持続的成長に向けた長期経営構想「KV2027」の進捗状況を発表 キリンホールディングス

KIRIN Investor Day 2020

 キリンホールディングスは10日、同グループの持続的成長に向けてたKV2027(長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」)の進捗状況を発表した。公表した進捗状況は、3日に東京で開催されたインベスターデイで報告されたもの。インベスターデイでは、同社、並びに主力事業会社の社長が登壇し、KV2027の着実な実行こそが、株主、顧客、従業員をはじめ、全てのステークホルダーにとって持続的な価値を創造する最善の道であることが改めて確認された。インベスターデイの報告事項の要点は次の通り。
 KV2027は、キリングループが創業以来磨いてきた発酵・バイオ技術をコアコンピタンスとした成長と一貫性があり、社会課題や経営環境の変化を踏まえ、21世紀における成長を加速させるものだ。
 キリングループは、100年以上前にビール事業から創業して以来、発酵・バイオ技術を磨き、マーケティング力を強化し「食領域」で成長してきた。さらに、約40年前には、この発酵・バイオ技術を駆使し、「医領域」に参入した。
 医薬事業の立ち上げ時のパートナーであり、今や世界有数のバイオ医薬品企業となった米国アムジェン社の元CEOゴードン・バインダー氏は、「キリンには優れた発酵技術があり、R&Dの重要性も理解していた。殆どのビールメーカーにとって醸造は芸術だが、キリンだけは科学を取り入れていた」と、パートナーシップを組む際にキリンの印象をこう語っている。
 こうして、低分子医薬品が主力だった時代に、バイオ医薬品でオーガニックに参入した医薬事業は、キリンが研究開発をスタートしたCrysvita(くる病などの治療薬)を始めとするグローバル戦略品が牽引し、今やグローバルで飛躍のステージに入っている。
 さらに、KV2027では、グローバルにおける酒類市場の構造的な課題や、健康志向の高まりといった社会的動向に対応し、今まで磨いてきたキリングループの資産である発酵・バイオ技術を駆使し、「ヘルスサイエンス領域」に取り組んでいく。
 同社のこれまでの中核事業である「食領域」と「医領域」の間には、疾病の手前の「未病」の領域があり、日本はもとより、世界でも大きく注目されている。
 この「未病」の領域や健康意識、スポーツなどの特別ニーズを対象とする「ヘルスサイエンス領域」を新たな成長軸として育成することは、健康に関する様々な社会課題の解決につながり、世界のCSV先進企業を目指すキリングループの持続的な成長に大きく貢献する。
 この取り組みは、強みである発酵・バイオ技術と、「食領域」と「医領域」において強い事業基盤を持つキリングループだからこそ実現できるものである。
 KV2027では、食領域、医領域、ヘルスサイエンス領域が、相互にシナジーを発揮しながら成長することで、連結事業利益の年平均成長率4~6%を目指す。このKV2027を遂行する当社の経営陣は、戦略を実行するための適切な能力を備えていると確信している。
 2015年3月に磯崎功典氏が社長に就任して以降、KV2015をはじめ、それまでの経営戦略について徹底した検証を行い、聖域なきグループの構造改革を進めてきた。食領域においては、中核のビール事業で、国内収益基盤の強化・拡大や、将来の成長に向けたミャンマー・ブルワリー社への資本参加を行うとともに、国内清涼飲料事業の再生を果たした。
 中長期の成長に向けた戦略投資を行う一方で、低収益事業の再編も進めてきまた。また、医領域でも協和キリンがグローバル戦略3品を上市して成長を加速している。
 その結果、同社は2016年-2018年中期経営計画の定量目標であるROE、平準化EPS、連結事業利益など全てを達成した。さらに、磯崎の社長就任以降(2015年~2019年)におけるTSR(TotalShareholder Return: 株主総利回り)は、国内の競合はもとより、海外の同業を上回って推移している。
 食領域では、2027年までに事業利益率25%(酒税抜き売上収益比)を目指し、強固なブランド体系の構築と、新たな成長エンジンの育成を図っていく。ビール類では、将来の酒税一本化により、ブランドの淘汰が見込まれるため、注力ブランドを選定し、10年後も愛されるブランドを育成していく。また、新たな成長エンジンとして、クラフトビールやノンアルコール飲料、国産ウイスキーにも注力する。
 一方、医領域では、キリンファーマと協和発酵という、ともに発酵・バイオ技術に強みをもち、オーガニックで成長してきた企業が2008年に経営統合して協和キリンが誕生した。
 統合後は、その勢いを加速させ、最先端のバイオ医薬技術を駆使した革新的な医薬品の継続的な開発により、グローバル・スペシャリティファーマへの道を歩んでいる。強みのある疾患や技術領域にしぼって、グローバルに医薬事業を展開し、その価値の提供を目指した概念である。
 バイオ技術の強みを活かしたグローバル戦略品の貢献もあり、2019年の協和キリンの業績は、売上収益、事業利益ともに大きく増加し、2020年も増収増益を計画している。このようなオーガニックの成長に加え、昨今顕在化する未病ケア・先制医療予防、個別化医療など、キリングループが取り組む一歩進んだ切り口の次世代型ヘルスケアの領域にも貢献していく。
 既に2016年から、協和キリンが得意とする脳、腎、免役・腸などにおけるアンメットメディカルニーズをターゲットとした基礎研究を、キリングループ共同で進めている。
 なお、協和キリンは、コア営業利益1000億円以上の2020年代早期実現を目指している。
 ヘルスサイエンス領域の取り組みにも言及したい。協和発酵バイオは、高度な発酵技術により、高品質な商品を大量に低価格で提供できる世界でも有数のバイオテクノロジー企業である。外科領域で広く使用されている輸液用アミノ酸の世界第1位のサプライヤーであり、日本、欧州、米国で大きなシェアを占めている。また、医薬用ビタミン用途のFAD、めまい薬原料のATP、フェニルケトン尿症幼児用食品原料のリジングルタミン酸塩など、多くの医薬品・乳児用栄養補給食品原料を日本で唯一供給している。  
 現在、2019年8月に確認された製造手順の問題に対処するため、キリングループの生産・技術部門が総力をあげている。関係機関とも協議をしながら、製造体制強化を図っており、2021年までに再生を果たす。
 同時に、ヒトミルクオリゴ糖など協和発酵バイオが保有する複数の高機能素材のパイプラインを充実させ、新たな価値の創造により、経済的価値を創出していく。
 2024年には、利益率の改善により事業利益95億円を、さらに2027年には、高機能材料のパイプライン拡充により事業利益150億円を見込んでいる。
 ファンケルとのシナジー創出も見逃せない。キリングループとファンケルは、バリューチェーン全体においてシナジーを大きく創出できると考えており、今回の資本業務提携により同社に発現する事業利益は、2024年に約55億円から70億円を見込んでいる。一方で、ファンケルに発現する事業利益は2024年に追加で20億円見込まれている。これらのシナジーは、研究開発、商品開発、販売チャネルの相互活用や、効率化によるコスト削減から生まれるものだ。
 2020年秋以降は、キリンビールやキリンビバレッジなどを通じた飲料商品や、キリンの素材を使ったサプリメントを発売予定で、スピード感をもってシナジー創出を進めている。ファンケルのキリングループ加入により、商品開発や販売チャネルが充実し、主にヘルスサイエンス領域において、大きな飛躍を実現できると確信している。
 これらの取り組みなどにより、ヘルスサイエンス領域からの事業利益貢献は2024年に150から180億円を見込んでいる。
 配当性向については、従来の平準化EPSの30%以上を、2019年中計からは40%以上に引き上げた。上場以来減配なしで増配しているが、今後も安定配当による株主還元の充実を目指す。自己株式取得は、2018年に約1000億円を実施し、2019年11月には、さらに上限1000億円の実施を決議し、現在実行中。短期間で2000億円の自己株式取得を決定し、株主還元を充実させている。なお、過去の実績の通り、資産売却や成長投資の実施状況を勘案した上で、追加的株主還元も検討していく。

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