事業基盤の再構築でイノベーションを継続的に創出   大日本住友製薬がR&D説明会

野村氏

 大日本住友製薬は3日、ライブ配信によるR&D説明会を実施し、野村博社長が、「変革の時への対応とともに米国でのラツーダの独占販売期間終了後を見据えて、成長エンジンの確立と柔軟で効率的な組織基盤作りにより、事業基盤の再構築に取り組む」決意を強調した。また、4月1日付けで、全領域の研究開発統括を目的とした社長直轄の「Chief Scientific Officer(木村徹取締役常務執行役員)」設置することを明らかにした。
 野村社長は、まず、同社ビジョンの「もっと、ずっと、健やかに。 最先端の技術と英知で、未来を切り拓く企業」について言及し、2033年の目指す姿として「精神神経領域、がん領域、再生細胞の3領域でのグローバル・スペシャライズド・プレーヤー」を強調した。
 各領域の具体的な研究開発戦略については、 精神神経領域は「治療満足度の低い精神疾患をターゲットとし、神経変性疾患に対する周辺症状治療薬に加え、疾患修飾薬創製を目指す」
 がん領域では、「がん微小環境(細胞間相互作用)などを中⼼とした研究により、多様でイノベーティブな開発パイプラインを構築」再生・細胞医薬分野は、「高度な生産技術と最先端サイエンスを追求し、世界のリーダー」を目指す。

木村氏


  一方、木村氏は、精神神経領域研究開発方針として、「疾患病理に基づく、論理的かつ合理的な創薬によるPrecision Medicineの実現」、「医薬品とデジタル技術を融合したトータルヘルスケアへの貢献」、「神経疾患に対しては疾患を克服、さらには予防医薬時代を目指す」を列挙。
 さらに、「世界の精神神経系領域治療薬市場において、大日本住友製薬は第6位を誇り、開発パイプラインも世界トップクラスにある」と紹介した。
 同社の精神神経領域では、「精神神経領域で長年培った経験・ノウハウ」、「先端技術の積極的な獲得・活用」、「前例にとらわれない柔軟な組織運営」の三次構成により、アンメット・メディカル・ニーズに応える画期的新薬の創製を目指している。
 組織の活性化の一例では、2017年10月より導入した新研究プロジェクト制がある。同制度は、情熱のある発案者がリーダーとなり、開発が臨床グループに移行してもそのリーダーが中隔を担い、予算の執行権や人事評価権を有するというもの。
 精神神経領域は、こうした三次構成の取り組みが功を奏し、年度毎の開発候補品創出数は2018年、2019年の各2個ずつから、2020年は11個に伸長している。
 木村氏は、AI技術・神経回路技術を用いて創製した化合物DSP-1181(CNS分野)にも言及し、「短期間で効率的に創薬が進む事例」として紹介した。
 ケンネス・コブラン氏(サノビオンチーフサイエンスオフィサー)は、現在米国でP3相段階のSEP-363856(統合失調症)について、「 既存の抗精神病薬とは⼀線を画し、ドパミンD2受容体作用以外のメカニズムを持つ」と紹介。さらに、「 4週間の多施設国際共同試験および6ヶ月の継続試験で、有効性、安全性、忍容性が示され、現時点で運動障害の症状・体重増加・代謝障害は、観察されていない。双極性障害うつの効能を示す可能性もある」と同剤の特徴を説明した。
 再生・細胞医薬分野では、iPS細胞を⽤いた腎臓再生プロジェクトの立ち上げ、日本で2027年度までの上市を目指している。
 iPS細胞を用いたパーキンソン病の細胞移植治療は、京都大学による医師主導治験実施中で、2019年に7例中3例の移植完了、2020年度に残り4例の移植する見込み。大日本住友製薬は、医師主導治験の結果を基に事業化を進める計画で、「再生・細胞医薬は、日本の条件付き承認制を活用して、米国への展開を目指す」(木村氏)
 iPS細胞を用いた加齢黄斑変性の細胞移植治療は、理化学研究所の髙橋政代氏による臨床研究が実施され、自家RPEシート(1例・世界初)、他家RPE懸濁液(5例)の事例が報告されている。
 iPS細胞を用いた網膜色素変性の細胞移植治療は、神戸アイセンター病院が臨床研究を申請中で、大日本住友製薬は細胞製造を担当している。
 iPS細胞由来神経前駆細胞を用いた脊髄損傷治療については、慶應義塾大学が臨床研究実施中。木村氏は、再生・細胞医薬分野の中期戦略について、「遺伝子治療、臓器再生、ゲノム編集、自家細胞治療、周辺サービス(診断・リハビリ)などの分野を視野に、日米中心に次期中計期間(2023〜2027年度)からの収益貢献を目指す」考えを示した。
 がん領域は、WT1特異的なCTLを誘導するペプチド”と“ヘルパーT細胞を誘導するペプチド”のカクテルワクチンDSP-7888が日米でP2段階。
AXLを主とするマルチキナーゼ阻害薬として、様々な適応への展開が期待されるDubermatinib(TP-0903)は、日米でP1相試験を実施中。
 アンメット・メディカル・ニーズの高い骨髄線維症に効果が期待されるTP-3654は、米国でP1試験を実施している。がん関連シグナル阻害薬のTP-0184は、固形がんでP1試験、血液がんでP1試験実施中(米国)。がん細胞の糖代謝に作用し免疫環境を改善する新しいメカニズムで、免疫チェックポイント阻害薬との併用効果が期待されるTP-1454は、2020年度1QにP1試験開始予定にある。
 最後に木村氏は、Chief Scientific Officer就任に当たり、「当社は、精神神経領域、がん領域、再生・細胞領域、ロイバントとの戦略的提携による婦人科・泌尿器科領域など、非常に幅広いパイプラインを有するようになった」と指摘。その上で、「それぞれの開発プログラムに対して評価していく、あるいはポートフォリオを決定するのが私のミッションで、その重要な役割に身の引き締まる思いである」とコメントした。

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