網膜色素変性症を対象とした臨床研究を阪大に申請 神戸市立神戸アイセンター病院

 神戸市立神戸アイセンター病院は9日、「網膜色素変性症」を対象とした臨床研究を大阪大の有識者委員会に申請したと発表した。同委員会で承認されれば、厚生労働省の再生医療等評価部会の承認を経て、来年度に第一例の移植手術を実施する見込みだ。
 網膜色素変性症は、3000~4000人に1人(日本で約4万人)に発症し、夜盲、視野狭窄、視力低下、失明に至ることもあり、根本的な治療方法は確立されていない。
 疾患要因は、網膜にある光を感じる視細胞の遺伝子が正常に働かないためで、視細胞が変性・消失して、夜盲、視野狭窄、視力低下が徐々に進行する。
 今回の臨床計画は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が健常ドナー由来のiPS細胞より分化誘導した網膜組織を用いて、研究協力企業の大日本住友製薬が「神経網膜シート」を製造し、網膜色素変性患者に移植。移植された網膜組織が生着して状態が改善するか、拒絶されないか、腫瘍形成などがないかを確認するというもの。
 対象は、臨床的に網膜色素変性と診断されている20歳以上の高度の視力低下、視野狭窄(例:指定難病の診断基準Ⅳ度)のある重症患者2例。
 具体的手法として、硝子体手術により神経網膜シート1~3枚を網膜下へ移植し、移植後の免疫拒絶反応抑制のため、免疫抑制薬の全身・局所投与を行う。
 主要評価項目は、「移植された同種iPS細胞由来神経網膜シートの生着による網膜厚の増加」、「同種iPS細胞由来神経網膜シートの安全性(免疫拒絶反応・移植組織の過剰な増殖)」で、これらについて移植後1年間評価する。
 副次評価項目は、「同種iPS細胞由来神経網膜シート移植手術の安全性(合併症)」、「同種iPS細胞由来神経網膜シート移植の有効性(視機能・視野検査、モニターテスト、食器や文字を提示するテーブルテスト、全視野光刺激感度、視力)」、「同種iPS細胞由来神経網膜シート移植の有効性(QOL):VFQ-25スコア」
 なお、前臨床において、「ES/iPS由来網膜シートの移植後生着と成熟」、「移植片の移植後機能」、「サル網膜変性モデルでの2年以上の生着と手術手技」、「移植性」についての安全性が確認されている。
 これまでの研究経緯を振り返ると、神戸アイセンター病院の髙橋政代研究センター長が、2014年に加齢黄斑変性を対象に、世界初の自家iPS細胞を用いた網膜色素上皮細胞(RPE細胞)移植を理化学研究所プロジェクトリーダーとして実施。
 移植されたRPEシートは黄斑下に生着し、拒絶反応・腫瘍化などはみられなかった。追加の抗血管新生薬は必要なく視力は安定し、自覚症状は改善した。
 その後、2017年より実施されたiPS細胞ストックによる他家由来細胞移植(細胞懸濁液の注入による再生医療)でも、全症例に腫瘍化などはなく、細胞に起因する有害事象は網膜上膜(除去手術)のみであった。
 さらに、HLAの適合する健常者の細胞を使用することで、軽度の免疫拒絶反応がみられたが、全身の免疫抑制剤なしで細胞は生着し、安全性が確認されている。
 このように、加齢黄斑変性を対象疾患にiPS細胞から作製したRPE細胞を用いた臨床研究が行われ、安全性・有用性が確認されてきた。次いで、基礎実験を進めてきた神経網膜シートの臨床応用の準備が整い、今回の網膜色素変性を対象とした臨床研究の申請に至った。

タイトルとURLをコピーしました