
立命館大学理工学部の岡田志麻教授らの研究グループは、日本で初めてウレタンフォームの生産を始めた高分子素材のリーディングカンパニーであるイノアックとの共同研究により、睡眠中の疲労回復を「代謝」で解明する新測定技術を開発した。
カラーフォームの主力商品である“ファセット(FACET)マットレス”に施されている六角スリット加工が、深睡眠時の代謝を有意に低下させることを明らかにしたもの。
岡田教授は生体工学を専門とし、睡眠計測にも長年取り組んでいる。同グループは睡眠時の呼気を測定できる専用装置を用い、睡眠中の代謝を計測した。被験者に六角スリット加工あり条件(FACET条件)、加工なし条件(無加工条件)、それぞれの条件下で終夜睡眠を取ってもらい、PSGで睡眠深度を測定。寝返り等も同時に測り、睡眠ステージごとに解析し、六角スリット加工が深睡眠時の代謝を有意に低下させることを明らかにした。研究成果は、世界睡眠学会「World Sleep 2025」(開催地:シンガポール)で発表された。
日本人の睡眠時間は世界的に見ても短いことが知られており、近年睡眠への関心は一層高まっている。従来の睡眠研究は、終夜ポリグラフ調査(PSG)と呼ばれる脳波、眼球運動などを記録・分析する睡眠検査が中心であった。
だが、睡眠の重要な役割の一つと考えられる「疲労回復」については、標準化された評価法が確立していなかった。そこで同研究では、睡眠中に体内で起きるエネルギー消費等に直結する代謝に着目し、PSGだけでは把握できない疲労の回復量を明らかにすることを目指した。
代謝測定はスポーツ科学の分野では、呼気代謝測定と呼ばれる呼気中の酸素と二酸化炭素濃度によって運動時のエネルギー代謝を明らかにする方法が広く採用されているが、睡眠時に適用した先行研究はほとんど存在していない。同プロジェクトは、この測定法を応用し、睡眠の「疲労回復」を客観的に捉える先駆的研究である。
岡田氏らは、被験者にFACET条件、無加工条件、それぞれの条件下で終夜睡眠を取ってもらい、PSGで睡眠深度を測定。寝返り等も同時に測り、睡眠ステージごとに解析した。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある。レム睡眠とは、身体の筋肉が休んでいるのに対して脳は活動し、夢をみる睡眠である。一方、ノンレム睡眠は脳と身体が休息し、疲労回復に重要な役割を果たす。
ノンレム睡眠は各段階に分かれ、N1は“睡眠の入り口”、N2は”浅い睡眠”、N3は”深い睡眠”を指す。
同試験を通じてFACET条件における2つの結果が明らかになった。
1つ目の試験結果は、身体の動きが少ない睡眠状態において、代謝上昇を抑え、しっかりと休めていることがわかった。睡眠が深い「N3」と「レム睡眠」では、身体の動きが少ないステージであるが、姿勢を維持するために最低限の筋活動が行われている。一般的に、身体の筋活動が大きいと代謝も上昇する。FACET条件は無加工条件と比較すると代謝が低下しており、より少ない筋活動で姿勢を維持できている可能性が示された。
2つ目の試験結果として、身体の動きが大きい寝返り動作を少ない代謝で打てていることがわかった。睡眠が浅い「N2」ステージでのFACET条件では、無加工条件と比較し、寝返りの動作が大きいにもかかわらず代謝は少ない傾向が見られた。
さらに、寝返り後の代謝を分析すると、代謝は一時的に上昇し、その後速やかに収束しており、効率的な寝返りが行われていると推測できる。
これらの結果から、ファセットマットレスの六角スリット加工は、安静時における筋活動と寝返りによる代謝を低下させ、より効率的な休息を可能にしていると考えられる。