個別化医療(精密医療)の実現に向けた重要な一歩に
福井大学医学部の木戸口正典助教、藤枝重治教授および米国ノースウェスタン大学のAtsushi Kato准教授らの国際共同研究グループは24日、鼻ポリープ悪化引き起こす新たな免疫細胞タイプとして2型自然リンパ球(ILC2)という免疫細胞を突き止めたと発表した。
将来的には、特定のILC2サブセットをピンポイントで標的とする新規治療薬の開発に繋がり、患者一人ひとりの病態に最適な「個別化医療」の実現に大きく貢献するものと期待される。
鼻茸(鼻ポリープ)を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)は、鼻づまりや嗅覚障害などを引き起こし、手術後も再発しやすい難治性の疾患だ。これまで、その炎症の主な原因となる細胞は十分に解明されていなかった。
そこで、木戸口氏らの研究グループは、最新のシングルセルRNA シーケンス解析(1細胞ごとの遺伝子解析)を用いて、患者の鼻茸組織を詳細に調べた。その結果、2型自然リンパ球(ILC2)という免疫細胞が、炎症を引き起こす主要な原因であることを突き止め。
さらに、このILC2は活性化の度合いによって「遊走型(migratory)」「移行型(transitional)」「炎症型(inflammatory)」「疲弊様(exhausted-like)」という4つの異なるタイプに分類できることを世界で初めて発見した。
また、これらのタイプの割合が、患者の重症度や自覚症状と強く関連していることも明らかになった。同研究成果は、難治性の慢性副鼻腔炎に対する患者一人ひとりの病態に合わせた個別化医療(精密医療)の実現に向けた重要な一歩となる。
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)は、鼻腔内にポリープ(鼻茸)が多発し、重度の鼻づまりや嗅覚障害をもたらす難治性の疾患です。この病気の多くは、インターロイキン(IL)-5 やIL-13といったサイトカインが過剰に産生される「タイプ2(T2)炎症」によって引き起こされる。
近年、ステロイド薬や特定の分子を標的とする生物学的製剤が治療に用いられているが、治療に抵抗性を示す患者や手術後に再発する患者も多く、大きな臨床的課題となっている。
これまで、これらの炎症性サイトカインを分泌する主な細胞はTh2細胞などの免疫細胞であると考えられてきたが、鼻茸の内部で実際にどの細胞が最も重要な役割を果たしているのかは明確ではなかった。また、近年注目されている2 型自然リンパ球(ILC2)の鼻茸内での役割や、細胞ごとの性質の違い(不均一性)についても解明が求められていた。
研究グループは、手術で採取した患者の鼻茸組織と末梢血から免疫細胞(ILC2 およびTh2 細胞など)を精密に単離し、生体外でサイトカインの産生量を比較した。
その結果、鼻茸内のILC2 は、Th2 細胞と比較してより多くのIL-5 およびIL-13 を産生しており、鼻茸局所におけるT2 炎症の極めて重要な駆動役(エフェクター細胞)であることが証明された(図1)。

さらに、約1万1000個のILC2 を対象に、細胞一つひとつの遺伝子の働きを網羅的に調べるシングルセルRNA シーケンス(scRNA-seq)を実施した。
解析の結果、鼻茸内のILC2は、末梢血のILC2 とは異なり全体的に活性化をきたし、単に炎症を引き起こすだけでなく、組織のリモデリング(構造変化)やバリア機能の低下に関与する特有の遺伝子群を強く発現していることがわかった。
詳細な解析を進めると、鼻茸内のILC2 は、その活性化状態に応じて次の4 つの異なるタイプ(サブセット)に分類できることを世界で初めて明らかにしました(図2)。

1、 遊走型(Migratory ILC2):組織移行に関する受容体を発現し、比較的活性化が低い状態。
2、 移行型(Transitional ILC2):中等度の活性化を示し、特徴的な免疫調節分子を発現する状態。
3、 炎症型(Inflammatory ILC2):高度に活性化しており、IL-5 やIL-13 などの炎症性サイトカインを大量に産生する状態。
4、 疲弊様(Exhausted-like ILC2):持続的な炎症刺激を受けた結果、細胞の働きを抑える「抑制性受容体(TIGIT など)」を発現するようになった状態。
加えて、これらのILC2 サブセットの数と、患者の臨床データとの関連を調べた。その結果、「移行型」「炎症型」「疲弊様」のILC2 の合計数が多い患者ほど、CT 画像における病変の重症度スコア(Lund-Mackay スコア)が高いことが判明した。
さらに、患者の鼻の症状や睡眠障害、心理的負担などの主観的な重症度スコア(SNOT-22 スコア)の悪化には、「炎症型」および「疲弊様」のILC2 が強く関連していることを見出した。
同研究により、これまで単一の集団と考えられていたILC2 が、鼻茸の内部で状態を変化させながら複数のサブセットとして存在し、それぞれが異なる形で病気の悪化や症状に関与していることが明らかになった。
この発見は、慢性副鼻腔炎の新たな治療戦略に直結するものである。患者ごとに鼻茸内のILC2 サブセットの割合を調べることで、どの患者にどの生物学的製剤が最も有効かを予測するバイオマーカーとなる可能性がある。
将来的には、特定のILC2サブセットをピンポイントで標的とする新規治療薬の開発に繋がり、患者一人ひとりの病態に最適な「個別化医療」の実現に大きく貢献することが期待される。

