siRNA核酸医薬乳がん治療薬の医師主導P1試験開始 がん研究会有明病院

 がん研究会有明病院は2日、siRNA核酸医薬候補である乳がん治療薬(SRN-14/GL2-800)について、医師主導治験(First In Human 試験)を同日より開始したと発表した。SRN-14/GL2-800は、東京大学医科学研究所、札幌医科大学、川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)、慶應義塾大学病院、およびナノキャリアが共同開発したもの。
 わが国の女性のがん罹患数で第一位の乳がんは、既存の治療法で患者の3割が転移再発し、年間で1万人が死亡しており社会的影響が非常に大きい状況である。
 乳がんは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体: ER、プロゲステロン受容体: PgR)、がん細胞の増殖に関与するタンパク質の一つ(HER2)、がん細胞の増殖活性(Ki67 値)という 3 要素で分類され、その分類に応じて「内分泌療法」、「化学療法」、「分子標的療法(抗HER2 療法)」を単独又は併用で治療を行う。
 一方、治癒切除ができないトリプルネガティブ乳がん(TNBC)や、ホルモン療法が効かなくなった遠隔転移を有する、あるいは治癒切除ができない局所浸潤型の乳がんの患者に対する分子標的治療薬に関しては、現状では BRCA遺伝子変異陽性患者におけるPARP 阻害剤以外に、標準療法となっている薬物がない。
 SRN-14/GL2-800の治療標的分子であるPRDM14 分子は、人体のほぼすべての正常組織で発現がなく、TNBCを含む乳がんの症例の半数以上で発現が高いことが判明している。
 PRDM14分子は、細胞の核で発現する分子であるため、これを標的とする低分子化合物や抗体の開発は極めて難しく、今回、遺伝子配列情報から開発が可能な核酸医薬品の開発に着手した。さらに、治癒的切除ができない患者を対象とした治療薬の開発を目指すことから、病変への局所注射ではなく、静脈内注射による全身投与による治療方法の創出も喫緊の課題となっていた。
今回使用する核酸医薬候補のSRN-14/GL2-800は、iCONM、東京大学、東京大学医科学研究所が共同で開発した世界初のPRDM14分子に対するキメラ型 siRNAとそのナノキャリアーから構成される化合物だ。
 PRDM14分子は、乳がんでその発現が特に高いことが札幌医科大学において豊田実氏(故人)、今井浩三氏らにより発見された(Cancer Res, 2007)。
 SRN-14 は、東京大学で開発されたキメラ型 siRNAの高い安全性に加えて、特許出願技術であるsiRNA配列探索プログラム(siDIRECT)を基盤に治療用配列を選定した極めて標的分子に対する特異性が高いsiRNAである。東京大学、iCONMで開発された核酸ナノキャリアーである、分岐型 PEG-ポリオルニチンブロックポリマー(GL2-800)は、核酸と単分散(均一の粒形分布)を示す安定な複合体を形成し、高い安全性、優れた血中滞留性とがん組織への高い集積性を示す。
 SRN-14/GL2-800については、東京大学医科学研究所と医薬品開発業務受託機関で非臨床試験が実施された。TNBCに由来する乳がん細胞を用いた同所移植モデル、肺転移モデルを作成し、治験薬である SRN-14/GL2-800を静脈注射で投与したところ、乳がん細胞で形成される腫瘍サイズの縮小、および肺の転移巣形成の抑制が認められた。さらに、毒性試験において重篤な有害事象は 見られなかった。
 これらの結果からSRN-14/GL2-800は、乳がんの進行抑制が期待されたため、がん研有明病院、東京大学医科学研究所、iCONM、慶應義塾大学病院、およびアキュルナで共同研究を展開し、治験薬の製剤化と治験の準備を推進した。
 今回のP1試験は、がん研有明病院において、SRN-14/GL2-800を、ヒトに対して初めて投与する医師主導治験で、治癒的切除不能又は遠隔転移を有する再発乳がんで化学療法の全身投与適応となる患者に対して用量漸増法で行われる。 主要評価項目である安全性、SRN-14/GL2-800投与後の薬物動態の確認の他、副次的に SRN-14/GL2-800の薬効についても検討を行う予定である。

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