9月12日、厚生労働省から「2018年度医薬品販売制度実態把握調査結果」が発表され、第1類医薬品の「情報提供内容理解の確認」、第2類医薬品の「濫用等のある恐れのある医薬品複数購入時の適切な対応」に対する遵守率の低下が判明した。また、インターネット販売では、第1類医薬品販売時の情報提供者の資格が「薬剤師70.8%」、濫用の恐れのある医薬品の複数購入が「適切であった」が52.0%といずれも低く、さらなる改善が求められる結果となった。そこで、藤垣哲彦大阪府薬剤師会会長に、今回の調査結果における課題とその対策などを聞いた。
医薬品販売制度実態把握調査は、要指導医薬品・一般用医薬品の販売に当たり、消費者の立場から制度の定着状況等を点検・調査し、医薬品の適正化につなげることを目的としたもの。2009年度から毎年実施されている。
店舗販売に関する調査では、一般消費者である調査員(覆面調査員)が、全国5000軒の薬局・店舗販売業者の店舗(薬局1754軒、店舗販売業3246軒)を訪問。医薬品販売ルールに係る事項に関して店舗での販売状況について調査する。
インターネット販売については、販売サイト500件を対象に販売状況調査を実施している。
薬局・店舗販売業に関する調査では、「名札等による専門家の区別」は、「区別できた」が88.4%に上る。
藤垣氏は、「90%に近い数字だが、これを100%にするのは難しだろう」と指摘し、「一人薬剤師の薬局や、小児科を対象としている薬局は子供が嫌がるので白衣を着ない薬剤師」の確信的存在をその理由に挙げる。
要指導医薬品については、「購入者が使用する本人であるかの確認」は80.0%、「文書を用いて提供があった」は75.0%、「情報提供した者の資格」は、96.8%が薬剤師であった。
調査当時の要指導医薬品に「ロキソニンテープ」(現・第1類)があったが、「高齢者の代わりに買いに来ても、本人が使うと言って購入して行くケースもある。こうした製剤は、本人かどうかの確認は取れても、販売しないことは難しい」と話す。
要指導・第1類の情報提供
商品に説明書をくっつけて陳列するのも一つの手立て
また、文書による情報提供の比率が低い理由としては、「薬剤師の説明し忘れ」、「患者が急いでいる」などを指摘する。
その対応の一例として、藤垣氏が実際に行っている「該当商品に、最初からメーカー等の患者用の説明書をくっつけておく」方法を紹介する。
勿論、販売時には、「副作用や使用上の注意事項を必ず読んでください」と言って、説明書の内容や、それを付けている理由をきちんと顧客に説明するのは言うまでもない。
ただし、「商品に説明書を最初からくつけておく方法は、きれいな陳列ができない」という難点もある。
「情報提供した者の資格」として「薬剤師が96.8%」の結果については、「要指導医薬品は、リスク分類の主旨からも薬剤師でないと販売できないので、100%にしなければならない」と言い切る。
また、第1類医薬品販売では、「文書による情報提供」が70.6%と昨年と横ばいであったのに対し、「情報提供した内容の理解の確認」は前回の73.6%から今回は67.0に低下した。
第1類の医薬品販売時の情報提供においても、「商品に説明書をくっつけておく」方法が活用できる。さらに、「今までにお飲みになったことはありますか」とか、シップなら「今までにお使いですが」との声かけを糸口にして、顧客が説明内容を理解しているかどうかを確認して行く。「患者が説明を理解しているかどうかの確認ができていない薬局は、顧客との会話を全くしていからではないか」と推測する。
さらに、「第1類の情報提供者は薬剤師」が96.1%であったが、こちらも「要指導医薬品と同様「100%薬剤師にしなければならない」と訴求する。
指定第2類医薬品の注意喚起状況では、「注意喚起が認識できた割合」は74.3%で、こちらも前回の82.8%を下回る。
藤垣氏は、「指定第2類医薬品には、第1類のテオフィリンと類似構造を持つジプロフィリンが含有されているものなどもあり、極めて第1類の成分に近い」と指摘する。その上で、「商品の特徴を理解して、患者さんにひと声かけてあげることが重要である。併用注意や、併用禁忌があれば、必ず伝えねばならない」と強調する。
繁用の恐れ等の医薬品の複数買いは理由確認が不可欠
一方、第2類医薬品等における濫用等の恐れがある医薬品には、エフェドリン、コデイン(鎮咳袪痰に限る)、ジヒドロコデイン(同)、ブロムワレリル尿素(ブロムバレリル尿素)、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン(鎮咳袪痰薬のうち、内服液剤に限る)を成分とする医薬品がある。
濫用等の恐れのある医薬品の複数購入では、「適切であった」が52.0%と低く、前回の61.3%よりも低下した。
一般的な鎮咳薬にはリン酸コデインやメチルエフェドリンが含有されているものが多く、麻薬の原料に成り得る。実際、鎮咳薬からメチルエフェドリンの抽出方法をインターネットで紹介されている事例もあり、「複数購入は、より留意すべき事項である」
藤垣氏は、「濫用の恐れ等のある医薬品は、第2類の一般的な風邪薬に多い」と説明し、「通常、風邪薬の複数の買い置きはしないので、複数個の要望があれば、必ずその理由を聞く必要がある」と訴えかける。
濫用の恐れ等の医薬品
ネット販売では複数個会計できないシステムに
濫用等の恐れのある医薬品に複数購入は、インターネット販売の方が「適切」が46.7%と低く、対面販売よりもより深刻な状況下にある。
ネット販売における今後の対処法としては、「濫用等の恐れのある医薬品については、画面上に注意を喚起するフラッグを立て、買い物籠に複数個入れると支払にのところに行けないシステムに改善すれば、複数購入は必ず減少できる」と言い切る。
インターネット販売
リスク分類を確認して適切な対応を
また、インターネット販売に関する調査では、「第1類医薬品販売時に情報提供を行った者の資格」として薬剤師が70.8%、「第1類医薬品販売時の相談した者」の資格として薬剤師が61.1%といずれも低い。
藤垣氏は、その大きな要因として「リスク分類の確認」を挙げ、「要指導医薬品は、インターネット販売できないが、その安全性が確認されれば、第1類に移行する。同様に第1類医薬品も第2類医薬品に移行するため、リスク分類が変更された時の確認は不可欠である」と強調する。
さらに、インターネット販売での調査結果を良くするには、「HPKIの活用も考えられる」と提案する。医師、薬剤師などの資格を証明するHPKIの活用により、インターネットを介して医薬品情報をやり取りする際に、薬剤師であるかどうかの本人確認や、利用者のなりすまし、文書やデータの改ざん防止が可能となるためだ。
また、大阪府薬会長の立場としては、今後、「大阪における2018年度調査結果を分析し、早急に大阪府薬としての対策を講じたい」と話す。
OTC分野の充実には医薬品販売制度のルール遵守を
では、医薬品販売制度実態調査結果が、実際にどのような影響を及ぼすのか。藤垣氏は、「スイッチOTC推進の足かせになっている」と懸念し、「この状況では薬剤師に任せることができない等の発言すらあることも知って欲しい」と訴えかける。
政府が推し進める「健康サポート薬局」の機能には、「簡易検査による早期治療の意識付けと受診勧奨」、「疾患の重症化予防」、「食生活による健康維持」などがあるが、OTCも重要な手立ての一つだ。
OTCの活用推進により、「市民の健康保持」や、「医療コストの低減」などが期待できる。だが、スイッチOTCの推進が鈍化すれば、薬局の健康サポート機能も弱まる。
中医協で「鼻炎の薬を健康保険から外す」などの議論が上がっているが、「最終的にどう決着するかは判らないが、何れにしてもその方向性にあることを、薬局・薬剤師は十分に認識しておかねばならない」と力説。
その上で、「健康サポート機能の手立ての一つとして、OTCが占める部分は大きい。地域医療における薬局の腕の見せどころでもある」と断言し、「OTC分野を充実するには、医薬品販売制度のルールをきちんと守らねばならない」と改めてその重要性を訴求する。