第1節:食生活と栄養
(1)食生活の変遷(in19.5.28/Tue.寄稿済)
(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7.3/Wed.寄稿済)
(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省] (in19.8.25:Sun.寄稿済)
(4)食生活に重要な栄養素 ―種類とそのはたらき― (in19.9.26:Thu.寄稿済)
(5)栄養素の消化・吸収・代謝
われわれ人間は、日々の食事を通して生命を維持し、活動を継続している。摂取した各栄養素は消化・吸収の過程を経て、体内でさまざまな機能で利用される(代謝)。たとえば、糖質の[消化⇒吸収⇒代謝]の流れをみると、日本人の平均的な栄養素摂取量と体組成の比較から、糖質の摂取量が250~300g(エネルギー比にして55%)と栄養素のなかで最も多いが、体内で糖質は1%未満しか存在しない。これは、摂取した糖質の多くは、消化・吸収されて、生体内でエネルギー源として利用されているためである(1)。人間は適正な栄養状態、健康状態を維持するために、生命活動に必要な数十種類の栄養素を過不足なく摂取しなければならない。栄養素は人間が体に摂り入れる一番小さいレベルである。どの栄養素をどれくらいの量摂ればいいかの基準には、食事摂取基準を利用することができる(1)。
もし、この栄養素に過不足が生じバランスが崩れると、①欠乏した場合、欠乏症がみられ、さらに感染症等にも罹患しやすい状態となる、②栄養素が過剰な状態では、過栄養による高血糖、脂質代謝異常、高血圧、脂肪肝等が誘発されやすくなる、③人体が必要とする栄養素は1種類ではないので、ある栄養素は必要量を維持しているが、ある栄養素は不足あるいは過剰であるといった「栄養素相互のアンバランスな状態」もあり得る。
このように、摂取した食物は、そのままの形では身体のために働くことができず、消化(消化器官での分解)から吸収(消化器官から体液中にとり込まれること)の過程において、各消化器官では動きながら、消化液の働きによって栄養素を吸収しやすい大きさに分解して、消化された栄養素は主に小腸から吸収される。栄養素の多くは毛細血管から肝臓に集められ、必要に応じて静脈から心臓を通って全身へ運ばれる。吸収された栄養素をエネルギーや身体に必要な物質に生成し(代謝)、吸収・代謝の後に残った物質は、便や尿として排泄される。
今回は栄養素がたどる体内での流れ(過程)[消化⇒吸収⇒代謝をみてみる(2,3)。
①消化・吸収の過程
食物として摂取した栄養素は、消化・吸収され、その後代謝される。消化は口腔からはじまり小腸でほぼ完了する。吸収は、能動輸送と受動輸送の2つに分けられる。①能動輸送:濃度勾配に逆らってエネルギーを使って物質が生体膜を通過する複雑な機構、②受動輸送:濃度勾配に従ってエネルギーを使わずに吸収するシステム。また、代謝は生体内における物質の合成や分解の化学反応の過程をいう。代謝には、小分子から大分子を合成する同化と大分子を小分子に分解する異化がある。その各々の例としては、同化では、①体内のアミノ酸から筋肉たんぱく質をつくること、②グルコースからグリコーゲンを作ることなど、一方、異化では、①グリコーゲンを分解してグルコースにする、②グルコースを分解して、エネルギー、二酸化炭素、水などをつくることが挙げられる。体内ではこのように食物が[消化⇒吸収⇒代謝]の過程をたどることで生命を維持している。
[消化⇒吸収⇒代謝]の過程を口腔から始まる消化器系で順次みてみる(2)(図1)。
口腔 ⇒ 食道 ⇒ 胃 ⇒ 十二指腸 肝・胆・膵 ⇒ 空腸 ⇒ 回腸 ⇒ 盲腸 ⇒ 結腸 ⇒ 直腸
1)口腔の機能:食べ物をとり入れ(摂取)、かみ(咀嚼)、唾液と混ぜて飲み込む(嚥下)
[Step1]咀嚼:口腔では食物をかみ砕いて細かくし、唾液と混ぜて飲み込む。唾液は、主に耳下腺、舌下腺、愕下腺の3ケ所の唾液腺から分泌され、糖質を分解する酵素(プチアリン:唾液アミラーゼ)と食道から胃へ食物をスムーズに移動させる役割の粘液(ムチン)が含まれていて、[Step2]食物と一緒に飲み下されて(嚥下)胃に移り、胃液が働くまで作用が続く。唾液の分泌をうながすためには、よくかむことが大切で、また、かむ回数が多いほど満腹感が得られ、脳もリラックスすると考えられている。唾液と混ぜられた食物は食道に送られる。また、舌によって、食物を味わい、食事を楽しむことができる。この味わいは舌にある味蕾で感知され、舌神経と舌咽神経によって味覚中枢に伝えられる。味は、[甘味(あまい)、塩味(塩からい)、酸味(すっぱい)、苦味(にがい)、うま味(うまい)]の5種類に分けられている。
2)胃の機能:摂取した食べ物をかゆ状に消化、胃液によってたんぱく質を分解
胃は、噴門(食道につながる部分)、胃体と幽門(十二指腸に続く部分)から成り、食道から送られてきた食物を一時ためて、胃の運動によって食物を胃液と混ぜ合わせてかゆ状にする。胃液にはたんぱく質分解酵素のペプシンや、塩酸、粘液などが含まれ、塩酸にはカルシウムを水溶性にして小腸での吸収を助けたり、細菌の繁殖を防ぐなどの働きがある。胃の内容物が十二指腸に入ると、胃液の分泌は抑えられる。食物が胃内に滞留する時間は、液体で約5分、固体では約3~6時間になる。また、アルコールや少量の水は胃で吸収される。
3)十二指腸の機能:膵液、胆汁を混ぜる
胃の内容物が十二指腸へ送られると、膵臓から膵液、胆のうから胆汁が分泌される。膵液は糖質、脂質、たんぱく質を分解する消化液で、また胆汁は脂肪の乳化を行い、吸収を助けている。十二指腸でこれらの消化液と混ぜ合わされた内容物は、小腸に送り込まれる。
4)小腸の機能:大部分の栄養素を吸収
小腸は、十二指腸・空腸・回腸の3つの部分からなり、腸液が分泌され、ほとんどの栄養素がここで分解、吸収される。腸液は、おもに粘液や胃から送られ酸性になった食物を中性に中和するための炭酸水素ナトルムと消化酵素を含んでいる。また、小腸の粘膜の表面には、消化・吸収する面積を広くする絨毛がある。さらに、小腸の分節運動と蠕動運動によって、食物はこれらの消化液よく混ぜ合わされ、食物の消化が小腸で完了し、空腸と回腸で吸収される。
5)大腸の機能:未消化物(主に食物繊維)を微生物によって分解し、排泄
大腸は、盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状態結腸・直腸から成る。大腸の前半部では、小腸で吸収されなかった水分とミネラルが吸収され、後半部では便が形成される。また、大腸内に生活する腸内常在菌によって、食物繊維などの未消化物を発酵によって分解し、排泄しやすいようにしたり、その分解産物の一部が吸収される。消化されずに最後まで残ったものは、便として体外に排泄される。
6)肝臓と胆嚢の機能:
肝臓は、①代謝機能:栄養の代謝(アミノ酸・たんぱく質代謝、脂質代謝、糖質代謝)、②分泌機能:胆汁の生成・分泌、③解毒作用(アルコールの代謝、尿素回路、抱合)などの機能を持つ。
7)膵臓の機能:
膵臓では、十二指腸に膵液、血液中に血糖値調節ホルモンであるインスリンやグルカゴンなどのホルモンを分泌する。膵液には、アミラーゼ(デンプン分解酵素の総称)、リパーゼ(脂質分解酵素の総称)、ペプチダーゼ(たんぱく質分解酵素の総称)などの消化酵素が含まれる。
② 代謝
代謝とは、消化器系の各臓器で吸収された栄養素、またはいったん体内に貯蔵した栄養素を、エネルギーや生命の維持に必要な物質に変える作用のことをいい、代謝で大きな役割を担っている臓器が肝臓で、エネルギー源となるグリコーゲンを貯えて必要に応じてエネルギーを生成するほか、身体の作用に必要なたんぱく質の生成および分解、コレステロールの生成、アルコールや身体に有害な物質の分解や解毒などの働きがある。ビタミンやミネラルの一部は、肝臓で行われる代謝に利用される。またエネルギーの生成、たんぱく質の生成および分解は筋肉組織など身体のさまざまな細胞によっても行われている。代謝の中でも、身体的・精神的な安静の状態で呼吸、血液の循環、排泄、体温の維持などを行う、生きるために最低限必要なエネルギーの生成を、基礎代謝という。
三大栄養素 | 消化⇒吸収の過程 | 代謝の経路(道筋)の概略 |
糖質 (炭水化物) | 糖質は、消化によってグルコース(ブドウ糖)などに分解され、小腸粘膜から吸収された後、肝臓に運ばれ、①そのまま血液中を運ばれて、各組識でエネルギー源として利用される、②肝臓や筋肉ではグリコーゲンとして蓄えられ(同化)、必要時に再びグルコースに転換されてエネルギー源として使われる(異化)。糖質からエネルギーをつくった後には二酸化炭素と水だけが残って、二酸化炭素は吐き出す息から、また、水は尿や汗となって、体外に排出される。 グリコーゲンの貯蔵量には限界があり、余分なグルコースは脂質となって肝臓や脂肪組織に貯蔵されるため、糖質をとりすぎると肝臓や脂肪組織に脂質がたまり、肥満や脂肪肝につながる。 [肝臓の役割] 必要に応じてグリコーゲンからグルコースを遊離して血液中に送り出し、身体の各組織にエネルギー源として供給する。脳および神経細胞も、この血液中のグルコースを分解してエネルギーを得ている。このように血液中に送り出されたグルコースの量が血糖値である。 | 糖質 ⇒ グルコース(ブドウ糖)に分解 ⇒ 小腸粘膜から吸収 ⇒ 肝臓(一部エネルギー源に) ⇒ 血管系で全身に(各組織でのエネルギー源に)、肝臓や筋肉ではグリコーゲンとして貯蔵 参照:図2 急激な運動等により筋肉中に生じた乳酸は、血液循環を介して肝臓に送られ、糖新生(乳酸→ピルビン酸→グルコース)される。一方、エネルギー源としては、解糖系(グルコース→ピルビン酸)、クエン酸回路(TCAサイクル)、電子伝達系を介して利用される。また、ペントースリン酸経路では、グルコースから核酸合成に必要なリボースや脂肪合成に必要なグリセロールを合成する。 |
脂質 | 脂質は、消化作用を受けて脂肪酸に分解され、小腸から吸収され、血液によって皮下、腹腔、筋肉の間などにある脂肪組織に運ばれて体脂肪として貯蔵され、エネルギーが不足すると必要に応じてエネルギー源として消費される。糖質と同様にエネルギーをつくった後には二酸化炭素と水だけが残り、二酸化炭素は吐き出す息から、水は尿や汗となって排泄される。肝臓に貯えられた脂質からはコレステロールがつくられ、その大部分が胆汁の成分として使われるが、そのほか細胞膜や神経の成分に、また、ステロイドホルモンの原料にもなる。 [肝臓の役割] 脂質を貯蔵してエネルギーとして利用する。また脂質を分解して、それらから身体に必要な物質を生成したり、細胞膜やステロイドホルモンをつくるために必要なコレステロールを生成する。 | 脂質 ⇒ 脂肪酸に分解 ⇒ 肝臓(一部エネルギー源に) ⇒ 小腸粘膜から吸収 ⇒ 血管系で皮下、腹腔、筋肉にある脂肪組織へ ⇒ 体脂肪として貯蔵、エネルギー源に 参照:図3 脂質の代謝には、①酸化分解と生合成、②コレステロールの合成がある。脂肪酸は、脳と神経を除くすべての器官でエネルギー源と成り得えて、β酸化によってアセチルCoAとなり、エネルギー代謝に入り、エネルギーを産生する。 |
たんぱく質 | 食物中のたんぱく質はアミノ酸に分解され、小腸で吸収される。一方、肝臓に運ばれたアミノ酸は一部がたんぱく質に合成され、その他のアミノ酸は血液によって身体の各組織に運ばれ、組織たんぱく質に合成される。いったん合成されたたんぱく質は一定の割合でアミノ酸に分解され、絶えず新しく合成されるたんぱく質と入れ替わり、ホルモン、血球、免疫物質の形成などにも使われる。不要になったアミノ酸から出る窒素化合物は肝臓で尿素に変えられ、腎臓を経て尿中に排泄される。また、たんぱく質を構成する炭素、水素、酸素はエネルギーとしても利用され、その後に二酸化炭素、水となって排出される。 [肝臓の役割] アミノ酸の分解、体たんぱく質や免疫物質の生成を行う。また、アミノ酸の分解によって生じる窒素化合物の大部分を無毒の尿素に変換して、尿中に排泄する役目も果たしている。 | たんぱく質 ⇒ アミノ酸に分解 ⇒ 肝臓(一部エネルギー源に、尿素産生→腎臓から排泄) ⇒ 小腸粘膜から吸収 ⇒ 血管系で各組織へ ⇒ 体たんぱく質の合成など 参照:図4 吸収されたアミノ酸は、①筋肉、骨と骨の結合部、腱、靭帯、毛・爪・皮膚等の構成成分、②機能性たんぱく質として、酵素、免疫グロブリン、インスリン・グルカゴン等のペプチド系ホルモンの合成、③エネルギーとして利用される。 |
【参考資料】
(1)[PDF] Ⅲ栄養指導 – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp › bunya › shakaihosho › iryouseido01 › pdf
(2)新看護学3 専門基礎3 食生活と栄養 ㈱医学書院 2017.2.1 p.179-301
(3)国立循環器病研究センター病院:栄養に関する基礎知識(最終更新日 2018年05月15日)
【参照図】
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