ファンペップは、「新規ペプチド医薬・抗体誘導治療薬開発による未来創造に向けて」をテーマにR&D説明会を開催。三好稔美代表取締役社長が研究開発戦略、中神啓徳大阪大学大学院医学系研究科 健康発達医学寄附講座招聘教授が「新規ペプチドの発見から治療薬開発研究への道程」について説明した。
「ファンペップの研究開発戦略 ~よりよい健康生活を求めて~」をテーマに講演した三好氏は、ファンペップの機能性ペプチドとして「ヒト由来抗菌ペプチドAG30を起源としている」と解説。
その中で、塩野義製薬と提携し、皮膚潰瘍治療薬として開発を進めている機能性ペプチド「SR-0379」について、「抗菌作用と血管新生作用の2つを持っているため、保菌状態で感染しそうな状況(クリティカルコロナイゼーション)に使用することで、現行よりも治療期間の短縮が期待される」と訴求した。
SR-0379は、前回のP3試験(01試験)の事後部分集団解析により特定の皮膚潰瘍患者に対する有効性が確認された。01試験の対象患者が有する「植皮等の外科的処置が必要な皮膚潰瘍」は、皮膚が深く欠損した状態にあり、皮膚の再生組織である良性肉芽の形成を促進して創底の状態を改善し、植皮等が生着可能な状態まで皮膚潰瘍を早期に改善させることが重要である。
比較的大きい皮膚潰瘍に対しては、早期の肉芽形成を促進する陰圧閉鎖療法が積極的に行われているが、01試験の事後部分集団解析で効果が確認された。
今回のP3試験(02試験)は、01試験で効果が確認された皮膚潰瘍患者を対象に有効性の再現性を確認することを目的としたもの。「02試験で対象とする比較的小さな皮膚潰瘍に対しては機器の仕様や取扱者/取扱環境から陰圧閉鎖療法の適用は限定的でありアンメットメディカルニーズが存在する」(三好氏)。
02試験の対象者は、外科的処置(縫合、植皮、有茎皮弁)が必要な皮膚潰瘍を有する患者(潰瘍サイズ(長径×短径)36㎝2未満)で、外科的処置に至るまでの日数を主要評価項目とする。用法・用量は、SR-0379又はプラセボを1日1回、28日間投与、目標症例数は142例。02試験は、2025年第1Qに試験を開始し、2026年に終了を予定している。
一方、中神氏は、SR-0379による創傷治癒治療の社会的価値として、①QALY(QOLと余命延長の両方)向上、②費用便益③アドヒアランス改善を挙げた。
QALYでは、移動の程度、身の回りの管理、普段の活動が改善され、痛み/不快感や、不安/ふさぎこみが軽減される。アドヒアランス改善では、医療負荷の軽減(通院頻度の減少、治療の短期間化)が期待される。加えて、SR-0379は、「早老症の皮膚潰瘍にも使用できる」メリットがある。
中神氏は、抗体誘導ペプチドを用いた新規治療法の創出にも言及した。その一つとして、「メカノストレスで誘導される老化不全心筋が分泌するIGFBP7は、心不全の重症化を予測する」と紹介。
その上で、「本年7月、東京大学医学系研究科の加藤愛巳特任教授らの研究グループは、心不全マウスを用いてIGFBP7が心筋細胞のミトコンドリア代謝を抑制し、心不全を起こすことを明らかにした」と報告した。
さらに、IGFBP7に対するワクチンを中神氏らと共同開発され、「心不全マウスに投与したところ心機能が改善し、世界で初めて心不全ワクチンの開発に成功した」
中神氏は、生活習慣病(高血圧・脂質異常症・糖尿病・認知症)のワクチンについて、「高血圧・脂質異常症等に対する経口薬連日投与を、年に数回の治療ワクチンで対応すれば高齢化に伴うポリファーマシー(多剤服用)の解決、服薬管理・薬剤アドヒアランスの改善に繋がる」と指摘。
その一方で、「通院回数減少による在宅での健康管理、免疫の多様性に対応するための個別化医療が課題となる」と述べた。
他方、国内のアルツハイマー病患者は542万人に上る。中神氏は、アルツハイマー病の新しい治療薬であるアミロイドβを標的とした抗体医薬「レカネマブ」についても解説。
同剤は、「アミロイドβの蓄積が確認されたアルツハイマー病患者で、認知症の症状が軽度の人と軽度認知障害の人(国内で約542万人)を対象とする」とした上で、「脳内のアミロイドβを取り除く初めての薬剤で、疾患の進行を遅らせる効果が期待される」と述べた。
レカネマブの薬価は、1回500ミリグラム11万4443円、1年間の治療で約298万円で、公的医療保険が適用される。投与方法は、点滴で2週間に1度、1年半まで。患者の自己負担額は1~3割。高額療養費制度によりさらに抑えられる。患者の負担額の上限は、高額療養費制度により、70歳以上の一般所得層の場合、外来による負担額の上限は年間で14万4000円になる。
アルツハイマー病ワクチンは、脳内伝播を介在し、神経線維の連絡に沿った領域に出現するタウ伝播を標的としたものである。ファンペップでは、ペプチドワクチン技術を利用して治療の標的として最適なタウリン酸化部位を網羅的に探索する手法によってアルツハイマー病ワクチン開発を進めていく。
ファンペップが開発を予定している老化細胞除去ワクチンも見逃せない。老化した細胞は様々な炎症性物質を分泌する(老化関連分泌現象 = SASP)。この炎症性物質は、周囲の細胞に対して老化促進し、組織・臓器の機能低下を起こし、発がんを含む様々な加齢性疾患の原因の一つとなっている。
中神氏は、「老化細胞の除去により臓器・組織の機能改善が期待できる。老化細胞を除去できるように設計されたマウスでは、個体寿命の改善や発癌を含む老化関連疾患の抑制が認められた」と報告。その上で、中神氏らが開発した「老化T細胞の蓄積を抑制するCD153ワクチン」を紹介した。
最後に、「早期からがんや難病、生活習慣病治療の発症を予防するワクチンは、遺伝性疾患患者のQOL改善、健康寿命の延伸等のメリットが期待できる」と明言。そのためには、「予防治療に対する高い安全性の確保や、治療介入に必須な個別化解析の課題をクリアする必要がある」と指摘した。