データでみる医療・医薬の世界 3       八野芳已

第1節:食生活と栄養

(1)食生活の変遷(in19.6寄稿済)

(2)食生活とライフステージ&附則「天寿を全うする」って・・・(in19.7寄稿済)

(3)摂取栄養の変化 [「栄養面から見た日本的特質」:農林水産省]

「栄養面から見た日本的特質」と題して、農林水産省が次の項目でまとめている(1)。主要項目は「I 食生活と健康、寿命の関係、 II 再認識された日本型食生活、 III栄養学の進展、 IVマイクロアレイ法によって日本食の健全性を明らかにしようとした研究例」の4つで構成されている。さらにその中身をみてみると、Iの項目には「1日本人の寿命は世界一、2「がん」、「心疾患」、「脳血管疾患」が現代日本人の三大死因、3年齢調整死亡率―がんによる死亡率は増えたか?」の3つの細項目が、また、 IIの項目には「1日本人の平均寿命が飛躍的に伸びた、2日本型食生活の定着、3日本型食生活スタイルの特徴、4なぜ日本食が栄養学的に優れているのか?5不老長寿にも役立つ日本的要素:酒と茶の効用、6変質しはじめた日本型食生活7食生活指針の変遷、8食生活スタイルを環境保全型に再構築を、9沖縄の長寿食と「26ショック」、10倹約遺伝子を持たないものは長生きする?」の10の細項目が、さらに、IIIの項目には「1ニュートリゲノミクスによる栄養アドバイス、2おいしく、ゆっくり食べる(三ガツガツと食べない)栄養効果、3なぜ日本食が栄養学的に優れているのか、4米飯給食はさらに改善するのではないか?、5人間の最大寿命とその延長戦術:摂取カロリーの制限」の5つの細項目が設けられて、検討されている。

今回は、筆者が興味あるところをランダムに抜粋引用し記することで、「食生活と栄養」を考える話題提供とする。

【I 食生活と健康、寿命の関係 1日本人の寿命は世界一(2)

国民の平均寿命は、国民の健康度を推しはかる、重要な「めやす」のひとつである。日本人の平均寿命は、昭和初期には男女ともに50歳に達していなかったが、2008年の簡易生命表によると男性79.29歳、女性86.05歳と飛躍的に伸張した。諸外国の間で比べると、女性は世界1位、男性は世界2位、男女平均で世界1位の長命であった。異論もあるだろうが、日本人の「平均寿命が世界一長い」ことから、日本人は「世界一健康」であるということができる。なお、「健康とは完全な肉体的、精神的及び社会的に安寧な状態であり、単に疾病または病弱ではないということではない、」言い方を変えると「健康とは、病気でないというだけではない。何事に対しても、前向きの姿勢で取り組めるような、精神的、肉体的および社会的適応状態をいう。「Youth is not entirely a time of life- it is a state of mind.

Prevention is always better than treatment. in世界保健機関: WHO」(3)

【II 再認識された日本型食生活 4なぜ日本食が栄養学的に優れているのか?(4)

日本型食生活を支える食事、つまり日本食(和食)を中心とした伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事を摂ることによって、健康の維持増進に必要なエネルギーとバランスの取れた栄養成分が、ごく自然に確保することができる。ヒトの血圧は植物性タンパク質の摂取量と逆相関するので、植物性食品(つまり、植物性タンパク質と植物性油脂)の多い日本型食生活では高血圧になりにくい。このような日本食の健全性は、「日本人男女の平均寿命が世界一である」という事実が証明している、と理解されている。

日本食の三大栄養素:たんぱく質、脂肪、炭水化物の適正な摂取バランスとして、厚生省が「第六次改訂日本人の栄養所要量」(平成12―16年度使用)において、摂取する総エネルギー量に対するPFCバランス、つまり[タンパク質]:[脂肪]:[炭水化物] の摂取エネルギー比率が、10~20%:20~25%:50~70%の割合となるように摂取することを推奨した(ただし高齢者と乳幼児を除く)。食物繊維の摂取量も、望ましい栄養素として策定された(成人に対して10g /1,000 kcal)。

図4は主要国におけるPFC.の供給割合(≒消費割合)を比較したものである。2005年における日本の脂質(F)供給割合が理想的とされる割合20~25%を有意に超えていること、炭水化物(C)の供給割合が50%以下(?)になっていることに、国民の注意を喚起する必要がある。

【II 再認識された日本型食生活 7食生活指針の変遷(5)

日本国民が、毎日食べる食品数を意識しはじめたのは、1985年5月、厚生省が「健康づくりのための食生活指針」のなかで、「1日30食品を目標に」と呼びかけて以来のことである。

当時、弁当・総菜などの調理済み食品、加工食品、ファーストフードなどが広く出まわるようになり、飲食店などの外食産業も急成長した。その結果、国民の栄養素摂取源が多様化したが、必要な栄養素の量比が偏っている可能性のあることが危惧された。栄養成分をバランスよく摂るためには、偏食をさけて、できるだけ多種類の食品を組み合わせて食べることが肝要だとして、数値目標:1日30品目の食品摂取が、当時の「健康づくりのための食生活指針」のなかで提唱されたのであった:

 健康づくりのための食生活指針 (1985年5月)

1. 多様な食品で栄養バランスを:1日30食品を目標に主食、主菜、副棄をそろえて

2. 日常の生活活動に見合ったエネルギーを:食べすぎに気をつけて、肥満を予防、よくからだを動かし、食事内容にゆとりを

3. 脂肪は量と質を考えて脂肪はとりすぎないように:動物性の脂肪より植物性の油を多めに

4. 食塩をとりすぎないように:食塩は一日10グラム以下を目標に調理の工夫で、むりなく減塩

5. こころのふれあう楽しい食生活を:食卓を家族ふれあいの場に家庭の味、手づくりのこころを大切に。

ところが、筆者が実際に見聞したことであるが、この食生活指針が目標とした「1日30品目」を呼び込みに利用して、スーパーの店先では「30品目ふりかけ」が、デパート地下の惣菜売り場でも「15品目サラダ」が、短期間であったが、販売されていたことがあった。

2000年3月、厚生省(現厚生労働省)は農林水産省、文部省(現文部科学省)と連携を図って、新しい食生活指針を策定・公表したが、その食生活指針では、「主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」とあるだけで、「1日30品目」の表現は削除された。厚生省の担当者は、「30の数字を絶対視して食べ過ぎてしまうことがありかねないので、誤解を避けるために、数値表示をしなかった」のだという。

なお、以上の食生活指針は成長期~青年期~壮年期の日本人を対象としたものであるが、1990(平成2)年11月20日、 農林水産省は、策定した7項目の「新たな食文化の形成に向けて-’90年代の食卓への提案-」の中で、ライフステージ別に心がけたいこととして以下の提案を行った:

★幼児期には-多様な素材と多様な味に慣れさせ、豊かな食歴をつくりあげよう。
★青少年期には-生活リズムにあった食生活を確立しよう。
★壮年期には-ゆとりとうるおいのある食卓づくりに心がけよう。
★高齢期には-食を通じて、世代を超えたコミュニケーションの輪を広げよう。

ここで、初めて、幼児期に対する指針(成長期の偏食を予防することを目的として)が提唱された。これ以後、幼児期に対する指針は改訂されていない。少子化の傾向が益々著しくなるなかで、育児経験の浅い母親が、育児上の助言と支援や、より具体的な指針を必要としていることに、関係機関は対応する必要があるだろう。

1998年までに策定された食生活指針については、『坂本元子、木村修一、五十嵐脩編「世界の食事指針の動向」、建帛社、1998』が詳しい。

【II 再認識された日本型食生活 6変質しはじめた日本型食生活(6)

この高度経済成長期に至るまでの日本人の食生活、つまり日本型食生活は、動物性食品よりも植物性食品に依存することが多かった(図5)。コメなどの穀類、大豆などの豆類と、さまざまな新鮮野菜類、つまり植物性食品が、エネルギーとタンパク質、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素の重要な供給源であった。動物性食品の国内生産量は国内需要をまかなうには十分でなかった。そのような時代や地域では、穀類と豆類が必要なタンパク質の主な供給源になっていたが、人々は慢性的な食料不足、栄養不足に悩まされることが少なくなかった。また、昭和時代の初期、これは谷崎潤一郎の小説『細雪』のはじめの方に出てくるプロットであるが、人々は「Bたらんねん」と、当時国民病とまでいわれていた脚気を怖れて、東京湾や大阪湾が米ぬか臭くなるほど、ビタミンB1 注射や製剤を多用した。

食事で重視することを(1つだけ選択)を調べた結果によると(図6,NHK放送研究所『食生活に関する世論調査』2006年調査)、日本人全体では、「おいしいものを食べること」、「栄養がとれること」、「楽しく食べること」を重視するが、「空腹が満たされること」、「簡単に済ませること」は軽視されるのに対して、男性16~29歳は「空腹が満たされること」を重視し、60歳以上の女性が「栄養がとれること」と「楽しく食べること」を重視した。その他の年齢階層は、男女ともに「おいしく食べること」を重視した。これに対して、60歳以上の現代日本人は、孤食・欠食が多いためか、おそらく「みんなと一緒に、楽しく食べたい」、「栄養欠乏」が心配だと認識している。その他の年齢階層は、男女ともに「栄養欠乏を怖れる必要がない」との認識のもとで、グルメになったかのように「美味しく食べること」を重視している。

 【Summary】

 摂取栄養の変化の視点から、要点を次のようにまとめる。

①2005年における日本の脂質(F)供給割合が理想的とされる割合20~25%を有意に超えていること(1980年:25.5%⇒2005年28.9%)、炭水化物(C)の供給割合が50%以下(?)になっていること(1980年:61.5%⇒2005年58.0%)に、国民の注意を喚起する必要があること

②ライフステージ別に心がけたいこととして以下の提案を行った:

★幼児期には-多様な素材と多様な味に慣れさせ、豊かな食歴をつくりあげよう。
★青少年期には-生活リズムにあった食生活を確立しよう。
★壮年期には-ゆとりとうるおいのある食卓づくりに心がけよう。
★高齢期には-食を通じて、世代を超えたコミュニケーションの輪を広げよう。

ここで、初めて、幼児期に対する指針(成長期の偏食を予防することを目的として)が提唱された。

③食生活の変化では、純食料供給量(1人1日当たり)に占める割合が大きく変わっていて、米の減少、牛乳・乳製品の増加が顕著である、また、たんぱく質供給量(1人1日当たり)をみると、小麦、肉類、魚介類が増加している、中でも肉類の増加は著しいこと

④食生活に関する世論調査からは、日本人全体では、「おいしいものを食べること」、「栄養がとれること」、「楽しく食べること」を重視するが、「空腹が満たされること」、「簡単に済ませること」は軽視される。「おいしいものを食べること」は男女・各世代で同傾向としてみられるが、「栄養がとれること」と「楽しく食べること」では男女の16-29歳代では少なく、「空腹が満たされること」が多くなっており、この傾向は男で顕著にみられ、成長過程に依存していると考えられること

参考資料:

(1)栄養面から見た日本的特質:農林水産省 

www.maff.go.jp › 組織・政策 › 基本政策 › 食文化 › 和食文化の保護・継承

(2)栄養面から見た日本的特質:農林水産省

II 再認識された日本型食生活 1日本人の寿命は世界一

(3) 世界保健機関: WHO

(4)栄養面から見た日本的特質:農林水産省

II 再認識された日本型食生活 4なぜ日本食が栄養学的に優れているのか?

(5)栄養面から見た日本的特質:農林水産省

II 再認識された日本型食生活 7食生活指針の変遷

(6)栄養面から見た日本的特質:農林水産省

II 再認識された日本型食生活 6変質しはじめた日本型食生活 US>

(http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_1_3_01.htmより)

5a9f17cc74be75e9cacf978d624a4103

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0280.htmlよリ

36e8c3636574afde29f02e9afe4093e4

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0322.htmlよリ

2d3f1458a57abe05669d8689d4e5d9f6

図録▽食事で重要なのは「おいしさ」「栄養」「満腹」?
よリ
図録▽食生活の変化(1910年代以降の品目別純食料・たんぱく質供給量)
よリ
タイトルとURLをコピーしました