塩野義製薬は23日、中国平安保険と長期戦略的パートナーシップ構築に向けた資本業務提携に関する基本合意書を締結したと発表した。今回の基本合意書締結は、塩野義製薬が10年、20年先を見据えて持続的成長を遂げるため、日米の医薬品市場への注力に加えて、次の10年間最も大きな市場成長が見込まれる中国での事業展開の具現化を目的としたもの。塩野義製薬と中国平安保険との長期的かつ強固な戦略的パートナーシップの構築により、「アジア発のグローバルスタンダードシステムの確立」を目指す。
今後のスケジュールは、6~7月に資本業務提携を締結し、両社で新ジョイントベンチャー(JV)を設立する予定。出資比率は、塩野義製薬51%、中国平安49%。新JVが計画する業務内容は、「データドリブンの創薬・開発」、「AIテクノロジーによる製造・品質管理体制の構築」、「O2Oを活用した、販売・流通プラットフォームの構築」など。
業務提携と合わせて資本提携も実施し、塩野義製薬は中国平安保険に635万6000株(発行済み株式比率の2%)を譲渡し、株式対価として335億円を受け取る。
大阪市内の本社で会見した手代木功社長は、デジタルネィティブ、SDGsネイティブ時代の到来において同社が特に重要視している事項として、「IT/AI技術の革新などの急速な進歩」、「世界人口の増加、高中所得国における少子高齢化の進行」、「気候変動に伴う疾病構造の変化、ヘルスケアに対するニーズの変化」を指摘。
その上で、「こうした急速に変化する時代に対応するには、自社の創薬型製薬企業としての強みを磨き続けるとともに、異なる強みを持つ他社・他産業と資本業務提携して、ヘルスケア領域の新たなプラットフォームを構築する必要がある」との考えを強調した。
中国平安保険は、中国最大の総合保険グループで、2019年度実績は、売上高約20兆円、顧客数2億人。祖業である保険をコアにしながら総合金融業を展開、その後、娯楽・移動・住居にも進出し、近年では特にヘルスケア事業に注力。他社に先駆けてデジタル化に成功し、顧客数を拡大した。事業基盤、金融資産、独自IT/AIテクノロジーをもとに、ヘルスケアプラットフォームを構築しているのが特徴だ。
手代木氏は、「中国平安保険ヘルスケアサービスに当社の強みの治療ソリューションを融合することで、日米欧のこれまでの枠組みではできなかった新しい取り組みができる」と明言。さらに、「今回の新型コロナウイルスのようなパンデミック時にも速やかに対応できるトータルヘルスが実現できる」と期待を寄せる。
特に、中国平安保険のヘルスケアプラットフォームの一つの「ムコドクター」は、中国の医療施設をオンラインで結んで、「適切な患者を適切な医師に紹介する効率的なシステム」として注目される。塩野義製薬では、「まず第一歩として、同システムを活用した同社製品・医療サービスの提供を行い」、さらには、「新しい薬剤や診断薬、デバイスの開発を中国平安保険とともに実施していく」
手代木氏は、提携によるR&Dコンセプトにも言及し、「生活データから診断データ、治療法の効果まで関連付けることで、特定疾患での層別化治療プラットフォームを構築を目指す」と強調。
さらに、臨床試験については、「日欧米では、実地医療の中でリアルワールドデータを活用している。だが、中国をはじめとするアジア諸国ではこれからデザインを始めるため、同データを最初から意識した仕組みができる可能性がある」と断言。その上で、「クオリティの高いリアルワールドデータがあれば、コントロール群に活用できると考えられる」と説明し、「臨床試験を減らして開発期間を短縮すれば、適正価格の医薬品を早く患者に届けることが可能になる」と訴求した。
中国平安保険との戦略的パートナーシップ構築による「アジア発のグローバルスタンダードシステムの確立」については、「現在、グローバル人口は70億人だが90億人まで増加する。統計では、増加する20億人の殆どがアジア・アフリカ諸国と言われている」と報告。従って、「これからは、最も人口が増え絶対数の多いアジア・アフリカに合致した医薬品や医療の仕組みを考えるのは当然である」と力説し、「現地に根を下ろして、そのニーズに合った医薬品をできるだけ早く作っていくのがグローバルな提供の近道になる」と訴えかけた。