医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)が、5年ぶりに大改正された(2019年11月27日国会成立 以下、新薬機法と略)。薬機法改正の論点は、松野晴菜氏(厚生労働委員会調査室)の論文(立法と調査 2019. 5 No. 412)に示されているが、薬事関係業への影響は相当なものと推察される。薬局・薬剤師にとっては、同法改正に併せて薬剤師法一部改正の影響もあり、薬局のあり方及び薬剤師業務の見直しにつながるのではないかと思われる。新薬機法施行まで若干の時間的猶予があり、関連法令等の改正も想定されるが、薬局・薬剤師に影響する興味ある事項を抽出し、若干の解説を試みたい。
◆ 医療関係者の責務として、医療提供施設間の業務連携がより密接に求められる
医療提供に関するこれまでの流れからすれば当然とも思える新設事項であるが、薬局から医療提供施設(病院、診療所、介護老人保健施設等)に対して患者の薬剤使用等に関する情報提供が求められている。努力規定とはいえ、その円滑な運用には諸々の知恵が要求される。例えば、医療提供施設と薬局との窓口のあり方や連絡方法の設定、情報内容とセキュリティー対策など、現状のハード&ソフトウエアでどこまで対応できるだろうか。その費用対効果についても考慮する必要があろう。
『新薬機法第1条の五の2:薬局において調剤又は調剤された薬剤若しくは医薬品の販売若しくは授与の業務に従事する薬剤師は、薬剤又は医薬品の適切かつ効率的な提供に資するため、医療を受ける者の薬剤又は医薬品の使用に関する情報を他の医療提供施設(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の二第二項に規定する医療提供施設をいう。以下同じ。)において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供することにより、医療提供施設相互間の業務の連携の推進に努めなければならない。』
◆ 薬局の定義が変更された
薬局は、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務を行う場所とされてきたが、新薬機法では「医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所」の文言が追加された。薬学的知見に基づく指導が薬局の業務として法的にも確立したことになるが、薬局の機能として「対物」から「対人」へのシフトがより鮮明になりそうである。
『新薬機法第2条12:この法律で「薬局」とは、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所(その開設者が併せ行う医薬品の販売業に必要な場所を含む。)をいう。ただし、病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設の調剤所を除く。』
◆ 特定の機能を有する薬局の認可と標榜が可能になった
薬局が必要な機能を備え都道府県知事の認可を得て「地域連携薬局」又は「専門医療機関連携薬局」と称することが認められた。法の精神に則って患者へより高品質なサービス提供を旨とするが、薬局の機能分化の始まりと考えてよいのではないか。詳細事項は不明だが、現場の薬剤師にとっては承認要件や運用面で悩ましいことが数多いことと思われる。
例えば、「地域連携薬局」において、かかりつけ薬剤師・薬局が基本になると思われるが、地域内に存在する複数医療機関等と複数保険薬局間の連携がどのような医療連携の形になり、患者への貢献につながるか、現状では姿が見えにくい。「専門医療機関連携薬局」については当初、がん薬物療法が対象になると思われるが、外来化学療法を行う医療機関前には複数の保険薬局の存在は通常のことで、病院はどの保険薬局と連携するか選定の問題や医療機関側が連携する保険薬局を指示することにならないような配慮が必要である。
また、特定の機能を有する薬局で、薬剤師としての務めを果たすには相応のスキルが求められるのは当然だが、人材確保の難しさもあろう。実際の認可・運用は現時点で分らないことばかりだが、保険調剤との関係性から保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則の改正、その先には調剤報酬改定が付いてくるものと考えられる。それだけに薬局経営者にとっても悩ましいことと思われる。
『新薬機法第6条の二:薬局であって、その機能が、医師若しくは歯科医師又は薬剤師が診療又は調剤に従事する他の医療提供施設と連携し、地域における薬剤及び医薬品の適正な使用の推進及び効率的な提供に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を実施するために必要な機能に関する次に掲げる要件に該当するものは、その所在地の都道府県知事の認定を受けて地域連携薬局と称することができる。』、後条文省略。「専門医療機関連携薬局」も同様の条文で規定されている。
◆ 遠隔服薬指導が可能に
薬剤師が処方箋により調剤した薬剤は、患者又は現にその看護に当っている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならないとされ、対面での薬剤授与と説明が求められてきた。一方、平成 28 年に国家戦略特区法の一部を改正する法律(法律第 55 号)に基づき、国家戦略特区内で対面での服薬指導ができない場合に限り、テレビ電話による服薬指導(いわゆる遠隔服薬指導)が可能とする実証実験が実行されてきた経緯があり、一定の評価を得ている。
新薬機法では、この遠隔服薬指導(いわゆるオンライン服薬指導)を可能した。保険調剤は、実店舗の保険薬局で運用されてきたが、医療制度の違いはあるものの諸外国では、インターネット薬局やメールオーダー薬局等が、利便性の高さもあって患者から支持されているようだ。我が国でも近い将来には、処方箋の電子情報化が具現化するであろうし、医薬品のトレーサビリティを考慮すれば医療用医薬品のパッケージ投薬も考え得る。保険薬局・調剤は、形態や流れが大きく変わる可能性が秘められていると思われる。
『新薬機法第9条の三:薬局開設者は、医師又は歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤の適正な使用のため、当該薬剤を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、厚生労働省令で定める事項を記載した書面{当該事項が電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下第36条の10までにおいて同じ。)に記録されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を厚生労働省令で定める方法により表示したものを含む。}を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。』
◆ 調剤にかかる情報の提供及び指導の充実が求められる
薬剤師法第25条の二の改正により、調剤した薬剤に関する情報提供義務に加え、必要に応じて「患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。」となった。必要に応じての措置であるにしても、患者の薬剤使用状況を継続的に把握し薬学的知見に基づく指導をどのような方法で実行するか、その記録保管となると薬局現場にとって大きな課題であろう。
『薬剤師法第25条の二の2:薬剤師は、前項に定める場合のほか、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。』
- 調剤録が重要な記録資料になる
調剤録に関する規定が変更されたことも注視する必要がある。調剤録は、薬剤師法第28条に規定される記録文書であるが、旧法第2項のただし書きにあった「当該処方箋が調剤済みとなったときは、この限りでない」の文言が今回の改正で削除され、調剤した処方箋につき厚生労働省令で定める事項を記録することが必要となった。すなわち、これまで調剤済みになった処方箋への裏書をもって調剤録として保管していた管理作業が、今後は、一つの記録資料として厚生労働省令(内容は未だ不明)で定める事項を記録した「調剤録」を保管しなければならなくなる。調剤報酬算定がコンピュータシステム化さている今日では、調剤録も容易にデータベース化できると思われるが、記載内容によっては薬剤師の負担となろう。
一方、保険調剤算定表には、薬剤服用歴管理料が設定されている。この報酬算定要件には、記録事項として17項目の記録「薬歴」が必要になっている。「調剤録」と「薬歴」は共に、処方箋による調剤にかかわる記録であるが、「調剤録」は薬剤師法に規定され、「薬歴」は保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則・調剤報酬算定表に規定されており、重みが若干異なるような印象を受ける。規定する法令が異なるとはいえ、薬剤師の調剤に関係して2種類のデータベースがあり、医師のカルテに対応する記録はどれかと言われれば判り難いのではないか。
『薬剤師法第28条:薬局開設者は、薬局に調剤録を備えなければならない。
同条2項 薬剤師は、薬局で調剤したときは、厚生労働省令で定めるところにより、調剤録に厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。』
今回は、改正薬機法及び薬剤師法一部改正に関して興味ある項目を取り上げたが、内在する不明点・疑問点は、施行への道のりの中で若しくは疑義照会等により解消されていくものと考える。また、大改正であることもあり、他にも重要事項が多くある点を見逃してはならない。今後、薬剤師はより患者への関りが求められ、薬物治療に関して患者のプライベートな部分に深く関与して行くことになる。また、医療提供施設との連携も重要性が増して、患者情報が往来することが予想される。患者にすれば、薬剤師に痛くない腹を探られるようで不愉快な思いをすることもあるかも知れない。
また、薬局の機能分化にあわせて患者が薬局を選別する必要が出てくるかも知れない。複雑な医療提供制度で患者さんを悩ます結果として、クレーム等の増加も考えられる。だが、何をおいても調剤の安全確保が最重要である。保険調剤業務の構成として7つの行為が示されている。即ち、①患者情報等の確認、②処方内容の確認、③調剤設計、④薬剤の調製・取り揃え、⑤最終監査、⑥患者への情報提供、服薬指導、⑦調剤録・薬歴の作成、以上、保険調剤上7つの責任が認定されていると考える。調剤した薬剤師の責任の所在を明確にした業務システムが求められるし、薬剤師はより高いコミュニケーション能力が必要となる。さらに、特定機能薬局の構築・標榜等をも視野にいれた人材育成が望まれる。