKD)の重症度分類(1):表3]

[in CKD(慢性腎臓病) Minds版やさしい解説 | Minds …minds.jcqhc.or.jp › pub › pub0067]

重症度は原疾患・GFR区分・尿タンパク区分を合わせたステージにより評価する。
CKDの重症度は死亡、末期腎不全、心血管死亡発症のリスクを「緑■のステージを基準に、黄■ ⇒ オレンジ■ ⇒ 赤■ の順」にステージが上昇するほどリスクは上昇する。

合併症について:慢性腎臓病(CKD)のステージ(GFR区分)3~5においては、腎機能障害に伴ってさまざまな合併症が出現する。合併症とは、その病気がもとになって起こる、別の病気や症状のことである。

合併症 症 状 等
1.体液過剰・高カリウム血症 腎臓の機能が低下すると、体内に入った塩(ナトリウム)やカリウムの排泄が不十分になる。排泄できる量より多く摂取してしまうと、塩分は水分と一緒になって体液過剰になり、カリウムの濃度が上がる高カリウム血症になる。体液過剰はむくみや高血圧などをもたらし、進行するとうっ血性心不全や肺水腫になることもある。高カリウム血症は手や口のしびれ、不整脈、脱力、味覚異常などが出現し、高度になると心停止に至ることもあるので注意が必要である。
2.高血圧 水分や塩分をうまく排泄できないために、体内の水分量が過剰となり高血圧になる。
3.心不全・肺水腫 体内の水分量が過剰になると、心臓に負担がかかり心不全を起こしやすくなる。心臓がドキドキする、顔や足がむくむ、咳が出る、胸が苦しい、あおむけに寝ると息苦しいといった症状が出てくる。
4.尿濃縮力障害 たくさんの尿が出たり(多尿)、夜中に起きてトイレに行くようになる(夜間尿)などの症状が出てくる。症状の出にくい慢性腎臓病においては早期から出現する症状である。
5.高窒素血症 血液中に老廃物が増加する。血液中の尿素窒素(BUN)がクレアチニンに比べて高くなり(BUN/Cr比の上昇)、さらに腎臓の糸球体に負担をかけてしまう(糸球体過剰ろ過)。高度になるとさまざまな尿毒症の症状が出現するが、通常、慢性腎臓病のステージ5までは無症状である。症状として最も多くみられるのが、食欲不振や悪心などの消化器症状である。
6.代謝性アシドーシス 腎臓の機能が低下すると、血液は酸性に傾く(健康な体の場合は弱アルカリ性)。ほぼ無症状だが、血液中のカリウムを上昇させたりする。
7.貧血 腎臓で作られる造血ホルモン(エリスロポエチン)が減少するために貧血が起こる。症状としては、動悸、息切れ、めまいなどである。
8.二次性副甲状腺機能亢進 腎臓の機能が低下すると、ビタミンDの活性化ができなくなり、カルシウムの吸収が不足し、血液中のカルシウム濃度が低下する。血中のカルシウム濃度を正常化するために、副甲状腺の働きが亢進し、副甲状腺ホルモン(PTH)が多く出てきて、骨からカルシウムを吸収する。また、腎臓からのリンの排泄も減少するため高リン血症が出現することもあり、副甲状腺機能を亢進させる要因となる。その結果、カルシウムとリンのバランスが崩れ、骨が弱くなってしまう。

慢性腎臓病の薬物療法について(3):表4】

治療の目標:慢性腎臓病は管理しなければ末期腎不全になって腎代替療法が必要となり、日常生活に困難をもたらす。コントロールすべき症状すら末期まで出現しないため、目に見える目標を患者や家族と共有するのがむずかしい。「わるくしない」ことと「症状を緩和する」ことが治療の目標となる。大きく非薬物療法と薬物療法に分かれる。

(1)非薬物療法:この中で食事療法は100年以上の歴史がある。管理栄養士と協力して、食塩とタンパク質の過剰摂取を避けつつエネルギー不足をおこさないような食事指導を行う。また、腎臓病患者は運動を避けた方がよいとされてきたが、腎臓病の原因の多くが糖尿病や高血圧といった生活習慣病であるため、近年では、運動はこれらの疾患の改善を通じて腎機能維持に有効だと考えられるようになってきている。喫煙や過度の飲酒は避けること、肥満の改善などの生活習慣の改善も有効と考えられている。

(2)薬物療法:腎機能の低下に対する直接的な薬物療法はないため、間接的な薬物療法を、ステージに応じて組み合わせて行う。このため慢性腎臓病患者では処方数が多くなる傾向にある。大きく分けると、①腎疾患の原因に対する薬物療法、②腎機能低下に伴う症状の緩和に対する薬物療法がある。(表4)

①腎疾患の原因に対する薬物療法:腎機能低下の主な原因として「糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎」が挙げられる。糖尿病と高血圧は、それぞれ血糖と血圧コントロールを行うが、治療方針としては、原則的には腎機能正常の治療と同じである。ただし、慢性腎臓病患者では、腎機能の低下により薬物の排泄能が低下しているので、薬物の効果が残存しやすい。とくに一部の経口糖尿病薬(SU薬)では低血糖のリスクが上昇するため、使用を中止することが多い。末期腎不全においては、インスリン分泌促進薬のDPP-4阻害薬や、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、インスリン製剤が治療の中心となる。降圧薬の使用時は、ACE阻害薬やARBによる高カリウム血症に注意する。慢性腎炎の治療では副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬など、副作用の多い薬物を継続的に用いることが多いので、投与後の観察が重要である。 ②腎機能低下に伴う症状の緩和に対する薬物療法:[1]腎性貧血:腎性貧血に対してはエリスロポエチン製剤の皮下注射が行われる。ヘモグロビン値10~12g/dLを治療目標の目安として投与量・投与間隔を調整する。薬物の消失半減期から、投与間隔は最大1か月程度までのばすことができる。頻回の通院が困難な場合には、投与量・投与間隔を確認したうえで地域のかかりつけ医に投与を依頼して連携することもある。鉄欠乏を合併している場合には鉄剤投与(経口・静脈注射)を行う。[2]CDK-MBD:高リン血症に対してリン吸着薬を用いる。炭酸カルシウム製剤は血清リン値を低下させると同時に低カルシウム血症を改善するため、頻用される。PTHの上昇や低カルシウムに対しては経口活性型ビタミンD3製剤を投与する。活性型ビタミンD3製剤は、高齢者では高カルシウム血症を呈して急性腎不全を発症することがあるため、食欲不振や意識低下などの高カルシウム血症の症状に注意する。[3]高カリウム血症:腎臓の排泄能低下および代謝性アシドーシスにより、血清カリウム値が上昇する。7mEq/L以上では除脈性不整脈により心停止する危険があるため、カリウム吸着薬(陽イオン交換樹脂製剤)を投与して5.5mEq/L以下にコントロールする。副作用として高率に便秘を呈するので、水分を多めに摂取する。[4]代謝性アシドーシス:H+の排泄低下は、代謝性アシドーシスを引き起こし、さらに腎機能低下を進行させる。そのため、血清炭酸水素イオン(HCO3-)濃度20mEq/L以上を目標として重曹(炭酸水素ナトリウム)を投与するが、Na+過剰となる危険性があるので投与量には注意する。[5]尿毒素:種々の代謝産物を非特異的に除去するため、球形吸着炭を投与して尿毒素物質を便中に排泄させる。同時に服用した薬剤も吸着してしまうため、ほかの薬剤とは服薬のタイミングをずらす。

表4:慢性腎臓病患者に使用されるおもな治療薬の種類と特徴(3)


②   透析(dialysis)(1,2,3)
  • 透析とは:

 腎機能がおよそ10%以下になると透析療法が必要となる。透析は、腎機能のうち水・電解質の調節、タンパク質終末代謝物の排出、薬物の排泄のみを行い、血圧の調節、赤血球数の調節、ビタミンDの活性化などは代行できないので、透析導入後も栄養食事療法を行う必要が生じる。透析療法には、「血液透析(hemodialysisi,HD)」と「腹膜透析(peritoneal dialysis,PD)」がある。

  • 血液透析について:

 血液透析は、通常週3回透析施設に通院し、1回4~5時間かけて血液を体外に引出し、透析器(ダイアライザー)を用いて老廃物を取り除いてから、体に血液を戻すことで、血液中の老廃物を減少させる方法である。血液透析は間欠的に行うが、老廃物の除去を休むことなく行う腎臓の役割をすべて代替できないことから、食事療法が必要になる。

①栄養養食事療法の原則:血液透析時の食事療法は、エネルギーと良質のタンパク質を必要量摂取しながら、カリウム・食塩の制限、および水分管理を同時に行うことが必要となる。

 [血液透析(週3回)時の食事療法基準]

エネルギー(kcal/kgBW/日) タンパク質(g/kgBW/日) 食塩 (g/日) 水分 カリウム (mg/日) リン (mg/日)
30~35(注1,2) 0.9~1.2(注1) 6未満(注3) できるだけ少なく 2,000以下 タンパク質(g)×15以下

注1:体重は基本的に標準体重(BMW=22)を用いる

注2:性別、年齢、合併症、身体活動度により異なる

注3:尿量、身体活動度、体格、栄養状態、透析間体重増加を考慮して適宜調整する

(日本腎臓学会:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版、日本腎臓学会誌56(5):564、2014による)

②栄養食事療法の実際①エネルギー:エネルギーが不足すると、体タンパク質の異化亢進がおこり、体力の低下やカリウム値の上昇がおきやすくなる。必要エネルギー量は、基本的には健常人と同程度でよいが、年齢・性別・身体活動、および、肥満の有無を考慮して設定する。 ②タンパク質:1回の透析で3~7gのアミノ酸とタンパク質が損失すると報告されている。そのため、健常人の適正量よりも少し多い、1.1g/kg/日とすることが多い。 ③カリウムの制限:カリウム制限の目的は、高カリウム血症の防止であるので、基本的にはCKDと同様に制限するが、カリウム値が高くない場合には、制限を緩和するなど個々の対応が必要である。 ④食塩の制限:食塩は、血圧や浮腫軽減を目的に、CKDと同様の制限が必要である。しかし、CKDよりもタンパク質摂取量が多くなることから、味付けの濃さが同じであっても、摂取食塩量が多くなる可能性があるので注意が必要である。また、食塩摂取量の増加は、飲水量の増加にもつながりやすい。 ⑤水分:透析終了時の体重から、次回透析開始時までの体重の増加は、水分の貯留である。この増加が、透析間隔が中1日で3%、中2日で5%程度以内にとどまる範囲で摂取する。

  • 腹膜透析について:

 腹膜透析とは、腹腔内に透析液を入れて腹膜を介して老廃物を取り除く方法である。腹膜透析の方法として、連続携行式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis,CAPD)と児童腹膜透析(automated peritoneal dialysis,APD)がある。CAPDは、約2Lの透析液を腹腔内に入れ、4~8時間後に排液、続いて新しい透析液を入れる作業を1日3~4回自分で行う。APDは、専用装置を用いて、寝ている間に自動的に何回か透析液の出し入れを行う方法である。

①栄養養食事療法の原則:腹膜透析時の食事療法は、血液透析時と同様にエネルギーと良質のタンパク質を必要量摂取する。しかし、エネルギーは、腹膜透析液中のグルコースが血中に移行するので、体にとって必要なエネルギー量から、腹膜を介して摂取されるエネルギー量を差し引いた残りを経口から摂取する。その他、カリウムは老廃物と一緒に排出されてしまうので、制限の必要はない。また、常に透析を行っているため、水分は制限を必要としないことが多い。

②栄養食事療法の実際①エネルギー:必要エネルギー量は、血液透析と同様に基本的には健常人と同程度でよいが、透析液中のグルコースが腹膜を介して吸収されるため、経口から摂取する量はこれを差し引いた量にする。「腹膜透析ガイドライン2009年版」では、30~32kcal/kg/日が適当と考えられるが、個別に適正エネルギー量を設定するとされている。 ②タンパク質:1日でアミノ酸とタンパク質が、腹膜を介して13~15g排出されると報告されている。そのため、健常人の適正量よりも少し多く摂取することが勧められていたが、「腹膜透析ガイドライン2009年版」では、高タンパク質食における栄養指標の改善報告がされていないこと、高リン血症のリスクが増加することから、0.9~1.2g/kg/日を目標とすることが推奨されている。 ③カリウム:カリウムは、腹膜を介して透析液中に排出されてしまうので、基本的に制限を行わない。むしろ、低カリウム血症をきたす場合もあるので注意が必要である。保存期では、カリウム制限を行っている場合が多いので、制限しないように指導する。 ④食塩の制限:食塩摂取量は、[除水量(L)×7.5g]+[残存腎尿量100mlにつき0.5g]としており、残存腎機能廃絶例では、1Lの腹膜透析除水では1日7.5g程度までの摂取が上限となる。「腹膜透析ガイドライン2009年版」にも、食塩摂取量の指導は個々の尿量、除水量を勘案して行うことが必要であると記載されている。 ⑤水分:血液透析ほどの厳格な水分制限は不要であるが、水分の過剰摂取を避ける。

  • 薬物療法について(3)

治療の目標:透析患者では、まずは透析療法そのものが診療の中心となるが、これは現状の維持、すなわち生命の維持とQOLの確保が目標となる。最近では透析導入後も20年以上生存する症例も少なくない。短期的には透析で除去できる範囲での飲食を基盤とした食事療法が重要である。透析患者の高齢化が進んでいることもあり、適度な運動療法も必要となっている。透析療法における最近20年の進歩は長期合併症に対する薬剤の充実でもある。ほとんどの透析患者は多くの経口薬を服用するほか、透析時に静脈内注射で投与される薬剤もある。

薬物療法の方針:腎不全そのものと多様な合併症に対して、それぞれ処方がなされるため、透析患者の処方薬はすぐに10種類以上になる。個々の薬物の副作用や薬物相互作用によって薬物由来の症状が出現することも少なくない。効果がない薬剤はすぐに中止するなど、ふだんから処方整理がなされることが重要となる。処方の原型は慢性腎臓病のステージG4~5の患者に準ずるが、利尿薬、各種吸着薬、重曹など、透析療法を開始したことで中止が可能な薬剤もある。

 透析患者の腎機能はほぼ途絶しているので、腎機能維持のための治療は行わない。糖尿病・高血圧については引き続き血糖・血圧コントロールを行い、長期合併症である心血管疾患(CVD)を予防する。しかし、透析患者では、透析終了後から次の透析日までに徐々に体液が貯留して血圧が上がり、透析による除水で血圧が下がるため、透析開始前に比べて降圧薬の調節は難しくなる。よって、透析日と非透析日では降圧薬の処方が変更されることもある。

 透析療法に伴う症状の緩和としては、[1] 腎性貧血:腎性貧血に対しては、引き続きエリスロポエチン製剤の投与が行われる。透析終了後に静脈内注射により投与されることが多い。ヘモグロビン値10~12g/dLを治療目標の目安として、投与量・投与間隔が調整される。[2]CDK-MBD:透析導入前に比べて食事摂取量が増えることもあり、透析後は高リン血症がほぼ必発で、大多数の患者でリン吸着薬が用いられる。炭酸カルシウム製剤は血中でリン酸カルシウムを形成して血管石灰化の原因になるため、そのほかのリン吸着薬も多用される。活性型ビタミンD3製剤は、経口薬ではなく、透析後に静脈内注射で投与されることが多い。副甲状腺機能が亢進した場合には、カルシウム受容体作動薬が投与される。[3]高カリウム血症:高齢者では野菜・果物の摂取が多い。重篤な高カリウム血症では、便秘に注意しながらカリウム吸着薬を投与する。[4]瘙痒症:皮膚の瘙痒感に対しては、ナルフラフィン塩酸塩、抗ヒスタミン薬、保湿軟膏が組み合わせて処方される。

表5:透析患者に使用されるおもな治療薬の種類と特徴(3)

参考資料

(1)新看護学3 専門基礎3 食生活と栄養 ㈱医学書院 2017.2.1 p.253-258

(2)Q&Aでわかる病態別栄養管理 八野芳已著 2008年5月20日発行 ㈱医薬ジャーナル社

  p.81-91

(3)系統看護学講座 別巻 臨床薬理学 医学書院 2020.2.1 p.146-158

(4)診断基準について | 腎臓病について | 一般社団法人 全国腎臓病協議会

www.zjk.or.jp › kidney-disease › diagnostic-criteria

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