世界初の3分間眺めるだけの認知機能検査法を開発  阪大の研究チーム

左から森下氏、武田氏

 図形などの認知機能評価タスク映像を提示し、視線検出技術を用いて被験者の目の動きを定量記録して認知機能が評価できる世界初のシステムが開発され、大きな注目を集めている。

 視線検出技術を利用した次世代型認知機能評価システムの開発に成功したのは、大阪大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座の森下竜一教授や武田朱公准教授らと、JVCケンウッドの研究チーム。

 新たに開発された簡易認知機能評価法は、患者の心理的負担なく、わずか3分程度で、従来の医師との対面による問診形式の検査法(MMSE)と同等の認知機能スコアが得られるなどの利点があり、認知症の早期発見・予防への活用に期待が大きい。なお、9月10日の英電子版科学誌サイエンティフィックリポーツに、武田准教授の論文が掲載された。

図1

認知症の早期発見・予防への活用に期待

 認知機能検査の従来法(MMSE)は、医師との対面による問診形式で被験者の精神的ストレスが大きく、15~20分程度の長時間を要する。「ここはどこですか」など、簡単な設問から始まるので、気分を害する被験者も少なくなかった。加えて、医師などの専門知識を有する熟練した検査者を必要とするなどの課題もあった。

 こうした課題を解決し、「簡単」、「短時間」、「高精度」の認知機能評価を実現したのが、目の動きを利用した新しい認知機能検査だ。3分間眺めるだけの認知機能検査の流れは、①図形や計算を用いた問題など、認知評価佑タスク映像を提示、②視線検出技術による目の動きを定量記録、③視線データに基づいた認知機能をスコアリングするーというもの(図1)。

 同検査法開発の契機について武田氏は、「もともとJVCケンウッドと阪大連合小児発達学研究科の片山泰一先生らのグループが、被験者の目の動きで小児の発達障害を診断するシステムを開発していた」と紹介。さらに、「この技術は、認知症にも絶対に活用できると思って、JVCケンウッドとの共同開発を開始した」と振り返る。

 簡易認知機能評価法は、わずか3分間映像を眺めるだけで、従来法と同程度の認知スコアを得ることができる(図2)のが大きな特徴だ。従って、MMSEと同等の精度で軽度認知障害の検出が可能になる。

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 さらに、「MMSEの場合、健常者は全て満点(30点)を取ってしまうが、新システムは健常者を細かくスコア化できるため、認知症予備軍の検出も期待できる」(武田氏)。また、MMSEの設問は、決まりきっているので、被験者はすぐに覚えてしまって学習効果が出やすいという難点もあった。簡易認知機能評価法では、被験者が設問を覚えてもスコアに影響しないように、その都度設問を変更するシステムを構築中である。

 簡易認知機能評価法が、医師などの専門知識を有する熟練した検査者を必要としないのも見逃せない。検査で熟練者を必要としないため、実用化すれば、「老人ホーム・介護施設や家庭での利用」、「住民健診でのスクリーニング検査」、「保険組合・保険リスク評価」、「運転免許センターでの利用」、「医療機関(診断)製薬企業(治験)での利用」、「事業会社での利用(タクシー・バス等の高齢者ドライバー、転職等)」など、活用の裾野は限りなく広がる。

 実際、大阪万博に向けた大阪府モデル事業の一環として、大阪市内の介護施設では、AIロボットとのコミュニケーションによる高齢者の“認知機能の予防と進行抑制”効果の検証が行われており、簡易認知機能評価法が活用されている。

 大阪府高石市の「運動の介入による認知症改善効果」でも、同評価法を用いての効果判定が実施されている。

 簡易認知機能評価法は、現在、赤外線カメラで被験者の視線を認証する高精度の装置が使用されている。一方、実用化に向けた簡易認知機能評価機器による被験者の視線認証では、「より簡便にスマート端末などで測定可能であることが望ましい」(森下教授)。

 武田准教授は「一般的なスマート端末のカメラを利用して同様の視線検出と認知機能評価が出来るシステムを開発中で、実用化に近づいている」と説明する。

 森下教授も、「将来的にはより精度を高めて医療機器としての開発も進めたい」と計画を明かす。その上で、「簡易認知機能評価法は画像なので、グローバル化も視野に入れている」と強調。

 特に、中国、日本、東南アジアは、世界の認知症患者の60%を占めており、「これら地域も含めた全世界での活用」に胸が膨らむ。

 最後に、「今後は、AIを活用した簡易認知機能評価法を開発して、アルツハイマーやレビー正体型認知症など、認知症の疾患鑑別も可能にしたい」と抱負を述べた。

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