唾液中代謝物のAI解析で乳がん検出法を開発    帝京大学医学部

 神野浩光帝京大学大学医学部外科学講座教授らのグループは7月31日、唾液のメタボローム解析と人工知能(AI)を使って、高精度に乳がん患者を検出する方法を開発したことを明らかにした。
 同検出法は、杉本昌弘東京医科大学低侵襲医療開発総合センター教授・慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授、林田哲慶應義塾大学医学部外科学(一般・消化器)専任講師らとの共同研究で開発されたもの。
 唾液の解析のみでの高精度な乳がんの識別は、新しい検査方法として極めて有望であると期待されている。
 日本人女性のがん罹患率の第1位は乳がんである。国内の乳がんの治療成績は良好を示しており、4人に3人は完治しているが、より早期段階で発見できれば治療成績がさらに向上するだけではなく、手術の縮小などが可能となる。
 乳がん発見には、超音波やマンモグラフィーなどの画像検査や血液検査が行われる。血液検査では腫瘍マーカーとしてCEA、CA15-3、NCC-ST-439が広く使われている。だが、これらは感度や特異度に限界があり、特に早期ではほとんどが陰性になってしまうため、早期でも感度が高いマーカーの開発が急務の課題とされてきた。
 加えて、日本は先進国の中でも乳がん検診の受診率が低いため、自覚症状のない患者でも簡便に受診しやすい、侵襲性の低い検査の開発が求められている。
 こうした中、神野氏らの研究グループは、生体内の代謝物を一斉に測定して定量するメタボローム解析技術を利用し、唾液を用いた疾患検出の研究を推進。
 浸潤性乳がん(invasive carcinoma, IC群)101症例、非浸潤性乳がん(ductalcarcinoma in situ, DCIS群)23症例、健常者(healthy control, HC群)42症例、合計166の唾液検体を収集し、メタボローム解析を実施した。
 メタボローム解析においては、1つの測定方法では測定できる物質数に限界があるため、キャピラリー電気泳動・飛行時間型質量分析装置と液体クロマトグラフィー・三連四重型質量分析装置の両装置を利用してできるだけ多くの水溶性代謝物を測定。
 解析の結果、唾液中から260種類もの物質が定量でき、そのうちの約30物質は各群の間で濃度に違いがあることが統計的な評価によって明らかになった。
 また、IC群において、代謝物の一種であるポリアミン類などの濃度がHC群と比較して高い一方、DCIS群ではこれらの物質の濃度の上昇はみられず、HC群と濃度が変動しないことも判明した。
 さらに、このうちIC群とHC群の間をもっとも高精度に識別する物質は、ROC曲線
以下の面積において0.766 (95%信頼区間; 0.671-0.840)という精度を確認。これらの物質群の濃度パターンをAIに学習させたところ、0.919 (95%CI信頼区間; 0.838-0.961)にまで精度向上に成功した。
 今後は、より大規模な症例での検証を行い、他の疾患との比較なども含めてさらなる精度向上を目指すとともに、より低コストな測定方法の開発を進めていく。

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