
3月13日は世界睡眠デー、3月18日は日本の春の「睡眠の日」。 日本は世界有数の長寿国であるが、寿命の長さと健康寿命は必ずしも一致しない。人生100年時代に求められるのは「長く生きる」だけでなく、「健やかに生き続ける」こと。その土台として見直したいのが、毎日の睡眠だ。
そこで、大正製薬が本年3月に全国の20代~60代の男女1000人を対象にインターネットで実施した睡眠に関する調査結果と、同調査を監修した白濱龍太郎睡眠専門医が語る「長寿のためにも知っておきたい上質な睡眠のとり方」を紹介したい。
睡眠に関する調査結果において、「やりがちな睡眠の質を下げる習慣」の上位5つは、「スマートフォンを見ながら寝る」(328人/1000人、以下同)、「寝る直前までパソコン・タブレットで作業や視聴をする」(292人)、「寝る直前までテレビを見る」(251人)、「布団に入ってから考え事・反省などをする」(161人)、「就寝6時間前以降に、カフェインを摂る(コーヒー・緑茶・エナジードリンク等)」(132人)となっていた。

また、「睡眠の質を改善するために購入(利用)したことがあるもの」に関しては、1位が「睡眠の質向上を目的とした枕」(178人)、続いて「遮光カーテン」(131人)、「睡眠の質向上を目的としたマットレス・敷布団」(96人)、「アイマスク」(82人)、「入浴剤・アロマ等のリラックスアイテム」(73人)であった。

睡眠の質を改善するグッズなどへの投資金額を尋ねたところ、半数以上の51.6%が睡眠の質を改善するグッズなどは購入したことがないと回答。3000円未満という人が13.3%で最も多く、50万円以上の投資をしている人も1.2%いることがわかった。

日本人は睡眠時間が短いと指摘されることが少なくない。睡眠は単なる休息ではなく、体のメンテナンスや心身の回復を支える生活基盤である。睡眠時間の過不足のほかにも、心身の疲労を回復できる環境や生活習慣を意識することが、健康寿命の観点からも重要になる。
【「長寿のためにも知っておきたい上質な睡眠のとり方」 白濱龍太郎氏に聞く】

睡眠は“時間”だけで語れるものではなく、「眠気を出す仕組み」と「目覚めを保つ仕組み」のバランスによって成り立っている。夜に眠気を促すホルモン、メラトニンと、朝の覚醒を支えるコルチゾール。この2つのホルモンが時間帯に応じてきちんと切り替わることで、はじめて深い睡眠が得られる。
ところが、就寝時刻のばらつきや夜間の光刺激、生活リズムの乱れが続くと、この切り替えがうまくいかなくなる。十分な時間ベッドに入っていても、体は“休息モード”に入れず、眠りが浅くなったり、途中で目が覚めたりする。
また、「長く寝ると体に悪い」という言説もあるがが、これも単純な話ではない。9時間以上眠る人の中には、うつ病や心疾患、睡眠時無呼吸症候群などにより睡眠の“質”が低下し、その不足分を“量”で補っているケースが含まれることがある。
一方で、体質的に長く眠る“ロングスリーパー”も存在し、日中に支障がなければ問題とは言えない。つまり、健康寿命を考える上で重要なのは、「何時間寝たか」だけではなく、「体がきちんと休息モードに入れているか」「リズムが整っているか」という視点である。睡眠時間だけを増やしても、土台となるリズムや環境が整っていなければ、十分な回復ができない。自分の睡眠習慣を見直し、日々の生活習慣や食事、睡眠環境を調整していくことが、眠りの質を底上げし、健康に長生きすることにつながるかもしれない。
長寿のために知っておきたい、睡眠との付き合い方
1、まずは「毎日同じリズム」を心がける
寝る時間・起きる時間が日によって大きく変わると、体内時計が乱れやすくなる。完璧を目指すより、平日と休日の差を小さくすることが、結果として眠りの安定につながる。
2、 仮眠は20分以内、遅くとも午後3時まで
日中に眠気を感じたとき、上手に取り入れれば昼寝は集中力や作業効率の回復に役立つ。ただし、取り方を誤ると夜の睡眠に影響することもあるため注意が必要だ。昼寝は“短く・早い時間に”が基本である。目安は20分以内、遅くとも午後3時まで。この範囲であれば、脳が深い睡眠段階に入りにくく、起きた後のぼんやり感やだるさを最小限に抑えられる。
一方で、30分以上眠ってしまうと深いノンレム睡眠に入りやすくなり、目覚めにくさや“睡眠慣性”と呼ばれる強い眠気が残ることがある。また、夕方以降の仮眠は、夜の入眠に必要な「連続して起きている時間」を削ってしまい、寝つきの悪さにつながることもある。
姿勢にも工夫が必要だ。夜の睡眠と同じようにベッドで横になると、そのまま長時間眠り込んでしまう可能性がある。昼寝は、椅子にもたれる、机に軽く伏せるなど、完全にリラックスしすぎない姿勢のほうが適している。
昼寝はあくまで夜の睡眠を補助するもので、眠気をリセットするための“短い休息”と位置づけ、時間と姿勢を意識して取り入れることが、健康的な睡眠リズムを保つコツである。
3.、「食後の眠気」は“まやかし”であることも
夕食後に強い眠気が来てそのまま寝落ちすると、夜中に目が覚めてしまうパターンが起こりがちだ。食後の眠気は、眠りを促すホルモン(メラトニン)が十分に増えた結果というよりも、消化のために血流が胃腸に集まったり、血糖値の変動によって覚醒を保つ働きが一時的に弱まったりすることで起こる場合がある。
つまり、体が“眠るモード”に入ったというより、“起きている力が少し落ちただけ”の状態に近い。そのタイミングで寝てしまうと、夜の本来の入眠リズムとずれてしまい、睡眠が浅くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりする。夜にしっかり眠るためには、夕食は就寝の3時間前までに済ませ、食後に眠気を感じた場合もそのまま長く寝てしまわないことが大切だ。どうしても眠りたい場合は、20分程度の短い休憩にとどめるなど、夜の睡眠に影響しない範囲で調整するのが現実的である。
4、9時間以上眠ってしまう場合、「体質」か「質の低下」かを見極める必要あり
長く眠っても日中に強い眠気が残る、起きられず仕事や学校に支障がある場合は、過眠症(例:ナルコレプシー等)など別の要因が隠れている可能性もある。本人の意思や気合で解決しない領域もあるため、生活への影響が大きい場合は医療機関への相談を検討して頂きたい。
5、大きないびきは「危険信号」
大きないびきをかいてしまうという方は、実は要注意。いびきは気道が狭くなっていて呼吸の時に空気の摩擦で音が出ている現象なので、無呼吸・低呼吸を起こしているサインである可能性がある。放置していると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクに関わる可能性があるため、大きないびきを指摘されたら検査・受診を検討しよう。
睡眠の質向上のための栄養素
睡眠のリズムや回復には、神経や体温調節など多くの生理機能が関わる。その土台として、それらの働きをサポートしてくれる栄養を意識して摂ることもおすすめだ。たとえば、世界でも「長寿国」や「長寿エリア」とされる地域には、実は魚介類を摂取している地域が多いといわれ、実はその栄養的な裏付けもある。魚介類には、睡眠の質を支える栄養素が豊富に含まれている。
◆トリプトファン
体内で気分の安定に関わるセロトニンや、眠気を促すメラトニンの材料となる必須アミノ酸。納豆などの大豆製品、乳製品、卵、鶏胸肉、カツオ、マグロなどに含まれる。トリプトファンは、体内に取り込まれたあと、ビタミンB6の働きを借りながらセロトニンという神経伝達物質へと変換されるので、ビタミンB6とあわせて摂るのがおすすめだ。セロトニンは気分の安定や心の落ち着きに関わる物質で、日中のコンディションを整える役割を担っている。さらに夜になり、光が少ない環境になると、このセロトニンが「メラトニン」という眠気を促すホルモンへと変わる。メラトニンは体内時計に働きかけ、自然な眠りへと導くスイッチの役割を果たす。
つまり、トリプトファンはビタミンB6のサポートを受けながら、日中の安定と夜の眠りの両方を支える流れの起点になっている。これらの変換を日々スムーズに行うためにも、朝食にトリプトファンを取り入れるのがおすすめだ。
ビタミンB6を含む食品には、カツオ、マグロ、鮭、バナナなどがある。トリプトファンとビタミンB6を一緒に摂ることができるカツオ、マグロは、睡眠の質向上におすすめのメイン食材と呼べる。
◆タウリン
タウリンには血管拡張などの効果があるといわれ、結果、神経細胞などへの酸素や栄養の運搬が促されやすくなったり、体温調節をしたりする働きが見込める。細胞の浸透圧をコントロールするのに必須の栄養素のひとつで、塩分濃度の高い環境で育つ魚や貝などの魚介類に豊富に含まれる。
神経の興奮を抑えるといわれるグリシンとあわせて摂るとより効果的であるという結果も出ている。双方を含む食材としてはイカ、タコ、ホタテ、エビなどがあげられる。
◆オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸(EPA・DHAなど)は、青魚に多く含まれる必須脂肪酸で、脳や神経細胞の膜を構成する重要な成分である。神経の情報伝達をスムーズに保つ働きがあり、炎症やストレス反応を低減する可能性があると考えられている。
睡眠との関係では、メラトニンの分泌リズムや自律神経の安定に関与する可能性が示唆されており、結果として入眠のしやすさや睡眠の深さを支える役割が期待されている。サバ、イワシ、サンマ、マグロなどの青魚、また亜麻仁油やえごま油、くるみにも含まれる。日常的に魚を主菜に取り入れることが、睡眠の質を内側から整える土台づくりにつながる。
◆ポリフェノール類
ポリフェノールは、植物に含まれる抗酸化成分の総称で、体内の酸化ストレスを抑える働きがある。酸化ストレスは細胞の老化や炎症と関わるため、それを和らげることが睡眠環境の安定にもつながると考えられている。
また、ポリフェノールの一部は自律神経や血流の調整に関与し、就寝前の緊張をやわらげてくれる可能性も報告されている。カカオ(高カカオチョコレート)、ベリー類、ぶどう、緑茶などに豊富に含まれる。日中の食事に自然に取り入れることで、睡眠を支える体内環境づくりを後押しする。ただし、緑茶に含まれるカフェインは摂取後30〜60分で血中濃度がピークに達し、半減期(体内の濃度が半分になる時間)は約4〜6時間とされている。就寝の6時間前以降の緑茶は入眠に影響する可能性があるので注意を要する。
長寿につながる睡眠の環境づくり
寝る前の習慣、音・香り・視覚など五感を使って副交感神経を優位にしてリラックスできる環境づくりも、良質な睡眠にプラスになる。
アラームをかけるのは就寝直前、ではなく、前もって
布団に入って寝る直前にアラーム(目覚まし)をセットするのはおすすめできない。時計を見ながら「あと〇時間しか眠れないのか…」と思ってしまうこと自体がストレスになり、もしも短時間しか眠れないという場合は「〇時間しか寝ることができない!(ので、疲れてしまうに違いない)」と無意識に刷り込まれてしまい、それが疲労につながる恐れがある。アラームは、帰宅後すぐや夕方など、就寝直前は避けてかけるようにしよう。
枕は首のカーブを支え、自然に寝返りが打ちやすい形状のものを
枕や寝具は、ただ「柔らかい・高い・低い」という好みの問題ではなく、首の自然なS字カーブを無理なく支え、呼吸がしやすい姿勢を保てるかどうかが重要だ。仰向けのときに首に負担がかからず、必要に応じて自然に横向きの姿勢へも移行しやすい設計は、呼吸の安定、いびきの軽減にもつながる。
流行の機能性パジャマ、効果は?
血流促進や体温調節に着目した新規素材を用いた機能性寝具や機能性ウェアは、着用時の微細血流の変化が確認されているものもある。血流が整うことはリラックスや回復の土台になる可能性がある。また、締めつけが強すぎるものはかえって交感神経を刺激するので、軽く、体の動きを妨げない設計が理想である。
眠れない時は布団から出てしまうほうが良い
「早く寝なければ」と思い、まだ眠くないのに布団に入ってしまう方は少なくない。だが、眠気が十分に高まっていない状態で長時間横になり続けることは、かえって眠りにくさにつながる場合がある。
本来、布団は“眠気が高まったタイミングで自然に眠りに入る場所”である。ところが、眠くないまま横になり、スマートフォンを見たり、考えごとを続けたりすると、脳が「布団=眠る場所」ではなく「布団=起きている場所」と学習してしまうケースがある。
これが続くと、いざ眠ろうとしても寝つきにくくなる悪循環に陥いる。もし布団に入ってから20〜30分たっても眠気が強まらない場合は、いったん起きて、照明を落とした静かな環境でリラックスできることを行い、再び眠気が訪れてから布団に戻る方法も有効である。これは「布団は眠る場所」という感覚を保つための工夫だ。
自然音など「揺らぎ」のある音を聴く
眠れない時には、水の流れる音、海の波の音、木々が揺れる音など、自然の音などを聴くと、不安時に過剰に働きやすい脳の部位(扁桃体)の興奮を落ち着かせ、入眠しやすくなる可能性がある。音そのものの直接的な作用というより、そこから想起される情景や、その音がする環境でリラックス状態を得られたという経験が関与していると考えられる。
絵や写真、鉱物などを眺めると入眠しやすくなるのは、「合図」的な役割
シトリンやアメジストといった、自分がヒーリング効果を感じるようなパワーストーンを眺める、赤ちゃんや動物の癒しを得られるようなかわいい写真を見る、など、視覚的な習慣も入眠をサポートしてくれるといわれる。これは、その画像や物体そのものが睡眠ホルモンを増やすというわけではなく、毎晩同じ、自分にとって癒しになるような行動を繰り返すことで脳が「そろそろ寝る時間」と学習しやすくなる、いわゆる条件づけがなされるためだ。
香りは、”毎日同じ、自分が安心できる香り“を
リラックスできる香りも入眠に有効な場合があるが、就寝30分前から香らせ、強すぎない、毎晩同じ香りを使うことがポイントである。大切なのは、「一般的に良いとされる香り」よりも「自分が安心できる香り」を選ぶことだ。
心地よいと感じること自体が最も重要で、かつ、毎晩同じ香りにすることで、この香りを嗅ぐときは眠る時、と脳に条件づけができる。
睡眠の質は、リズム、生活習慣、体調など複数の要素が重なって改善されていきます。生活習慣、食生活の見直し、睡眠環境の見直しをトータルで心がけ、長寿を目指そう。
医療法人RESM理事長 白濱龍太郎氏プロフィール
慶應義塾大学訪問准教授。東京医科歯科大学呼吸器内科や睡眠制御学快眠センター勤務等を経て、2013年に睡眠・呼吸器科の専門医院を開設。翌年には経済産業省海外支援プログラムに参加し、インドネシア等の医師たちへ睡眠時無呼吸症候群の教育を行う。2018年、ハーバード大学公衆衛生大学院の客員研究員として睡眠に関する先端の研究に従事。日本睡眠学会専門医、日本医師会認定産業医。
