腸内細菌科細菌減少による薬剤耐性や腸管感染症への効果も期待
明治と東海大学医学部付属八王子病院消化器内科の鈴木孝良教授らの研究グループは、明治保有の乳酸菌「Lactobacillus paragasseri OLL2716 株」を含むヨーグルトの継続摂取が、プロトンポンプ阻害薬(PPI)単剤服用あるいはアスピリンとの併用による腸内細菌叢の変化を緩和する可能性があることを明らかにした。
また、OLL2716株を含むヨーグルト摂取は、薬剤耐性や腸管感染症との関連がしばしば報告されている細菌群であるEnterobacteriaceae(腸内細菌科細菌)の減少を介して、こうした課題に貢献できる可能性が示された。
これらの研究成果は、5月24 日~ 26日に開催された第 78 回日本栄養・食糧学会大会で発表された。
研究成果の概要は、次の通り。
・PPI服用者(PPI群)あるいはPPIとアスピリン服用者(アスピリン群)の腸内細菌叢は、両剤非服用者(対照群)の腸内細菌叢と有意に異なることが示された。
・OLL2716株を含むヨーグルトを継続摂取した結果、3群の腸内細菌叢には有意な差がなくなり、OLL2716株を含むヨーグルトはPPIや、PPIとアスピリン服用による腸内細菌叢の変化を緩和する可能性が示唆された。
・OLL2716株を含むヨーグルトを摂取したPPI群では、薬剤耐性や腸管感染症との関連がしばしば報告されているEnterobacteriaceae(腸内細菌科細菌)の相対存在量が有意に減少した。
日本人の死因の多数を占める心疾患や脳・血管疾患の予防には抗血小板薬であるアスピリンが広く用いられている。また、アスピリン起因性の小腸粘膜傷害の予防として使用されるPPIは、腸内細菌叢に強く影響を与えることが報告されている。今回、OLL2716株を含むヨーグルトの継続摂取により、PPI服用者やPPIとアスピリン服用者と両剤非服用者の腸内細菌叢に有意差がなくなり、PPIや、PPIとアスピリン服用による腸内細菌叢の変化が緩和された可能性が示唆された。
また、OLL2716株を含むヨーグルトを摂取したPPI群では摂取後に、Enterobacteriaceaeの相対存在量が有意に減少した。
これまでの研究でOLL2716株を含むヨーグルト摂取はアスピリン起因性の小腸粘膜傷害を改善することが示されている。同研究グループでは、そのメカニズムについて、OLL2716株を含むヨーグルトが腸内細菌叢に影響を与えたことによる可能性を考えた。アスピリン服用者は腸内細菌叢に大きく影響を与えるPPIを併用することがよくある。そこでOLL2716株を含むヨーグルトがPPI服用者および、PPIとアスピリン服用者の腸内細菌叢に与える影響を評価した。
評価方法は、PPI服用者(PPI群)、PPIとアスピリン服用者(アスピリン群)および両剤非服用者(対照群)にOLL2716株を含むヨーグルト112mLを6週間毎日2本摂取して、摂取前後で糞便を採取し、腸内細菌叢解析を行うもので、解析対象は、対照群16例、PPI群17例、アスピリン群16例で次の結果が得られた。
①α多様性の指標の一つであるShannon指数については、OLL2716株を含むヨーグルト摂取前後のいずれにおいても群間で有意差は認められなかった。
②β多様性※8の指標の一つであるBray-Curtis非類似度について、OLL2716株を含むヨーグルト摂取前は対照群とPPI群および対照群とアスピリン群で有意差が認められた。一方で、OLL2716株を含むヨーグルト摂取後はそれら群間での有意差は認められなかった(表1)。
③PPI群において、OLL2716株を含むヨーグルト摂取前に比べ、摂取後ではEnterobacteriaceae(腸内細菌科細菌)の相対存在量が有意に減少した(図1)。
異なるサンプル間での細菌叢組成の類似の程度を示すβ多様性の解析から、OLL2716株を含むヨーグルトの継続摂取により、PPIや、PPIとアスピリン服用による腸内細菌叢の変化が緩和された可能性が示唆された。
また、Enterobacteriaceaeは薬剤耐性や腸管感染症との関連がしばしば報告されている細菌群であることから、OLL2716株を含むヨーグルト摂取はEnterobacteriaceaeの減少を介して、これら課題に貢献できる可能性が考えられる。
OLL2716株を含むヨーグルトの継続摂取はPPIや、PPIとアスピリン服用による腸内細菌叢の変化を緩和し、Enterobacteriaceaeの相対存在量を減少させることで、人々の健康に貢献できる可能性が示唆された。