精神科治療でのSDMによるパーソナル・リカバリーを訴求 大日本住友製薬プレスセミナー

山口氏

 精神科治療においては、SDM(共同意思決定)によるパーソナル・リカバリーの推進がより重要となることが、11日、大日本住友製薬東京本社で開催された同社プレスセミナーで強調された。
 SDMとは、「利用者(患者)と医師が共同して、治療内容についての意思を確認し、治療内容を決定する」ことを意味する。
 同セミナーで講演した山口創生氏(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)は、「精神科治療においては、医師が独断的に処方を決定するのではなく、患者と治療ゴールや治療の好み、責任を話し合って、適切な治療を選択することが重要である」と強調する。
 さらに、共同意思決定が必要となった理由を、「患者運動で勝ち取ったインフォーム・ドコンセントは、専門家を守るためのリスクマネジメントとして利用される場合があるから」と説明する。
 加えて、「“パーソナル・リカバリー”によるところも大きい」と指摘する。パーソナルとは、態度、価値、感情、ゴール、スキル、さらには社会的役割を変える個々の特性のプロセスで、リカバリーは、疾患による制限がありながらも、満足で、希望にあふれた生活や充実した人生を送る方法を意味する。山口氏は、「精神疾患からのリカバリーは、人生の新しい意味や目的を見出すことで、単に疾患事態から回復をする以上のものである」と力説する。
 こうしたパーソナル・リカバリー時代における治療方針・ゴールの決め方は、「自分が希望するゴールの決定」、「個別の価値観の重視」、「ゴールまでの個別プロセスの承認」がキーポイントになる。
 患者が希望するゴールは、「もしかしたら、症状が悪くなるかもしれないが、日中の注意力を保つために薬を減量して就労したい」、「結婚したい」、「家族と穏やかに暮らしたい」など、個々様々だ。
 SDMは、医師と患者が責任を共有して話し合うのが大きな特徴で、「患者と医師(専門家)が対等な関係で治療内容の決定に“両者”が参加」→「治療における患者の主体的ゴールの共有」→「治療の選択肢などの情報の共有」→「治療の好みなどに関する議論」→「治療内容の決定」のプロセスを経て完了する。
 近年、精神科におけるSDMは、自身も精神疾患の経験がある、または治療中の相談員(ピアサポーター)とともに進めて行くケースが注目されている。
 なぜ、SDMでピアサポーターが必要となるのか。国分寺すずかけ診療クリニックでピアサポーターとして活躍する佐々木綾子氏(仮名)は、「同じ疾患を経験しているので、引け目や劣等感、言いにくいことなどを打ち明けやすいから」と説明する。
 さらに、「体験や経験の分かち合いにより、利用者とピアサポーターの人間関が構築され、そこから生まれる対話は患者のリカバリー促進にも繋がる」と断言。
 その上で、「医師と患者との中間にピアサポーターがあり、患者の意思や支援者に対する不満を受け止めて医師に訴求するのがピアサポーターの使命である」と言い切る。
 山口氏らは、ピアサポーターの補助とSDM促進ツール「SHARE」を利用し、診察場面でSDMができるように医師と利用者の双方に働きかけるシステムを構築し、その有用性を検証した。
 SHAREは、診察前に治療目的や相談内容を整理する準備アプリで、患者の希望する人生(リカバリーゴール)やストレングス、診察で聞きたいことなどを入力する。
 ピアサポーターは、自身の疾患の経験をもとに、服薬やリカバリーの内容を共有する。
 診察では、医師用SHARE端末、SHAREシート、を用いて、利用者と医師との会話が円滑に進むようにする。SDMにより治療薬も、経口剤、注射剤、最近登場したテープ剤(ロナセンテープ)の中から、「飲み忘れない」、「人前で飲みたくない」など、患者の生活目標(リカバリーゴール)に合致した剤型を選択されるようになった(山口氏)。
 一方、有用性の検証では、SDMを実施群と通常ケア(TAU)群との6か月後の追跡調査が実施された。
 その結果、「患者と医師の信頼関係構築」においては有意差があったものの、「症状を良くする」、「機能をうまくする」などの治療面では、有意差は出なかった。
 これらを踏まえて山口氏は、「6か月後の追跡調査のため、治療面での有意差は得られなかった。だが、医師との関係が良い患者は、2年後、3年後に症状が良くなりやすいという科学的データがある」とSDMによる今後の効果を強調する。
 ピアサポーターの現況についても、「日本ではまだ少なく、ライセンス制ではないが、養成・研修所は増加している」と報告。さらに、「現在は、診療報酬が無いので、SDM推進を重視したい事業所が雇っている。ピアサポーターの役割のアウトカムが明確化されて、精神科医療に定着してほしい」との考えを示した。

タイトルとURLをコピーしました