患者のためになる医薬分業の実現目指して 乾英夫大阪府薬新会長に聞く

 昨年12月、地域患者の安心した医薬品使用を目的とした継続的な服薬管理や、患者が自分に適した薬局を選択するための機能別の薬局認定制度(地域連携薬局、専門医療機関連携薬局)の導入が盛り込まれた改正薬機法が公布され、超高齢化社会に向けて薬剤師・薬局のあり方の見直しが求められている。こうした中、大阪府薬剤師会では、6月20日の代議員会で10年振りの新会長が誕生した。新会長就任の抱負の中で乾英夫氏は、「会員・執行部・職員が一丸となって、患者のためになる医薬分業の実現を目指していく」考えを強調した。そこで、乾会長に、今後の事業の進め方や抱負を聞いた。
 「藤垣哲彦前会長が整備されたかかりつけ薬剤師・薬局の基盤をしっかりと活用して、“患者のためになる医薬分業の実現”を目指していきたい」乾氏は、開口一番会長就任の抱負をこう語る。
 藤垣前会長は、5期10年の任期中に、ソフト面・ハード面から大阪府薬の基盤固めに尽力してきた。全国でも「まとまりのある組織」と一目置かれる執行部を育成し、医薬分業の推進・定着、eーお薬手帳システムの構築と日薬を通じた全国への拡大、健康サポート薬局の推進など、次々と薬剤師・薬局の基盤を確立して行ったのは記憶に新しい。
 大阪は、従来よりかかりつけ薬局型の面分業を推進し、処方箋受け取り率も65%を超えた。乾氏は、「処方箋受け取り率は、全国平均の約75%に比べてまだ10%ほど低いが、受け入れ薬局の整備は十分に整った」と強調する。
 だが、その一方で、「分業の良さを実感できず、患者の満足度が低い」という厳しい指摘を受けている一部の薬局の存在も否めない。「藤垣前会長には、分業の基盤整備をしっかりと整えて頂いた。これからの私の役割は、分業の中身の充実である」と言い切る。
 厚労省は、2015年に「患者のための薬局ビジョン」を策定し、2025年に全ての薬局を「かかりつけ薬剤師のいるかかりつけ薬局」にして「患者のためになる医薬分業を実現する」(乾氏)施策を進めている。
 「大阪では、患者のための薬局ビジョンに規定された“かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局”がある程度定着している。ただ、薬剤師職能が十分に評価されているとは言い切れないと思われる」と現状を分析する。
 薬剤師職能が十分に評価されていない要因については、「実際に見えている所しか評価できないため、薬を渡して服薬指導することだけが薬剤師の仕事と思われがちであった」と指摘する。実際、薬局によっては「薬剤師ではないスタッフが受付をして処方箋入力し、それを調剤室で薬剤師が調剤した後に服薬指導して薬を渡しておしまい」と患者に思われるケースも少なくないからだ。
 だが、「以前は調剤室の中で行っていた薬歴チェックも、最近では薬剤師が調剤する前に薬歴を見ながら患者に質問して現在の状態を確認する薬局が増えてきたため、薬剤師の役割も少し理解されるようになった」と話す。
 こうした中、昨年12月の薬機法改正により、薬剤師が調剤時に限らず、服用期間中も必要に応じて患者に対して服薬状況の把握や服薬指導を行う継続的な服薬管理が求められるようになり、本年9月から法律に基づいて施行される。
 さらに、「継続的な服薬管理に基づいて収集した患者情報の医師・歯科医師・病院薬剤師への情報提供」も努力義務として課せられている。加えて、来年8月からは、「地域連携薬局」、「専門医療機関連携薬局」の機能別薬局認定制度が施行される。
 これら薬機法改正に対応するための施策として乾氏は、まず、「大阪府と連携した周知の徹底」を挙げる。特に継続的な服薬管理については、「どのような状態の患者をどうフォローするかは、薬剤師の判断で決めることができる。すなわち、薬剤師が継続的な管理が必要がないと判断する根拠があれば、それが認められる」と説明する。その上で、「大阪府薬では、薬機法改正に対応するためのポイントが現場の薬剤師にしっかりと伝わる施策を打っていきたい」と訴えかける。
 2025年には、地域包括ケアシステムを構築する一員として、薬剤師・薬局があらゆる全ての医薬品の供給を責任をもって実施することが定義されており、その対応については「周知徹底だけではなく、そのための環境整備を進めて行く」考えだ。
 一方、継続的な服薬管理をするには、薬局薬剤師の在宅医療への参画が不可欠となるのは言うまでもない。大阪府薬では大阪府からの委託を受けて「医療・介護・総合確保基金事業」を展開している。同事業の一環として薬局薬剤師が在宅訪問する際に地域の未経験の薬局薬剤師が同行する試みをこれまでの3年間で実施してきた。「同行訪問によって未経験の薬剤師が在宅のイメージを掴めたため、会員の在宅医療への参画数は上がってきているものの、まだ、全ての薬局が行っているわけではない」と現状を報告する。
 さらに大阪府薬では今年度より、医療・介護・総合確保基金事業の一環として、地域の薬局薬剤師が病棟業務や退院時服薬共同指導カンファレンスに参画するモデル事業を実施する。反対に、薬局薬剤師がこれまで行ってきた在宅訪問に病院薬剤師が体験訪問する事業も実施される予定だ。
 このように、藤垣前会長時に策定された令和2年度事業計画は粛々と執行されており、乾氏も「今回5名が新たな役員に交代したが、新執行部をしっかりとリードして、一丸となって事業計画を進めて行きたい」と強調する。
 「令和元年度薬局の連携体制整備のための検討モデル事業」では、切れ目のない医薬品供給のための患者情報の共有化を目的に「入退院時情報共有シート」を作成して、国のモデル事業として大阪府全域の医療圏11ブロックで実施された。乾氏は、「既に実績も出ており、これをどのように広げていくか、足りないところを如何に補っていくかが今後の課題になる」と話す。
 昨年度は、大阪国際がんセンターとの研修を中心とした薬局薬剤師のがん専門医療機関との連携のための研修会も3回開催された。同研修会は、来年8月から施行される「地域連携薬局」、「専門医療機関連携薬局」の機能別薬局認定制度を見据えたものだ。
 「すぐに研修会に参加した薬局がこれらの制度に認定されるわけではないが、できるだけ多くの薬局が地域連携薬局になってほしい」と要望する乾氏。さらに、「大阪府薬では、これらの制度について認定要件を想定しながら今年度もモデル事業を継続していく」と力説する。
 乾氏は、新型コロナ禍の薬局経営への影響にも言及し、「受診抑制、長期処方により、処方箋枚数・技術料は減り、どの薬局も苦境に立たされている」と指摘し、「第二次補正予算の新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業における1薬局最大70万円の支援を全ての会員薬局が受けれるように申請面でアシストしたい」と話す。
 新型コロナウイルスの軽症感染者を対象とする大阪市内の宿泊療養施設に対する調剤は、6月1日より、スーパーホテル大阪天然温泉(大阪市西区)、アパホテル大阪肥後橋駅前(大阪市西区)、大阪アカデミア(大阪市住之江区)の3施設に近隣する3薬局が会営中央薬局から引き継ぐ形で実施している。
 乾氏は、コロナ禍における「研修会参加機会の確保」の重要性も強調する。「大阪府薬が開催する各種研修会にはたくさんの会員に参加して欲しい。だが、3密を避けるためのソーシャルディスタンスの確保からも会場を満員できない」と困惑する。
 その対処法として、「研修会は、参加者を入れながら同時にWeb配信するやり方を考えている。この方法であれば、日本薬剤師会研修センターの研修単位の対象にもなる」と明かす。
 日薬副会長を3期務めた乾氏は、一般用医薬品やセルフメディケーション、生涯教育部門を担当していた。従って、「生涯教育に対する思い入れは一層強い」
 研修認定薬剤師は、大半の薬局薬剤師が取得しているものの、「研修認定薬剤師だけでなく、特定領域での認定薬剤師・専門薬剤師を薬局の薬剤師にも目指してほしい。元来、街の薬剤師はジェネラリストでなけらばいけないが、ジェネラルな知識の上に専門領域の知識も是非身に着けてほしい」と呼びかけ、「我々もその環境整備に力を惜しまない」と力説する。
 健康サポート薬局の対応を始めとした住民の健康相談への対応や、要指導医薬品・OTCの提供などセルフメディケーションに関しては、「まだまだ道半ばであるが、全ての薬局が地域住民のために健康サポート機能を発揮できるようにして尽力したい」と断言。さらに、「残念ながら処方箋調剤に特化した薬局が大阪でも多く見受けられる。薬局薬剤師の皆さんにも、健康サポートにもっと関心を持って頂きたい」と要望する。
 大阪府薬の組織強化では、「全国チェーン組織の薬局や地域で複数店舗経営している薬局などは、全ての勤務薬剤師が入会していないため、会員組織率が低い(30%強)」とその要因を分析し、「薬剤師会は単に情報提供するだけでなく、入会したいと思っていただけるような企画立案を行っていきたい」と明言する。その手始めとして「まずは、薬局の勤務薬剤師に働きかけていく」
 また、大阪府薬の課題としては、「財政再建」を挙げる。「4億円の収入を上げていた会営吹田薬局閉局の影響は大きい。財政の健全化は、引き続き続けて行く」 
 最後に、「近年、6年制の薬剤師が増えてきた。そうした若い勤務薬剤師に、薬局薬剤師になって良かったと思って頂けるような事業を展開していきたい。病院薬剤師とは、引き続きより強い連携を持って事業運営に当たりたい」と訴求する。

 乾英夫氏の略歴は次の通り。
 昭和30年3月25日生れ。満65歳。昭和48年3月大阪府立天王寺高校卒。昭和53年3月京都薬科大学卒業後、本町薬局勤務。昭和55年6月乾薬局を開設し、現在に至る。
 平成4年4月~6年3月、10年4月~18年3月の期間大阪府薬理事。その後、常務理事を経て平成22年4月に大阪府薬副会長に就任。平成24年6月~26年6月まで日薬理事、平成26年6月~令和2年6月まで日薬副会長を歴任。本年6月20日に大阪府薬会長に就任し、現在に至る。
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