がんや感染症等の発生や悪性化メカニズム解明・診断・治療法への応用に期待
金沢大学ナノ生命科学研究所の福間剛士教授らの共同研究グループは,生きた細胞の内部においてナノスケールの構造やその動きを直接観察できる原子間力顕微鏡(AFM)技術の開発に成功した。
共同研究は、マルコス・ペネド同研究所特任助教(研究当時)、産業技術総合研究所の中村史副連携研究室長らによるもの。同研究成果は,22日に米国科学誌『Science Advances』のオンライン版に掲載された。
生細胞内部におけるオルガネラやタンパク質などのナノスケールの構造および動態を理解することは、さまざまな細胞機能やそれが関係する疾患、老化などの生命現象の仕組みを理解する上で極めて重要な手がかりとなる。だが、従来の観察技術では生きた細胞の中でそれらを直接観ることはほとんどできなかった。
そこで、福間氏らの研究グループは、生きた細胞の内部を直接観察できる新たな技術である「ナノ内視鏡AFM」を開発した。この技術では、あたかも生きた人体に細長い内視鏡カメラを挿入してその内部を観察するように、生きたままの細胞の内部に細長いニードル状のAFM探針を挿入し、その探針の先端が細胞内の構造と接触する際に受ける微弱な力を検出することで細胞内構造を画像化する。
同研究では、この技術を用いて細胞核やアクチン繊維などの3次元分布や、細胞膜を支えるナノスケールの裏打ち構造の動きを生きたままの細胞の内部で観察できることを明らかにした。
ここで開発した技術は将来、従来技術では観ることのできなかったタンパク質やオルガネラの動きや硬さなどの細胞内での直接計測を可能とする。
同研究で開発した技術により、将来、細胞内のさまざまな生命現象の直接ナノスケールによる観察が期待される。例えば、細胞核や、ミトコンドリア、細胞骨格の表面で働くタンパク質の様子や、細胞-細胞間の接着構造、細胞核やミトコンドリアの硬さの細胞老化に伴う変化などを生細胞の内部で直接観察できる可能性がある。
これらの方法により、がんや感染症などによって生じる細胞内の変化を詳細に知ることができれば、それらの診断や治療法の改善につながるものと期待される。
同研究は、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(A)、20H00345),科学技術振興機構未来社会創造事業(18077272)、金沢大学戦略的研究推進プログラムの支援を受けて実施された。