近年、家庭の経済状況や教育環境にかかわらず、医師を目指せる機会をどのように保障するかが問われている。
岐阜大学医学教育開発研究センター(MEDC)の招へい教員の鈴木康之名誉教授、野村理教授、西城卓也教授らの研究グループは21日、全国の医学部長や医学教育責任者らを対象に、学生の多様性と入学者選抜に関する認識調査結果を公表した。
全国82医学部の医学部長や医学教育責任者らを対象に、学生の多様性と入学者選抜に関する認識調査を依頼し、131人から回答を得たもの。
その結果、多様性の拡大や教育機会の格差への認識と、入学者選抜で受験生の社会経済的に不利な背景を考慮することへの認識には隔たりがあることが分かった。
社会経済的に多様な学生を受け入れることや進学機会の拡大を支持していた一方で、選抜で重視する項目としては、認知能力や非認知能力、人間性などに比べ、社会経済的に不利な背景への評価は低かった。同研究は、医学部入試における公平性を考えるための基礎資料となる。これらの研究成果は、10月14日に国際学術誌「Medical Teacher」にオンライン掲載された。
医学部への進学機会には、家庭の経済状況や教育資源へのアクセスが関わっている。進学機会の拡大(Widening Participation:WP)とは、こうした背景による不利を軽減する取り組みだ。だが、入学者選抜方針に関わる医学部リーダーが、多様性や公平性をどのように捉えているかは、これまで十分に分かっていなかった。

鈴木氏らは、2025年4〜5月、全国82医学部のリーダーらを対象にウェブ質問紙調査を実施し、131人から回答を得た。
図1は、回答者の認識を、A「多様性・支援策」、B「市民・教育者の意見」、C「選抜で重視する項目」に分けて示している。各帯の青色の割合が大きいほど、その設問への同意が強いことを表す。
① 多様性の拡大を支持する一方、積極的支援策には意見の幅(図1A)
「不利な背景の学生の受け入れ拡大」(Q2)と「進学機会拡大の必要性」(WP、Q3)は、回答の中央値がいずれも6点であった。一方、「不利な背景を持つ志願者への積極的支援策」(Affirmative Action:AA、Q4)は5点で、他の政策項目より同意が低く、回答も分かれていた。
② 出願機会の格差を認識し、早い段階からの支援に同意(図1B)
「医学部への出願機会に社会経済的格差がある」(Q6-3)と、「中等教育段階からの支援の必要性」(Q6-5)は、中央値がいずれも6点であった。一方、「家庭収入への驚き」「学生の背景の均質性」「受験中心の進路指導の弊害」は5点で、同意の程度に違いがあった。
③ 選抜では、背景よりも能力・人間性を重視(図1C)
「認知能力」「非認知能力」「人間性」「医学を学ぶ動機」(Q7-1〜Q7-4)は中央値が6〜7点であった。一方、「人生経験」「出身地域」「社会経済的に不利な背景」(Q7-5〜Q7-7)は4〜5点であった。特に、「社会経済的に不利な背景の考慮」は4点で、「認知能力」「非認知能力」「人間性」「動機」の4項目より低い評価であった。
これらの結果から、多様性の拡大や教育機会の格差への認識と、入学者選抜で受験生の社会経済的に不利な背景を考慮することへの認識には隔たりがあることが分かった。ただし、同研究は限られた回答者による探索的な横断調査であり、全国の医学部リーダー全体への一般化や、実際の入試運用・因果関係の判断には限界がある。
進学機会の拡大に向けては、選抜手法の見直しに加え、「能力」や「公平性」をどう捉えるかについての対話が重要と考えられる。
今後は、質的研究などを通じて、こうした考え方が形成される背景を詳しく検討する必要がある。
