ラッキーアイテムを独自にアレンジした縁起物を描く奥寺正美氏は、東京・葛飾柴又生まれの新進気鋭の女性美術家だ。ホスピタルアート展示や、老人ホームでのぬり絵教室で活躍するなど、医療分野にも造詣が深い。
ホスピタルアートとは、芸術の力で病院等の医療環境をより快適な癒しの空間とする試みで、病院の壁などに絵を描いて、患者やその家族の精神を和ませる。
イギリスの病院、CW+寄付財団では、ホスピタルアートを積極的に取り入れている。予備調査では、87%の患者が、痛みが軽減したと感じている。また、入院病棟では、鎮静薬の使用量が減り、回復が早くなったという記録がある。
12日間の入院予定が、9日に短縮した症例もみられ、“アートが鎮痛剤をサポートする”驚きの結果として報告されている。わが国でも、近年、ホスピタルアートは様々な医療機関で導入されるようになった。
一方、老人ホームでのぬり絵教室では、奥寺氏の作品の下絵を簡略化させた画材に、生徒さん達が楽しそうに着色していく。ぬり絵を続けることで、認知症の予防効果も期待されている。
自ら「70の手習い」と称して新しい画材に触れ、ぬり絵の時間を楽しみに待っている生徒さんがたくさんいる。奥寺さんは、こうした70の手習いさんたちを「私が行うぬり絵で、皆さんの健康が少しでも支えられれば」との思いで指導している。
そんな奥寺氏が、今回、念願だった初の個展を、12月18日~24日まで阪神百貨店(大阪市北区)9階阪神美術画廊で、「奥寺正美絵画展ー幸せな仕合せー」をテーマに開催している。
個展では、西洋占星術に加え、関西を代表する占術家で陰陽師の安倍晴明を題材に現代風にアレンジした作品など、奥寺氏ならではの傑作およそ30点が披露されている。
「お世話になった大阪の方々にお礼の意味を込め、関西の縁起物をモチーフに選んだ」と説明する奥寺氏は、「展示のタイトル通り、私にとっても、お越しになるお客様にとっても、幸せな仕合せ(巡り合わせ)になれば」と目を輝かせる。
西洋占星術を題材にした新作の中で、“いて座”は特に、医療との馴染みが深い。いて座は、半身半馬の不死の身体を持つケイローンをモデルとする。
ケイローンは、医術、音楽、哲学、占星術、武術など、あらゆる学術に長けていて、数々の王族も、子供をケイローンに預け、様々な学術を学ばせたという。
ケイローンは、ヘラクレスが誤って放った矢により苦しむ。ゼウスに不死を解いてもらい死を選ぶ。半身半馬というだけあって、頭脳明晰でフットワークが軽いのがいて座の特徴で、哲学や大学、旅行などがキーワードとなっている。
死さえも選べるという自由もいて座を表している。いて座が西洋占星術で、「癒しの星」とされているのは、いて座の神話に由来している。
12星座の絵画は、夜空をテーマとした展示のため、青い作品が多くなっている。青は心理学的にも鎮痛効果が高い色で、「この作品が、患者さんにとって何らかのサポートになれば幸いです」と話す。