患者・国民を起点とした医療DX・社会実装の推進等を確認

アストラゼネカは、6月30日、2025年大阪・関西万博において「持続可能で強靭な保健医療システム」の構築をテーマに、大阪・関西万博テーマ事業「いのちを響き合わせる」(プロデューサー:宮田裕章氏)主催のPHSSRサミット「より強靭な保健医療システムの共創- すべての人のためのトランスフォームケア」を共催した。
同サミットにおいて、新たに日本版”非感染性疾患(NCDs)への予防・早期介入に向けた政策提言”の要点が発表され、一人ひとりの健康とウェルビーイングを支える社会の実現に向けて、国際的な連携や革新的なアプローチの重要性が強調された。
特に、サミットで議論された点として、NCDsへの予防的介入、科学的根拠に基づく政策立案(EBPM:
Evidence-Based Policy Making)、医療 DX の推進といった視点から、質の高いケアと健康格差の是正、さらに持続可能で強靭な医療体制のあり方についてグローバルと日本の多角的な議論が行われた。
医療DXについては、“日本における医療DXの活用と課題に関する共通認識”として4つのポイントが登壇したステークホルダー間で示され、共有された。
これらは、今後の政策形成や社会実装に向けた議論の土台となりうるものである。
PHSSRは、保健医療システムの持続可能性と強靭性を向上するためのパートナーシップで、世界経済フォーラムの傘下で、LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)、CAPRI(Center for Asia-Pacific Resilience and Innovation)、WHO Foundation、アストラゼネカ、フィリップス、IQVIA、ロシュ・ダイアグノスティックスといった、国際的な学術機関、非政府組織、ライフサイエンス、医療、ビジネス分野の団体が協力・推進するプロジェクトだ。日本では、慶應義塾大学と特定非営利活動法人 日本医療政策機構(HGPI)がプロジェクトをリードしている。
同サミットで発表された新しい「日本におけるNCDsへの予防・早期介入に向けた政策提言(要点)」では、ポピュレーションヘルス、ガバナンス、サービス提供、財政、労働力、医薬品・医療技術、環境の持続可能性の7つの主要分野において、NCDsに対して早期に対応するための課題と提言が提示された。
がん、循環器・腎・代謝疾患、慢性呼吸器疾患などのNCDsは、近年、世界的に深刻化している課題である。2021年には、NCDsによって世界で約4300万人1が命を落としており、この数字はパンデミックに関連しない全死亡の約75%を占めている。
日本においても総死亡数のうち約85%がNCDsによるものであり、深刻な人的被害にとどまらず、生産年齢人口の健康損失や医療需要の増大を通じて、日本の経済や社会保障制度に大きな影響を及ぼしている。つまり、持続可能な社会の実現に向けてNCDsの予防と管理に取り組むことは、日本にとって急務となっている。
NCDsの疾患の多くは、共通するリスク要因の管理、早期発見やスクリーニング、適切な治療を通じて予防することが可能で、その実施が求められている。また、すでに罹患している人々への健康対策を進め、社会全体への負担を軽減していくことも重要である。
同サミットの第一部では、NCDsに対する予防と早期介入の重要性を中心に議論が交わされ、日本における対策の中間成果として、「日本におけるNCDsへの予防・早期介入に向けた政策提言(要点)」が発表された。
ここでは、豊富な医療データと国際的なエビデンスに基づいた政策立案(EBPM)の必要性が強調される一方で、このような科学的な知見が施策や現場の実践に十分に反映されていない「エビデンスとアクションのギャップ」、および、予防段階での介入の遅れが現実的な課題として浮き彫りになった。
さらに、急速な高齢化や単身高齢者の増加といった人口構造の変化が、標準化されたNCDs対策の展開や継続的なフォローアップを難しくしている現状も指摘された。現場では、医療人材の不足や、金銭的インセンティブが健康維持や予防よりも治療中心に設計されている点が、行動変容の促進を妨げる要因として挙げられている。
こうした中、NCDs対策の実効性を高めるには、医療・介護、さらには労働といった各制度の連携を含む“横断的な戦略”が不可欠であり、地域主導によるプッシュ型介入、市民・患者参加による共創、リアルワールドデータを活用した地域密着型の施策設計、さらに成功事例の全国展開など、様々なアプローチによって「誰ひとり取り残されない」持続可能で強靭な医療システムの構築が求められる。
第二部では、NCDsへの対応力を高めるための医療システムの進化、とりわけ医療DXの推進について、国内外の先進事例と現場の視点を交えて議論が行われた。医療DXは、質の高いサービス提供の実現、健康格差の是正、さらにエビデンスに基づくEBPMの加速に寄与する不可欠な手段として位置づけられている。海外からは、電子カルテの標準化や統合医療情報基盤、テレモニタリングの活用によって患者アウトカムや業務効率が大幅に向上している事例を紹介。
これらの知見を踏まえ、行政、学術、産業界、患者当事者といった多様な立場から、日本における医療DXの現状と今後の展望について活発な意見交換が行われた。技術導入にとどまらず、医療の構造や現場の実装、国民との信頼関係の構築といった観点から議論が深められた。
医療DXについて、“日本における医療DXの活用と課題に関する共通認識”として次の4つのポイントが整理され、共有された。
1、患者・国民を起点とした医療DX・社会実装の推進
PHR(Personal Health Record)情報の利活用や革新的なデジタルツールの導入等を通じて、患者の利便性・納得感を高めるとともに、医療の質の向上を図る。医療DX・社会実装の推進にあたっては、デジタルアクセスに課題を抱える層への配慮や患者・国民目線での情報発信、サイバーセキュリティの確保が重要である。
2、医療情報の標準化・共有とEBPMの基盤整備
電子カルテ情報共有サービスやマイナ保険証を活用し、全国的な医療情報の標準化と相互運用性を確保する。医療の質・アクセス・アウトカム等の可視化を通じて、地域間格差の是正とEBPMを推進する。
3、医療の構造改革と人材・信頼の基盤づくり
現場の業務負担軽減には技術導入だけでなく、制度的対応が不可欠である。また、ICT導入支援だけでなく、医療従事者と生活者の双方に対するリテラシー向上、行動変容を促す教育設計、国民との対話を通じた信頼構築が求められる。
4、産官学民連携・国際連携によるイノベーションの創出
公的データベース公的データベースの仮名化情報等の利活用を可能とするシステム整備を進め、ユースケースの実証等を通じて、イノベーションを促進する。EXPO2025等の機会を活用し、医療DXに係る国際的な協力・連携を推進する。
これらのポイントは、政府の政策文書に示された方針とも整合しつつ、今後の政策形成や社会実装に向けた議論の土台となりうる。
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NCDsは、いまや国際的な政策アジェンダにおける重要課題の一つとなっている。 2025年9月には、第4回国連NCDsハイレベル会合が開催され、野心的で実現可能な政治宣言を通じて、2030年及びその先を見据えたNCDsの予防と管理に関する新たなビジョンの策定が予定されている。こうした地球規模の課題に対応するためには、各国がそれぞれの状況に即した意味ある政策的アクションを通じて貢献することが不可欠である。
なお、ギリシャ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペインもPHSSR政策提言を発表する予定だ。これらの国々に共通する調査結果や知見の概要は、本年後半に公表される。