医療スタッフの「顔の見える化」で患者の心理的苦痛軽減
米国財団法人野口医学研究所と聖マリアンナ医科大学病院は、個人用防護具(Personal Protective Equipment:PPE)越しでの、医療スタッフと患者とのコミュニケーションを活性化する試みとして「PPE Portrait Project:PPEポートレートプロジェクト」を実施している。
同研究所は、日本が生んだ世界的な細菌学者であり医学者である野口英世博士の功績を称え、その精神を継ぎ、第二・第三の”野口英世“の育成を目的として1983年、野口英世博士ゆかりの地である米国ペンシルバニア州フィラデルフィアに設立された米国財団法人だ。
日野原重明博士、ジョセフS.ゴネラ博士らの発案で、浅倉稔生博士とその教え子である浅野嘉久博士らにより設立された同財団では、世界の最先端を行く米国医学教育研修制度の実践と国際医学交流を促進。毎年数多くの日本人メディカルスタッフを提携先の米国大学や病院に留学生として派遣し、その活動を支援している。
今回の「PPE Portrait Project」は、医療スタッフのPPEに顔写真を貼るというもの。ガウン、手袋、N95マスク、キャップ、 エプロン、シューカバー、フェイスシールド、ゴーグルといったPPEの適切な着用は、医療スタッフをウイルス感染から守る上で非常に有効な手段となっている。
だが、その半面、PPEの着用により、患者からは医療スタッフの顔や表情が見えにくくなり、患者さんの恐怖心をあおることが問題視されている。
「PPE Portrait Project」は、2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際、米国のオクシデンタル大学 Mary Beth Heffernan教授が、患者の治療効果の改善と心理的苦痛の軽減を目的として、医療スタッフのPPEに顔写真を貼ることを提唱したのが始まりだ。
この取り組みが新型コロナウイルス流行下の米国で再び注目され、現在、マグネットホスピタル認証を受けた一部の病院などで実施されている。
マグネット認証プログラムは、アメリカ看護師認証センター(The American Nurses Credentialing Center, ANCC)が、看護の卓越性を評価する厳しい基準を満たした医療機関を認証するものである。
医療スタッフの「顔の見える化」を通して患者と医療スタッフのコミュニケーションの活性化により、実際に患者の孤立感や心理的苦痛が軽減されるとの報告もあり、治療やケアを受け入れやすくなることが期待されている。
野口医学研究所は、聖マリアンナ医科大学病院での「PPE Portrait Project」導入、および円滑な運営のための支援を行っている。同病院でのプロジェクト開始後3カ月の評価調査では、「顔が見えることで安心する、うれしいなど患者さんに笑顔が見られた」、「写真をきっかけに患者とのコミュニケーションが取れるようになった」など、プロジェクトに参加した看護師の6割以上が、プロジェクトの効果と継続に前向きな感想を述べている。
米国財団法人野口医学研究所は、「患者優先の医療(Compassion-Humanity&Empathy in Medicine-)」を掲げ、こうした活動を通して、患者さまの痛みや苦しみに共感し、思いやりをもって心に寄り添うことのできるメディカルスタッフの教育・育成に努めている。
今後も同財団は、こうした活動を通して、患者の痛みや苦しみに共感し、寄り添うことができる医療スタッフの育成に努めていく。