森下竜一大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサーが大阪・関西万博の見所解説 神農祭市民公開講座

 神農祭本宮の23日に薬業クラブで開かれた神農祭市民公開講座では、森下竜一2025大阪・関西万博大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサー(大阪大学大学院医学系研究科寄附講座教授)が「いよいよ来るぞ!大阪・関西万博 大阪ヘルスケアパビリオン:2050年のミライの大阪」をテーマに講演。大阪・関西万博の見所を紹介し、万博開催の狙いや工事の進捗状況などについて説明した。なお、同講座は、後日、医薬通信社が協力してYouTube配信する。

大阪・関西万博は必ず間に合う!大阪経済のホップ、ステップ、ジャンプのための重要イベントに

 大阪・関西万博開幕まで150日を切った。4月13日から10月13日まで184日間の会期で行われる。「開幕までに準備が間に合わないのではないか」という懐疑的なメディアの声もあったが、「必ず間に合う」予約受付も始まっていて、大阪パビリオン初日の入場抽選も行われた。私の周辺では当っている人がおらず、かなり競争率が高いと推測される。「数あるパビリオンの中でも大阪ヘルスケアパビリオンは恐らく1・2番に人気があると思っている」
 前売り券は、まだ販売されており、是非入手して頂きたい。ちなみに、午前11時以降であれば何回でも入場できるチケットが3万円で販売されている。通常の前売り券は6000円なので、5回行けば元が取れるので、こちらのチケットも活用してほしい。
 前回の70年大阪万博は、6400万人が訪れた。その時、大阪は経済的にピークで、それ以降最近まで右肩下がりとなっている。今回の大阪・関西万博は2820万人の来場者を予定しているが、「大阪経済のホップ、ステップ、ジャンプを目指している」万博をホップ、2030年のIRでステップ、その後万博の跡地をどう使うか、ここがしっかりしてくれば本格的に関西経済がジャンプできるようになる。
 こうした意味で、大阪・関西万博は、非常に大きなイベントである。一つのイベントとしてではなく、あくまでも万博において社会的な実験をする場を作って行く、正に関西が社会実験の場になることを目指している。万博は、そのあと何をしていくかのレガシーを考える重要な切っ掛けである。

完成した大屋根リング

 大屋根リングは、世界最大クラスの木造建築である。リングの1周は万博の年にちなんで2025mあり、この上を歩くことができる。既に完成していて、22日に点灯式が行われ、ライトアップしている模様がネットニュースで流された。大屋根リングは、見に行くだけでビックリする。万博を批判していた人も、リングを見て「あれは良いな」と感心した人が非常に多い。問題は、このリングが万博終了後に取り壊される予定になっていることだ。「もったいない」という声も少なくなく、吉村知事も「何とか残せないか」と話している。万博の何を残してどのように使っていくか、そういう議論がこれから盛んになっていくだろう。

 万博会場では、海外パビリオンは、リングの中に林立する。同パビリオンは、タイプA47各国、タイプB17各国、タイプC92各国、タイプX5か国の合計161カ国が出展する。アメリカ、イタリア、オーストラリア、中国、ドイツ、フランスなどかなり独創的なパビリオンができ上がっている。パビリオンが完成していない国も少なくても外観だけは開幕までに間に合う。
 では、そうした国の内部は本当に間に合うのか。日本人は万博開幕時に全ての展示が揃っていないと気が済まない国民性を有する。だが、お国柄もあり「始まる時に全ての展示が揃っていなくても良い」と考えてい国もあり、万博協会も苦労している。
 大阪・関西万博の会場中央部に位置するシグネチャーパビリオン(約1000㎡)は、万博協会が出展するもので8つある。同パビリオンは、万博テーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するためのものだ。主なパビリオンは、命をテーマとした石黒浩氏の「いのちの未来」、落合陽一氏の「NUTL2」、宮田裕明氏の「Better Co Being」などがある。
 リングの外側の地下鉄サイドには、政府館、大阪ヘルスケアパビリオン、大手企業館などが建設されている。バス停があるリングの外側の海に近い場所は民間企業エリアである。
 企業・団体の民間パビリオンは、13パビリオンが出展する。その中でも住友グループの「住友館」、パナソニックの「パナソニック館」、三菱グループの「三菱未来館」などが大きなパビリオンとして挙げられる。
 パソナグループの「パソナ館」、吉本の「お笑い館」、ガスパビリオンの「おばけワンダーランド」、バンダイナムコホールディングスの通称「ガンダム館」も人気を博すだろう。ちなみに、リングの高さは20mで、「それを超える物は作ってはいけない」という規定があり、ガンダムは座った形での展示となる。また、大阪外食協会が「ORA外食パビリオン 宴~UTAGE~」を出展するので、食事も結構興味深いものが出てくる。
 前回の70年万博では地元のパビリオンが無かったが、今回はレガシーをどう活かすか、観光立国と言うことで万博に来たインバウンドの人をどうやって関西圏に送り出していくかをテーマとしている。こうした中、地元のパビリオン、特に関西パビリオンでは観光を目玉とした展示が行われる。
 エキスポホールなどにおいて、毎日様々なイベントが開催されることも見逃がせない。開幕日は、Adoのコンサートが行われる。「万博は、入場料を払うと後は全て無料なので、かなりお得なイベントとなる」

大阪ヘルスケアパビリオン

 大阪ヘルスケアパビリオンは、政府館とならんで1万㎡の最大規模のパビリオンである。地下鉄を降りてすぐ右側に大阪ヘルスケアパビリオンがあり、鳥の巣のような構造をしていてかなり目立つ。夜のライトアップも何種類かの色があって、幻想的な雰囲気を醸し出す。テーマは健康医療の観点からの再生を意味する「リボーン」である。その中は、2050年ミライの大阪で、その時にはどのような生活が待っているかをいち早く2025年に体験してもらう内容になっている。
 2050年に我々が想定しているのは「ホームドホスピタル」で、今、病院で行なわれている医療が殆ど家庭でできるようになる。現在は、病気かどうかクリニックで調べて貰わないと分からないが、2050年になれば家や会社、遊んでいる場所で自分の健康状態を捉えられるようになり、再生医療を受けなければならない人だけが病院へ行く。それ以外の殆どはセルフメディケーションにより前以て治療ができるようになる。あるいは、病気にならないように、食事、運動などを提案してくれる社会になっている。そういうものをいち早く体験してもらうことが大阪ヘルスケアパビリオンのメイン企画になっている。
 健康をテーマとした理由は、「大阪は健康状態が悪いのが背景にある」。大阪は、道修町に住友ファーマや塩野義製薬などの製薬企業があり、森下仁丹等のヘルスケア産業も集積している。だが、全国における大阪府民の健康寿命、要介護・要支援認定率は下から数えた方が早い。大阪人は‟めんどくさがり”気質で、人間ドックや特定検診に行かない(特定検診受診率:全国平均50%のところ大阪は30%)からだ。そこで、2050年の大阪では、普段の生活をしているだけで人間ドックや特定検診を受けている状態を実現する。‟大阪の街で暮らすだけで長生きできる”ようになることを想定して、大阪ヘルスケアパビリオンのテーマが選ばれた。
 大阪ヘルスケアパビリオンでは、「知る・感じる」、「体験できる」、「みんなで参加できる」という視点から、展示やイベントを通じて3つのサブテーマとなっている「Saving Lives(いのちを救う)」、「Emopowering Lives(いのちに力を与える)」、「Connecting Libes(いのちを繋ぐ)」にアプローチする。加えて、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)でもある。大阪ヘルスケアパビリオンでは、300万人を超える世界中の来場者の健康データが蓄積される。それらのデータを元に、「日本人が元気になるには何をすれば良いのか」の施策の探求も可能となる。
 具体的には、予約が必要な「リボーンゾーン」では、普段の生活をしていても自動的に健康状態が把握できる2050年の生活様式を体験できる。メインエントランスから入場すると「アンチエイジング・ライド」が円を描きながら稼働している空間を見上げる。ブリーフィングスペースがありライドに搭乗するための基礎データ登録を行い来場者個々のアバターが作成される。
 「アンチエイジング・ライド」での診断サマリーを元に、パーソナライズされたヘルスケア・フードドリンクを提供する「ミライのフードスタンド」、「ミライの医療」、テクノロジーとオーガニックが組み合わされた「街中のスキャンニングマシン、「ミライのヘルスケア」、「大阪の未来技術・産業」、「ミライの大阪モン」、「ミライのエンタメシアター」などフューチャリスティック体験を提供する。
 中でも、「ミライのエンタメシアター」のカプコンの展示は、人気ゲーム「モンスターハンター」の世界を床、天井、四方から拡張現実で体験できるコンテンツとなっており、目玉展示の一つである。
 パビリオン出口では、25年後の姿に変換された来場者個々のアバターが出現し、2050年の自分と出会える。2050年には100歳を超える人も安心して自分のアバターと面会できる。また、何回行ってもその度に違った自らのアバターに出会えるのも特徴となっている。
 2050年のミライ都市では、普段の自宅での生活と街を歩いているだけで診断が行われ、健康管理が可能になる。さらに、遠隔で医師の指導を受け、適切な在宅疾病管理で重症化予防、安心できる救急対応が構築されている。大阪・関西万博会場においても生体情報、位置情報により‟突然死ゼロ”を目指している。大阪ヘルスケアパビリオンでは、「たとえ100歳になっても生活習慣の気付きがあれば、そこを変革することで健康で長生きできる」という考えが展示のバックグラウンドとなっている。

2050年はiPS細胞による治療が繁用される時代に

 一方、予約の要らないゾーンの一つにアトリウムゾーンがあり、iPS細胞による心筋シートや「生きる心臓モデル」などの再生医療が展示される。2050年には、iPS細胞による再生医療は、心臓シートやパーキンソン病に関連するドパミン神経細胞、網膜色素上皮細胞などが全て実用化され、繁用される時代になっているだろう。今回、世界中の国からVIPクラスの人が来場し、再生医療の輸入に興味を持つ国がかなり出てくると予測されるので、ビジネスチャンス的にもiPSはとても重要なエレメントとなる。
 70年万博では、携帯電話、缶コーヒー、ブルガリアヨーグルト、フランスパン等が紹介され、いずれも実装化されている。アトリウムゾーンでは、唯一実装化されなかった人間洗濯機も、改めて「ミライの人間洗濯機」として展示される。同洗濯機は、体を綺麗にするだけでなく、入浴しながら動脈や肌年齢を計り、日々の体調管理を可能にする。また、宇宙でも入浴可能な立体型も展示する予定だ。へルスケアパビリオンの工事の進捗状況は非常に順調で、「引き渡しも終わり内装工事に入っている」
 1970年の大阪万博の太陽の塔には‟生命の木”が設置されていた。今回の万博では、未来型の野菜の水耕栽培と魚の養殖を同時に実施する「生命(いのち)の球」を大阪パビリオン前に設置する。
 温度域、塩分濃度など環境の異なる水槽を球全体に複数設置し、多様な環境下での魚類、野菜の組み合わせが展示される。
 大阪パビリオンの認知度向上と誘客促進を目的に、来年1月15日から10月13日までバーチャル大阪パビリオンも実施される。展示ゾーンでは、リアルのパビリオンへの出展企業や、大阪の中小企業、スタートアップ等による「2050年のミライの姿」や「2050年に繋がる現在の取り組み」が紹介される。
 メインステージでは、人気VTuberによる音楽ライブや、リアルと連携したイベント等が実施される。
 一番大きなソフトレガシーでは、ヘルスケアパビリオンとバーチャル大阪アプリが挙げられる。同アプリでは、万博に来場する世界中の人種、老若男女100万人以上のデータが蓄積される。アプリからは、どのような生活をすれば、健康データが得られるかのデータも得られる。また、事前申し込みによって、1万人規模の腸内細菌データを集め、健康についての分析を行う。
 こうしたデータは、パビリオン参画企業が使用できる権利を持っていて、個人情報を外した後にそれぞれのデータを元にしてより健康に活かすためのビッグデータとして使用される。
  

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